7話 『創造の準備』
一つの卵料理が食べれるからと言って、全て食べれるとは限らない。
体を地面につけ、空を見ていた。
……あの裏世界に戻ってきたみたいだ。
「な、なによ今の光」
セナの声が聞こえた。
「あ……キョウカさん、大丈夫ですか?」
マミが駆け寄り、私の背中を押さえながら起き上がらせた。
「はい……」
「キョウカさん。何かを思い出されたのですか?」
マミがそう訊いてきた。
……なんでそのことを?
私と同じものをみたのかな。
「あの、キョウカさん?」
「はい。一つ思い出しました」
「……どんなものですか?」
「魔法の言葉と、私の記憶です」
マミはきょとんとした。
「ま、魔法の言葉ですか……。ええと、メルヘンチックですね!」
マミは苦笑する。
魔法の言葉なんて言うんじゃなかった。
絶対引いてるよ、これ。
「キョウカ。この本何?」
セナが頬を膨らませ、本を抱えてやってきた。
そういえばこの本、あの部屋にあったものと同じだ。
本は、どんな力を加えても開くことはなかった。
見えない力によって閉じられている。
……見えない力?
……昔やったゲームで、見えない力という謎のワードで閉じられている扉があった。
もう、ゲームの名前は忘れてしまったけど。
「これはたぶん、日記です」
「……日記?」
「はい。真二のものです」
セナは唖然としていた。
「し、真二くんの日記がなぜこの世界に……? なんでキョウカがそれを持って……? それより彼、こんな女の子みたいなことしてたの!?」
いや、今はそこ気にするところじゃないでしょ。
女だって男だって、日々の他愛ない日常を日記として留めておいてもいいんだよ。
「……この中身、見たの?」
「はい。真二と私のことが書いてありました」
「……」
セナは黙り込んでしまった。
◇
――あの日記に書いてあった部分の記憶、全て思い出した。
私が真二の部屋に来た時、とても信二を警戒していた。
警戒? 何故警戒したかは分からないが、男という存在自体が嫌悪対象だったのだ。
連れてこられた日以降、声は出せたが真二とは殆ど話さなかった。
殆ど無視していた。
無視……と言っても、話を聞かなかったわけでなく、ただ返事をしなかっただけ。
何故? 話したくなかったからかな。いや、それ以外の理由があるのかも。
そこは覚えていない。
最初に来た日から、真二はご飯を作ってきてくれた。
あの日記の通り、全然食べなかった。
ご飯があることは嬉しかったし、真二には申し訳なかった。でも、
――早く死にたかった。
餓死だってよかった。
あの町で野垂れ死んで、そのままどこかの焼却場で燃やされても良かった。
変な薬を飲んでもよかったし、首を吊ってもよかった。
あの部屋にそんなものはなかったが。
そして、真二の部屋から飛び降りたくて、ずっと外を見つめてた。
真二がいるとき以外も、ずっとそうしていた。
そう言えば私、なんで死にたかったんだろう。
友達にいじめられたのかな。
それとも、誰かに死ねと言われたから?
いや、町で目を覚ました日から、罪を犯したこともないはずなのに、変な罪悪感が身体を締め付けてきて、少しずつ苦しくなってきて……。
それで死のうと思ったんだ。
理由は知らない。
12月5日――冷えた朝に、真二がハムとかスクランブルエッグとかを作ってくれた。
体が衰弱しきっていて、ずっとお腹も減っていた。
真二が仕事で出かけた後、ハムを一口だけかじった。
香ばしくて、美味しくて、甘くて……。
久々の食べ物だった。
続けてスクランブルエッグも食べた。
だけれど、目玉焼きはどうも苦手で、手が付けられなかった。
真二には、食べれないとは言わずに嘘をついた。
よく、「なんで卵焼きとかスクランブルエッグとか生の卵は食べれるのに、目玉焼きだけ食べれないの?」って言われるけど、なんか無理なんだ。察してほしい。
特に、白身の部分がだめなんだ。察してほしい。
(ここだけ執筆者の話です)
――あれから、日数が過ぎ、真二がゲームの話をした。
あの暗い世界とは別の世界で、町や村、国まで作って育成して行ったり、世界を救うたびに出たり。非現実的なものが私は好きだった。
その時だけ自分を忘れられる気がして、とても楽しかった。
それから真二が色々なゲームを買ってきた。
主に私の好きな育成ゲームやRPGを買ってきてくれた。
――真二が仕事でいない日、全てのゲームをやりつくした後に考えていた。
『マジッククリエイト』。
漢字で書くと魔法創造。現実を全て忘れさせてくれる、素晴らしい魔法。
自分の好きな効果が魔法で実現できる。
こんなことがあればいいなって思いながら、私はあれを書いていた。
それを見た真二は、パソコンで何かしらの作業をし始めた。
何をしているか分からなかったが、その日、真二は夜通しでパソコンを使っていたのを覚えている。
それからの記憶はまだ思い出せていない。
◇
「――魔法創造……」
そう呟いた。
次の瞬間、周囲が淡い光に包まれ、地面には奇妙な模様が赤く描かれた。
〈魔法創造陣オン。属性、位設定、魔力消費量、効果・威力の設定、名称、の順にお決めください〉
次話もよろしくお願いいたします!




