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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第3章 【裏世界のおはなし】
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5話 『元に戻す手段を探して』

「バグというのは、プログラム上……いや、ゲームで起こる不可解な事象と言うのかしらね。その中身には色々あるけれど、この世界を見た方が早いわ」


 普通ではない光景が広がっていることは重々分かる。


 周りを見て思った。

 さっき私たちが乗った船意外に、他にも船が沢山ある。

 ここが港町というのだろうか。


「物体の変色とか、人間の部位が地面に埋まってるとかあるでしょ、それよ。バグの多い世界、つまり、この裏世界」


 あの建物や船にあった色の変色、それに人間の頭部……。

 ああいうのをバグっていうのか。

 そういえば……この町にも、建物の壁に不自然な穴が開いていたり、地面に人間の部位が埋まっていたり……異様だ。


「これでもゲームが動くから、不思議なものなのよ」


 セナは自分の頬をつねった。


「それよりマミ。あなた、なぜこの世界をゲームだと?」


 セナは前かがみになり、右ひじを膝に置いた。


「……ゲームという存在を知っていたので」

「……そうね。あんな辺鄙へんぴな街でも、ゲームの話題は新聞にも出ていたし」


 私がいたあの町も、そのような所なのだろうか。


「よし、行きましょう。どうせフラグも壊れてるだろうし」

「行くって、どこへ?」

「ケークエイクって町よ」


 ケークエイク? 何その変な名前の町。

 誰が考えたのかな。きっと変な人なんだろうな。


 セナはベンチから立ち上がり、衣服についた埃を払った。

 私たちは歩いてその町に向かう。


 道中、変な生物がうようよしていた。

 人間ではない。

 俗にいう、モンスターだ。

 植物に足が生えていたり、トカゲのような鱗をつけた尻尾の長い生物がいたりと、気味が悪かった。


 しかし、気味の悪い生物は襲ってくることはなかった。

 何かを探してウロウロしているような、そんな感じだ。


 乾いた地面には、当然のように人間の体の部位が埋まっていた。

 完全に慣れたわけではないが、少し慣れてきた。


 目の前の異様な光景が普通に存在していると、それが変に見えなくなる。

 普通に見えてくるのだ。

 もしかしたら、この世界ではなく私たち自身がおかしいのではないか、そうも思ってしまう。



 歩いているうちに、小さな町が見えてきた。

 外壁はなく、石造りの家と多彩なテントがある町だ。

 その町に入ると、奇抜な衣装を着た人たちが何人も道端に座っていた。


 私たちがきた瞬間、手に乗せていた球を宙に投げ始める。

 片方の手から片方の手に。幾度も、幾度も。


 顔を塗りつぶされている、一人の人間はこう言った。


「空は青いですか? 私の。それもきっと、最高のエンターテイメントになるでしょう」


 何の話?


「ええ、それはきっと、赤くて綺麗な宝石なのでしょう」


 隣にいた人間がそう返した。


「よく進行不可にならないわ、これで」


 眉をひそめてセナが言った。


「安定もしていますから、もしかしたら意図的に作られたのかもしれません。何かの目的のために」


 マミはそう言って、私の顔を見た。

 「顔になにかついてます?」と訊くと、マミは笑顔で首を左右に振る。


「シルエのテントは……あれね」


 セナが指で示したところには、黄色いテントが一つ。

 そこへ着くと、外には筋骨隆々な人や、物静かな人、それに子どもが二人いた。

 テントの中では、シルクハットを被った人と、ぼさぼさの髪をした人が座っている。

 皆、顔が黒かった。


「……あのぼさぼさ髪、知らない?」


 セナが私に言ってきた。


「いいえ」


 そう返すと、少し寂しげな顔で俯いた。


「……そうよね、貴方の兄ではないものね」


 兄?

 私に兄なんていたのか。

 正確には、この身体の持ち主に兄がいたということになるのかな。

 名前は確か……なつめ。


 ……全然覚えてないや。


「ああ、ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、殴らないで。蹴らないで。お父さんやめてよ。お母さん、なんで助けてくれないの? 助けてよ、いかないで」


 物静かな女性が、その場で突然うずくまる。


 蹴らないで――殴らないで――


 そんな言葉を繰り返していた。


 次に、その隣にいた二人の子どもたちが殴り合いをし始める。


「お前のせいだ。お前のせいで捨てられた」

「お前だ、お前が悪いんだ」


 お互いに、お前が悪い、と言い合っていた。


「エミは家庭内暴力で性格が分離して、シェイクとブラッドは、親に捨てられたのね……だから孤児院に」


 セナがそう言った。

 エミだとか、シェイクやらブラッドやら、誰の話をしているのか。


「僕は死にたくない。お父さんみたいに、無残に死にたくない」


 筋骨隆々な人が拳を握りしめながら言った。


「……裏事情もみえる世界、それも裏世界か。バグだけってわけではないあたり、意図的なものがあるとしか思えない」


 セナは目をつむり、顎を手で支えていた。


 ちなみに、テントの中にいた二人は、何も語ることはなかった。




 それから数分後、セナは頭を抱えその場をウロチョロし始める。


「あぁ、どうしよう。この世界、何とかする方法はないかしら。マミ知らない?」

「え、そこまでは知りませんよ。ゲームということ、私が人間であるという事くらいしか」

「うーむ……この規模だと私だけで直せるものではなくなってくるなぁ……最近あの人と連絡取れないし」


 セナがマミを揺さぶる。


「なんか出してよー、あなたのタレント能力【創造】でしょ? 直せるくらいの何か出せるでしょ~?」

「そんな、私ドラちゃんじゃないんですから。私ができるのは、この世界でのみ使用可能な道具の生成、あと自分の強化くらいですよ」


 ドラちゃんって誰? そもそも創生とは?

 マミはセナの肩を掴んで無理やり押しのけた。


「杏果! 何でもいい、絞り出して。杏果が原因なのよ。何かないの?」


 セナは私に近づくなり、腰に備え付けていた布製のポーチに手をやった。


「なんかしら……なんかしら――ん?」


 セナが一冊の本を取り出した。


「こんなの私が入ってた時にあったかな。……あ、あれ、開かな――」


 次の瞬間、その本は光り出し、セナの手を離れて空中に浮き始める。

 本が開くと同時に、白い閃光が放たれ、私たちの眼をくらませた。


 目を開けても真っ暗だ。

 いや、目を開けてるかどうかも分からない。

 それに、固い地面を踏んでいる感覚も消えた。





 ――いきなり視界が開けたと思うと、見覚えのある部屋で私は立っていた。

次話もよろしくお願いいたします!

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