2話 『移り変わる世界』
(調子悪いのに無理に書いたから、変になっているかもしれないです……)
「ふーむ。どういうことか、特に異常はないね」
女は制服のボタンを閉めた。
「しかしこの制服……どこのかしら?」
勿論、知らない私は首を振る。
「そうそう、あなた名前は?」
名前……あの時新聞紙の一つの記事にあった名前――高橋杏果。
その一つしか覚えていない。
口をもごもごと動かしたが、全く声が出なかった。
「口パクじゃ分からないなぁ」
だから声でないんだってば。
首を振ってその意志を伝える。
「あ……声でないのね。ごめんなさい」
首を縦に動かした。
「うーん……そう、良い手があった。じゃあ、天才セナちゃんが名前をあててあげよう」
自分のことを天才と称したら、小物感が出ると思うのだけど。
その女は部屋に散らかっている紙の一枚に、白衣の胸ポケットからペンを取り出して何かを書き始めた。
――書き始めてから数十秒後、ペンを胸ポケットにしまって紙をみせてきた。
「五十音はさすがにわかるよね?」
私は頷いた。
視界がぼやけてよく見えなかったが、その紙には恐らく五十音が書かれているのだろう。
「よしよし。私がこのひらがなで書かれた五十音一つずつ指さしてくから、自分の名前と一致する文字の所で頷いてね。終わったら首を横に振って。ゆっくりやってくから、じゃまずは苗字から」
――あ、い、う、え、お、か、き……。
その女は、声に出しながら、一つ一つを指でさし始めた。
もちろん、“たと”はと“かと”しで止めた。
「たかはしね。じゃあ次は名前」
同じように繰り返す。
無論、私は“き、”よ、“う、”か、で頷き、首を振った。
「きようか、きようか……あ、きょうかね!」
どうやら分かってくれたらしい。
「タカハシキョウカ……。どっかで聞いた名前のような……?」
女は首を傾げていた。
「……まぁいいわ。真二くーん? 一応診たよ~異常なかったけども」
男を呼んだ。
部屋の扉が開いた。
「いやいや、そんなはずはないだろう。彼女は動けないんだぞ? ちゃんと診たのか?」
「隈なく診たわ。でも、異常は見受けられなかった」
「本当か?」
男は女を疑ってやまない。
「医者兼エンジニアをなめないでよね。プログラムしかできないくせに」
「なっ!」
そこから二人の口喧嘩が始まった。
子どものようだ。まるで。鼬ごっことはこのことだろう。
「なーんだ、キーボード打つの遅い癖に」
「な! 真二くんは前作ったゲームバグだらけでクソゲーだったじゃない!」
「あ、あれは……今関係ないだろう!」
「いいや、私のこと侮辱したからダメ!」
なにその成立していない会話。
部屋に二人の声が響んでいる。
なんだか眠くなってきて、ふわぁ、と欠伸が漏れた。
騒いはずなのに、瞼が少しずつ降りてくる。
何かに例えるなら……そう、音量を最大まで上げて流すラジオ番組のよう。
まぁ、悪い人たちじゃなさそうだし、ここで……眠って……も……ね………………。
◇
……!?
「ハッ!」
心を許して寝てしまった。
起き上がって周りをきょろきょろと見回した。
金色の壁、床、シャンデリア、赤い絨毯、階段……。
どうやら、あの大部屋に帰ってきたらしい。
肝心の化け物はいなかったし、死体はなかったが、あの時と同じ作造りった。
「あ、い、う、え、お」
声が出る。
目もぼやけていない。
さっきまでいた、町と部屋は一体何だったのだろうか。
仮に幻影だったとしても、におい、感触など全てがリアルで……。
ちなみに服はというと、制服でなく、ヘンテコな装備に戻っている。
一体どういう――
「――来ましたか」
唐突に聞こえたのは、女性の柔らかい声だった。
振り向くと、そこにはショートカットの女性が立っていた。
「見た目は同じですが……別のようですね」
その女性は、私を虫眼鏡から覗き込んでいた。
「あなたは……?」
その女性に訊いた。
「私はマミです。真実って書いて、マミ」
マミ……。
聞いたことがあるような、ないような……。
「ちなみにあなたは?」
「あ、ええと、私は高橋杏果です」
「タカハシキョウカ……。なるほど、覚えました」
覚えるのが早い。
「えーと、マミでしたっけ」
「……はい、なんでしょうか?」
「ここはどこなんです?」
マミに近づき、その姿をもう一度確認する。
茶色いコートにシマシマの帽子など、まるでどこかの探偵のよう。
「……私もよく知らず、説明することはできませんが――」
マミは、真っ黒に染めあげられた一本の柱を見た。
「そこにいる人なら知ってるかもしれませんね」
舌打ちが聞こえ、柱の陰から白髪の女性が出てくる。
その女性はマミをにらんだ。
「あなた……何者?」
女性はマミに訊いた。
「マミです」
「そうじゃない」
白髪をくるくるに巻いた女性が、一方的に責め立てる。
マミはそれを軽くあしらい、白髪の女性は地団駄を踏んだ。
「あのー」
白髪の女性に声をかけた。
その声に気づいた女性は、私の顔を見て驚いていた。
「あ、あれ、なんでなつめが……?」
私に近づき、顔を引っ張ったり叩いたりしてきた。
「ひ、ひたいでふー!」
頬を引っ張られていると綺麗な発音ができない。
「おかしい……。こんなことあの人から聞いてない……」
そう呟き、頬を離した。
伸ばされたところが、赤く染まっていく。
そして、改めるように私とマミの前に立つと、一人勝手に、「……あなた達のことはまた後で。一先ず、この世界の話を始めましょう」と言った。
次話もよろしくお願いいたします!




