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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第3章 【裏世界のおはなし】
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1話 『拾われた子』

『1話』と聞いて(え?)と思われるかもしれません。主人公自体は変わってないですが、主人公が変わったので、1話からリセットなんです。

そして、ここからがこの物語の本編になるのです。

 雨水が眼球に触れ、思わず目を閉じる。

 先ほどまで化け物と戦っていて、暗い場所を走っていたのに。一体どこに来てしまったのだろう。


 知っているようで知らない景色。

 知らないようで知ってるにおい。


 灰色の雲から零れ落ちる雨の一粒一粒は、抗うことなく地面に叩きつけられ、砕ける。

 傘もささず、四角く切り取られた段ボールの上に座る人。段ボールの上には、小さな缶がある。

缶には、


『PLEASE GIVE ME MONEY?』


 と、汚い文字で書いてあった。誰だってわかる英文。

 しかし、その言葉はただ虚しく、缶の中には雨水だけが溜まる。


 雨でできた水たまりから立ち上がった。

 そして一つ、自分自身の変化に気がつく。


 剣がない。

 服装も全く別物。恐らく女子生徒用の制服だ。

 その制服のポケットには、破けた薄っぺらな財布と鋭利な刃物(ナイフ)が入っていた。


 中身を確認すると、千円札が一枚、くしゃくしゃになって入っていた。

 その直後、後方から来た誰かにぶつかられ転倒し、財布を落とした。

 その誰かは、黒いかっぱを着て、財布を拾い上げて走り去っていく。


 その人物を追いかけようとするも、足が動かず立ち上がれなかった。

 財布をとられた。所持品はもう刃物(ナイフ)のみ。




「――大丈夫か」


 いつの間にか、近くのベンチには人が座っていた。

 大丈夫か、そう問われると、大丈夫ではない。その返事が最適解だろう。


「…………」


 しかし、口が開かなかった。唇が震えているみたいだ。


「腹は減ってないか」


 その人物は私に、透明なビニール袋に入ったメロンパンを差し出す。

 腕が動かず、そのパンすら受け取ることができない。

 体全体が石のように固まっているようだ。


「…………」


 その人物は透明な合羽の中からまじまじと私を見つめていた。

 寒いはずなのに、冷たいはずなのに、体が熱くなってくる。おかしな感覚。



 急に眠くなってきて、ゆっくりと目が閉じた。

 息ができなくなった。

 そして、息を引き取るように私は眠りについた。





 ――体に、ふわふわとした布地が当たっている。

 いや、身体全体を包み込まれてるというべきか。

 それに、頭の裏には枕が置かれているらしく、首が少し上に傾いている。


「起きたか」


 先ほどと同じ声が聞こえた。

 目を開けると、そこはどこかの部屋の一室だった。


 視界がぼやけているが、照明器具の光は確認できた。

 どうにか立とうとして身体を動かした時、全身に創造を絶する痛みが走る。


「ああ、ダメだ。そんなボロボロの体で。さっき知り合いの医者呼んだから、安静にしていてほしい」


 医者を呼んでいたらしい。

 でも、今すぐこの空間から抜け出したい。

 男と同じ空間に二人きりでいるなんて、考えたくもない。


「…………」


 ぼやけた視界で、その男性を睨みつける。


「……少し話をしよう。俺の質問には、頷くだけ、首を振るだけでいい。嫌なら聞き流してもらってもいい」


 その男は話を始める。


「君は()()()に住んでいるのか?」


 何もしない。


「……君は()()()を知っているか?」


 首を振った。


「……君に両親や兄弟、親戚はいるのか?」


 何もしない。

 分からない。


「……君は日本語が喋れるか?」


 少し頷く。


「……君に記憶はあるか?」


 首を振った。


「……君は他人を信用しているか?」


 何もしない。


「……君は、()()をしたことがあるか?」


 何もしなかった。


 …………何故こんな無意味な質問を繰り返すのか。


「すまない。君のポケットから大量に乾いた血が付いた刃物(ナイフ)が出てきたもので、変な事を訊いてしまった」


 制服のポケットの中身を見られていたらしい。

 私が気絶している間に取るとか、なんて卑劣なヤローだ。


「いやな、そんな怖い顔をしないでくれ。君を運んでいた時にぽろっと落ちたものを拾ったんだ。決して漁ってはいないから誤解しないでほしい」


 男はそう言った。



 ――沈黙の中、私のことなんていず知らず、一方的に時が過ぎる。

 いつまで経っても身体は動かない。

 そんな大した怪我をした記憶はない。

 ここに来る前、大部屋で、身軽に動いてあの化け物を凌駕りょうがしていたはずだ。


「……暇だろう。すまん。人とあまり話さなくて、良い話が思い浮かばない」


 自然と、首を横に振った。


「そうだな……。こうも一方的では、話のネタが切れてしまいそうだが……」


 男は手を叩いた。


「そうだ。私の話をしよう」


 何故そこでその話が出てくるのかが謎。


「俺は寺里真二てらさとしんじという。36歳。中年のおっさんだが、今はあるゲームを作っている。仲間たちとな」


 ゲーム……。

 聞いたことがある響き。


「知らないか。もう今じゃ、集中都市(プレシティ)でしか作られていないもんな」


 集中都市(プレシティ)……?


集中都市(プレシティ)も知らない……。まさか記憶喪失か。ふむ、それについても診てもらう必要があるようだ」


 男は脚を組んだ。


「……話を戻すが、ゲームというのは、人間が娯楽のために作ったものだ。何十年前からか正式な競技としても注目されるようになり、今では世界が熱狂するエンターテイメントになっている。もちろん、将棋、オセロ、チェス、花札、ババ抜きだって立派なゲームの一つだ」


 ……オセロは知っている。

 たしか、白と黒のコマをひっくり返すものだ。


「そして今、俺が作っているゲームというのは――」


 ――ガタン――


 突然大きな音がし、この部屋に人が入ってきた。


「はーい! 佳麗かれい潺南せせらぎみなみさん華麗かれいに登場! さてはて、患者はどこかなー?」


 顔はよく見えないが、髪の長い女であることは確かだった。


「お、君かなー? 聞いた通り華奢きゃしゃな女の子だねぇ」

「……あぁ、彼女の治療を頼む、セナ」

「うんうん。すぐ治してあげるわ! あ、真二くんは一旦出て行ってね。ここは今から診療室になるから。こんな可愛い女の子でも、心はレディなのよ。たぶん」


 そう言い、私の隣に座る。

 何かを察したように「あぁ、わかったよ」と言い、ため息を吐いて男は消えた。


「よし……じゃあ早速、診させてもらうよー、どれどれ……」


 女は、被さっていた毛布を取り払い、制服を剥ぐ。それから、体を隈なく触って調べた。

 私が動けないのをいいことに、どこもかしこも触るとは……なんて卑劣なヤローだ。

次話もよろしくお願いいたします!

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