4話 『塗りつぶされた黒い顔』
今回もひどい文章力。
黒く染まった森を抜け、船が定着している桟橋にやってきた。
「今から大陸に行くわ」
橋を渡って船に乗ると、桟橋と船をつないでいた鎖がほどけた。
セナが、甲板の後方にある舵を取る。
「帆は開かなくていいから! どうせ風ないし!」
セナは舵を切ってそう言った。
船が動き出し、少し揺れて倒れそうになる。
「わっ」
マミが支えてくれたおかげで、倒れることはなかった。
この船は何を原動力にして動いているのだろう。
風がなく、海の揺れもない、ない……!?
船から少し身を乗り出して海を見ると、赤黒く濁っていたり、人の身体が浮いていたりしていた。
血の海みたいだ。
地獄なのか、ここは。
「裏世界とはいえ、ここまで壊れてるなんて……」
唖然とした顔で、舵を取っていたセナがそう言った。
「セナさん。裏世界とは、具体的にどのような世界なのでしょうか」
マミが垣立に両腕をのっけ、海を眺めながらそう言うと、
「そうね……。詳しくは知らないけど、裏の顔が視れる世界、とでも言いましょうか」
「裏の顔?」
「そう、例えば人。心の中に宿した一つの闇が表面に出てくる」
心の闇……誰しもが一つは抱えていそうなものだ。
私は分からないけど。
「へえ」
「人っていうのはそういうもん。別のものに託けて、自分の本心を隠してる。容姿端麗で人気者の美女であったって、何かしら裏があるのよ」
まるで、その美女を見てきたかのような言い草だった。
「さ、着いたわよ」
いつの間にか、船は先ほどとは別の大きな桟橋に着いていた。
そんな近くに見えなかったはずなのに、空間移動をしたかのように、大陸が突然。
私が戸惑っていると、セナが肩をポンと叩く。
「こういうもんよ、たぶん」
そう言って、マミとセナは船から降りて行く。
船から降りて見回すと、人が沢山いた。
その人たちの顔は黒く塗りつぶされている。
怖くて、話しかけることができない。
「裏の顔は誰にでも見られたくない、ということかしら」
セナはそう言って、黒く塗りつぶされた人の顔を見つめていた。
ふと近くにあった噴水を見ると、踊っている人がいる。
それも二人だ。
片方は踊りながら、顔を横に向けていた。
もう片方はそんなことは知らず、ただ一人で踊り続けている。
横を向いて踊っていた一人が喋りはじめた。
「ミテ、ワタシ、ワタシ、ミテ、ミテ、ミテ、ナンデ――」
三つの単語を繰り返し発していた。
綺麗な服をきた踊り子に、人が群がってきている。
「よく見てなさい」
セナは真剣な顔でそう言った。
「オマエ、ジャマ。ワタシ、キラキラ」
綺麗な服を着た踊り子が踊るのをやめ、隣の踊り子を蹴飛ばした。
蹴飛ばされた踊り子の身体がばらばらになる
「ナ――ナ――ナ――」
壊れたロボットのように、頭ががくがくと震えていた。
「そういえば――」
私はセナの肩を叩いた。
「何?」
セナは振り向いた。
「マミがいる原因とか、キャラクターファイルとか、バグって何ですか?」
セナは腕を組み合わせた。
「そうね……。詳しく説明しないといけないわ。それじゃあまずはマミがこの世界にいれることについて――」
セナは近くのベンチに座った。
「簡単に言うと、マミは外で生まれた人間の子」
「外?」
「……あなたがいる世界よ」
私のいる世界……?
正直、話が壮大でつかみにくいが、要はマミは正真正銘の人間ということだ。
「両親は壊したが一人逃した、って聞いてたけど、それがマミだったわけ」
その時、唐突に織姫と彦星の話を思い出した。
確か、別の世界に逃げて子どもができた話――だったかな。
誰かに聞いた覚えがあるけれど、どこか、誰かは全く覚えていない。
「お父さんとお母さんのこと、私は許してませんからね」
マミは静かに怒っていた。
「……ごめんなさい。あの頃はどうすればいいか分からなかったのよ……」
セナは視線を逸らしてそう言った。
「……さて、次はキャラクターファイルについて」
沈黙を断ち切り、セナは別の話を始めた。
「キャラクターファイルっていうのは、ゲーム内での声や姿などを記憶しておく場所なの。このゲームにおいては、生まれた瞬間からキャラクターファイルができるような仕組みになってる。勿論、キョウカ……いや、なつめっていうあなたの原型と、マミのファイルだってある」
「私は自分で作りましたがね」
マミは、得意げに腰に手をあて肘を張った。
「……キョウカの場合はちょっと違うけどね」
「……私?」
「ええ、恐らくあなたは……なつめのキャラクターファイルに混ざっていたのね」
なつめ、なつめ……。
「そして、人間であったあなたはこの世界でも存在を維持……って、いきなりこんなこと言われても分からないか。それに、記憶を失ってちゃ――ね」
本当に、全く。
元々なつめっていうファイルがあって、そこに私が入ったってとこはまだわかった。
だったら、私って誰なんだって話になる。
なつめという人がどんな人物かも知らないし。
それより、セナは私が記憶を失っていると言ってたけど、私のことを知っているのだろうか。
「……では、次は、バグについて話しましょうか」
セナが言った。
次話もよろしくお願いいたします!




