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170話(前) 『決戦窶補?2』

決戦――2

「ごめんなさい、私の所為でバラバラです」

「シルスさんが謝る必要なんてありません」


 剣がはじけるような音が後ろから聞こえた。


「……痛みは殆どありませんが、毒が体に回ってきているのがよく分かります」

「なら今すぐ治療をします!」

「……お願いします」


 私は状態異常回復魔法であるリフレッシュをかけまくる。

 しかし、時々毒々しく紫色を帯びるエルフの身体には全く効果がなかった。


「なんで、なんで……!」

「エルフ特攻の猛毒です。特殊な配合薬を飲まない限り、恐らく治りません」


 その言葉も聞かず、私はシルスさんに状態異常回復魔法をかけ続けた。


「…………」


 そんな私を穴が開くほど見つめるシルスさんは、次第に力を失っていった。


「なつめさん、もうやめてください」


 私は魔力が尽きても唱え続ける。


「……、なつめさん……」

「嫌です。何があったってシーゼルの身体なんです。死なせるわけにはいかないんです、そんな簡単に」


 枯れた涙はもう出てこない。あとは回復魔法をかけ続けるだけだった。

 MPも枯れたのに。


「一つ、覚えておいてほしいことがあります」


 シルスさんは余力を振り絞り、回復魔法をかける私の手を止めた。


「神は絶対に途絶えません。どうか、忘れないで…………」


 私の手を握っていた小さな手がほどけて地面に力なく落ちた。

 後ろから、再び大きな笑い声が聞こえ、それから複数の影が私に近づいてきた。


「エミさんやシェイク、ブラッド、ガイザー君、メルさん、チャンクさん――それにカナタさんまで、操られてしまっています……!」

「……、お兄ちゃんまで……?」


 私とシルスさんを囲むように陣形をとった。

 小さい三人組を三等分し、一つ一つの隙間に、シルエさん、マミさん、うさぎのぬいぐるみ(セナ)がいて、奥には、先ほどシルエさんの話であった6人が、黒い眼を真っ赤に染め、ダラダラと迫ってきていた。

 そして、その隙間を縫うように奥を見ると、そこには異形の怪物がいた。

 もう、あれはエルフでも、神でも、悪魔なんて甘ったるいものでもない。





 ≪――ただの化け物だ≫





 その化け物は、時折奇声を発していた。


 頭からは渦を巻いたごつごつとした角が生え、背からは紫色の翼が生えて、身体が濃い緑色に変色していた。それに、耳も益々長くなり、ほとんど半裸の状態で、さっきまではなかった筋肉をむき出しにしていた。


『僕は神になった! 醜くもない、弄ばれもしない、たっとばれ、そして何もかもに崇め奉られる神聖な神へと転身したんだ!』


 今までの声とは比べ物にならないくらい、声の低さが増していた。

 『僕』なんて自呼び名が全く似合わないような姿へと変身しているのにも関わらず、自分のことを認識できていないのだろうか。

 あの姿を鏡で見せてやりたい。


『さぁ、あとはお前らでやり合うだけだ……。生き残ったやつは、神である僕が直々に引き裂いてやろう、フヒ、フヒヒヒヒヒヒヒ』


 気味の悪い笑い声と共に、鋭く伸びた爪を擦り合わせ、時々爪同士を強く掻き合わせて音を鳴らした。

 まるで金属のような音を奏でるその爪は、照明で爪の先端が輝いていた。


「姉貴……」


 長男のリークが横目で私を見てきた。


「あいつ、私のタレントが通用しない……! エルフも人間の判定になるなんて聞いてないわ! というか何あれ、あんな怪物知らないんだけど!」


 セナさんは足元を強く踏み鳴らした。


 きっとスタンピングだ……!


 そんなことはなりふり構わず、操られた7人は私たちに迫ってくる。


 突然、カイシェル三兄弟の長男リークが、足を一定のリズムで地面をけり始めた。

 リークに続けて、他の二人もそのリズムに合わせて足で地面を何度も蹴る。


「いくぞ!」


 その掛け声とともに、三人は一瞬で目の前から姿を消した。


「「「チェーンロック!」」」


 長い鎖が、部屋中を縦横無尽に動き回り始めた。しかし、その三人の動きは、すぐに一つの化け物の手によって全て切り裂かれた。


 三人組の身体が所々ばらばらになって空から落ちてくる。


 手、頭、足、上半身、下半身。


 どれもバラバラに。


 目の前にぽたっと音もなく落ちてきたのは長男リークの小さい頭だった。

 血液が首から切り口から吹き出していて、私は思わず吐き出しそうになり、口を抑え、喉をおさえた。


「な、な、な……」


 シルエさんは言葉も出る間もなく、腰を抜かして地面に座り込んだ。

 マミさんやセナさんはそんな中、シルエさんを守るように前に出た。

 今まであった鎖は全て小さい光の珠と共に消滅し、血が飛び散った地面や壁、手、足、頭など、猟奇りょうき的な光景だけが私の目前にまた映りこんだ。


『弱い、弱い、弱すぎる! 人如きが神に敵うと? 愚にもつかぬ!』

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