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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第3章 【裏世界のおはなし】
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2話 『移り変わる世界』

(調子悪いのに無理に書いたから、変になっているかもしれないです……)

「ふーむ。どういうことか、特に異常はないね」


 女は制服のボタンを閉めた。


「しかしこの制服……どこのかしら?」


 勿論、知らない私は首を振る。


「そうそう、あなた名前は?」


 名前……あの時新聞紙の一つの記事にあった名前――高橋杏果たかはしきょうか

 その一つしか覚えていない。

 口をもごもごと動かしたが、全く声が出なかった。


「口パクじゃ分からないなぁ」


 だから声でないんだってば。

 首を振ってその意志を伝える。


「あ……声でないのね。ごめんなさい」


 首を縦に動かした。


「うーん……そう、良い手があった。じゃあ、天才セナちゃんが名前をあててあげよう」


 自分のことを天才と称したら、小物感が出ると思うのだけど。

 その女は部屋に散らかっている紙の一枚に、白衣の胸ポケットからペンを取り出して何かを書き始めた。


 ――書き始めてから数十秒後、ペンを胸ポケットにしまって紙をみせてきた。


「五十音はさすがにわかるよね?」


 私は頷いた。

 視界がぼやけてよく見えなかったが、その紙には恐らく五十音が書かれているのだろう。


「よしよし。私がこのひらがなで書かれた五十音一つずつ指さしてくから、自分の名前と一致する文字の所で頷いてね。終わったら首を横に振って。ゆっくりやってくから、じゃまずは苗字から」


 ――あ、い、う、え、お、か、き……。


 その女は、声に出しながら、一つ一つを指でさし始めた。

 もちろん、“たと”はと“かと”しで止めた。


「たかはしね。じゃあ次は名前」


 同じように繰り返す。

 無論、私は“き、”よ、“う、”か、で頷き、首を振った。


「きようか、きようか……あ、きょうかね!」


 どうやら分かってくれたらしい。


「タカハシキョウカ……。どっかで聞いた名前のような……?」


 女は首を傾げていた。


「……まぁいいわ。真二くーん? 一応診たよ~異常なかったけども」


 男を呼んだ。

 部屋の扉が開いた。


「いやいや、そんなはずはないだろう。彼女は動けないんだぞ? ちゃんと診たのか?」

「隈なく診たわ。でも、異常は見受けられなかった」

「本当か?」


 男は女を疑ってやまない。


「医者兼エンジニアをなめないでよね。プログラムしかできないくせに」

「なっ!」


そこから二人の口喧嘩が始まった。

 子どものようだ。まるで。いたちごっことはこのことだろう。


「なーんだ、キーボード打つの遅い癖に」

「な! 真二くんは前作ったゲームバグだらけでクソゲーだったじゃない!」

「あ、あれは……今関係ないだろう!」

「いいや、私のこと侮辱したからダメ!」


 なにその成立していない会話。

 部屋に二人の声がどよんでいる。


 なんだか眠くなってきて、ふわぁ、と欠伸が漏れた。

 うるさいはずなのに、瞼が少しずつ降りてくる。

 何かに例えるなら……そう、音量を最大まで上げて流すラジオ番組のよう。


 まぁ、悪い人たちじゃなさそうだし、ここで……眠って……も……ね………………。





……!?


「ハッ!」


 心を許して寝てしまった。

 起き上がって周りをきょろきょろと見回した。

 金色の壁、床、シャンデリア、赤い絨毯、階段……。


 どうやら、あの大部屋に帰ってきたらしい。

 肝心の化け物はいなかったし、死体はなかったが、あの時と同じ作造りった。


「あ、い、う、え、お」


 声が出る。

 目もぼやけていない。


 さっきまでいた、町と部屋は一体何だったのだろうか。

 仮に幻影だったとしても、におい、感触など全てがリアルで……。


 ちなみに服はというと、制服でなく、ヘンテコな装備に戻っている。

 一体どういう――


「――来ましたか」


 唐突に聞こえたのは、女性の柔らかい声だった。

 振り向くと、そこにはショートカットの女性が立っていた。


「見た目は同じですが……別のようですね」


 その女性は、私を虫眼鏡から覗き込んでいた。


「あなたは……?」


 その女性に訊いた。


「私はマミです。真実って書いて、マミ」


 マミ……。

 聞いたことがあるような、ないような……。


「ちなみにあなたは?」

「あ、ええと、私は高橋杏果です」

「タカハシキョウカ……。なるほど、覚えました」


 覚えるのが早い。


「えーと、マミでしたっけ」

「……はい、なんでしょうか?」

「ここはどこなんです?」


 マミに近づき、その姿をもう一度確認する。

 茶色いコートにシマシマの帽子など、まるでどこかの探偵のよう。


「……私もよく知らず、説明することはできませんが――」


 マミは、真っ黒に染めあげられた一本の柱を見た。


「そこにいる人なら知ってるかもしれませんね」


 舌打ちが聞こえ、柱の陰から白髪の女性が出てくる。

 その女性はマミをにらんだ。


「あなた……何者?」


 女性はマミに訊いた。


「マミです」

「そうじゃない」


 白髪をくるくるに巻いた女性が、一方的に責め立てる。

 マミはそれを軽くあしらい、白髪の女性は地団駄を踏んだ。


「あのー」


 白髪の女性に声をかけた。

 その声に気づいた女性は、私の顔を見て驚いていた。


「あ、あれ、なんでなつめが……?」


 私に近づき、顔を引っ張ったり叩いたりしてきた。


「ひ、ひたいでふー!」


 頬を引っ張られていると綺麗な発音ができない。


「おかしい……。こんなことあの人から聞いてない……」


 そう呟き、頬を離した。

 伸ばされたところが、赤く染まっていく。


 そして、改めるように私とマミの前に立つと、一人勝手に、「……あなた達のことはまた後で。一先ず、この世界の話を始めましょう」と言った。

次話もよろしくお願いいたします!

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