5話 『元に戻す手段を探して』
「バグというのは、プログラム上……いや、ゲームで起こる不可解な事象と言うのかしらね。その中身には色々あるけれど、この世界を見た方が早いわ」
普通ではない光景が広がっていることは重々分かる。
周りを見て思った。
さっき私たちが乗った船意外に、他にも船が沢山ある。
ここが港町というのだろうか。
「物体の変色とか、人間の部位が地面に埋まってるとかあるでしょ、それよ。バグの多い世界、つまり、この裏世界」
あの建物や船にあった色の変色、それに人間の頭部……。
ああいうのをバグっていうのか。
そういえば……この町にも、建物の壁に不自然な穴が開いていたり、地面に人間の部位が埋まっていたり……異様だ。
「これでもゲームが動くから、不思議なものなのよ」
セナは自分の頬を抓った。
「それよりマミ。あなた、なぜこの世界をゲームだと?」
セナは前かがみになり、右ひじを膝に置いた。
「……ゲームという存在を知っていたので」
「……そうね。あんな辺鄙な街でも、ゲームの話題は新聞にも出ていたし」
私がいたあの町も、そのような所なのだろうか。
「よし、行きましょう。どうせフラグも壊れてるだろうし」
「行くって、どこへ?」
「ケークエイクって町よ」
ケークエイク? 何その変な名前の町。
誰が考えたのかな。きっと変な人なんだろうな。
セナはベンチから立ち上がり、衣服についた埃を払った。
私たちは歩いてその町に向かう。
道中、変な生物がうようよしていた。
人間ではない。
俗にいう、モンスターだ。
植物に足が生えていたり、トカゲのような鱗をつけた尻尾の長い生物がいたりと、気味が悪かった。
しかし、気味の悪い生物は襲ってくることはなかった。
何かを探してウロウロしているような、そんな感じだ。
乾いた地面には、当然のように人間の体の部位が埋まっていた。
完全に慣れたわけではないが、少し慣れてきた。
目の前の異様な光景が普通に存在していると、それが変に見えなくなる。
普通に見えてくるのだ。
もしかしたら、この世界ではなく私たち自身がおかしいのではないか、そうも思ってしまう。
歩いているうちに、小さな町が見えてきた。
外壁はなく、石造りの家と多彩なテントがある町だ。
その町に入ると、奇抜な衣装を着た人たちが何人も道端に座っていた。
私たちがきた瞬間、手に乗せていた球を宙に投げ始める。
片方の手から片方の手に。幾度も、幾度も。
顔を塗りつぶされている、一人の人間はこう言った。
「空は青いですか? 私の。それもきっと、最高のエンターテイメントになるでしょう」
何の話?
「ええ、それはきっと、赤くて綺麗な宝石なのでしょう」
隣にいた人間がそう返した。
「よく進行不可にならないわ、これで」
眉をひそめてセナが言った。
「安定もしていますから、もしかしたら意図的に作られたのかもしれません。何かの目的のために」
マミはそう言って、私の顔を見た。
「顔になにかついてます?」と訊くと、マミは笑顔で首を左右に振る。
「シルエのテントは……あれね」
セナが指で示したところには、黄色いテントが一つ。
そこへ着くと、外には筋骨隆々な人や、物静かな人、それに子どもが二人いた。
テントの中では、シルクハットを被った人と、ぼさぼさの髪をした人が座っている。
皆、顔が黒かった。
「……あのぼさぼさ髪、知らない?」
セナが私に言ってきた。
「いいえ」
そう返すと、少し寂しげな顔で俯いた。
「……そうよね、貴方の兄ではないものね」
兄?
私に兄なんていたのか。
正確には、この身体の持ち主に兄がいたということになるのかな。
名前は確か……なつめ。
……全然覚えてないや。
「ああ、ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、殴らないで。蹴らないで。お父さんやめてよ。お母さん、なんで助けてくれないの? 助けてよ、いかないで」
物静かな女性が、その場で突然うずくまる。
蹴らないで――殴らないで――
そんな言葉を繰り返していた。
次に、その隣にいた二人の子どもたちが殴り合いをし始める。
「お前のせいだ。お前のせいで捨てられた」
「お前だ、お前が悪いんだ」
お互いに、お前が悪い、と言い合っていた。
「エミは家庭内暴力で性格が分離して、シェイクとブラッドは、親に捨てられたのね……だから孤児院に」
セナがそう言った。
エミだとか、シェイクやらブラッドやら、誰の話をしているのか。
「僕は死にたくない。お父さんみたいに、無残に死にたくない」
筋骨隆々な人が拳を握りしめながら言った。
「……裏事情もみえる世界、それも裏世界か。バグだけってわけではないあたり、意図的なものがあるとしか思えない」
セナは目を瞑り、顎を手で支えていた。
ちなみに、テントの中にいた二人は、何も語ることはなかった。
それから数分後、セナは頭を抱えその場をウロチョロし始める。
「あぁ、どうしよう。この世界、何とかする方法はないかしら。マミ知らない?」
「え、そこまでは知りませんよ。ゲームということ、私が人間であるという事くらいしか」
「うーむ……この規模だと私だけで直せるものではなくなってくるなぁ……最近あの人と連絡取れないし」
セナがマミを揺さぶる。
「なんか出してよー、あなたのタレント能力【創造】でしょ? 直せるくらいの何か出せるでしょ~?」
「そんな、私ドラちゃんじゃないんですから。私ができるのは、この世界でのみ使用可能な道具の生成、あと自分の強化くらいですよ」
ドラちゃんって誰? そもそも創生とは?
マミはセナの肩を掴んで無理やり押しのけた。
「杏果! 何でもいい、絞り出して。杏果が原因なのよ。何かないの?」
セナは私に近づくなり、腰に備え付けていた布製のポーチに手をやった。
「なんかしら……なんかしら――ん?」
セナが一冊の本を取り出した。
「こんなの私が入ってた時にあったかな。……あ、あれ、開かな――」
次の瞬間、その本は光り出し、セナの手を離れて空中に浮き始める。
本が開くと同時に、白い閃光が放たれ、私たちの眼をくらませた。
目を開けても真っ暗だ。
いや、目を開けてるかどうかも分からない。
それに、固い地面を踏んでいる感覚も消えた。
――いきなり視界が開けたと思うと、見覚えのある部屋で私は立っていた。
次話もよろしくお願いいたします!




