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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第2-4章 【それは一つの混沌で】
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167話 『不安定』

会話量多めです。おそらく次話も。

「その本の通り、私は四つの力を与えて行かなければ身体が衰弱し、いずれ死んでしまいます。もう何千回目やったかは知りませんが、維持のためには仕方ありません」


 そういえば、一体この人はいくつなんだろう。

 割としわしわのおばさんだったりして。


「ルミナは周期的な私の性質を他の文献から読み取り、私を殺そうとしています。もちろん、転換も母体のことも含めてです」


 シルスさんは本を自分の所へ引き寄せ、本を両手で潰すように上下から押して消滅させた。


「ルミナは私が三番目の力を与えた一人です。彼は勉強熱心で、知恵が豊富な人でした。争いごとが嫌いで、図書館で一人勉強をしていたり、喧嘩していたりする子を見ると、間に入って止めたりと、心優しい子でもありました」


 ルミナ……。

 昔はそういう人だったんだ。


「そのこともあって、彼が遺跡を訪れた時、彼の前に現れ、力を授けました。しかし……」

「変わってしまったんですね」


 そう言うと、シルスさんは頷いた。


「彼は、人間を〝使う〟ようになりました。それからです、彼が、私の前にシーゼルと少女を連れてきました。力を与えるように言われ、私はシーゼルに力を与え、秘密裏に体に侵入しました。すぐバレましたけども」


 シルスさんは話を続ける。


「恐らく、その時既に、転換について彼は知っていたのでしょう。ただ、すぐには殺さず、人間を操り、エルフと対峙させ、皆殺しにする計画を立て、神となり、人間の王となることを考えていた……。あくまで予想ですが」


 なんて惨いことをしようとしていたんだろう。

 それにしても、何が原因で彼を変化させてしまったのだろう……。


「恐らく、シーゼルを追いかけるため、この世界にやってきたのでしょう。そして、あの監獄島にいる者たちを操っている……。カイシェルのお三方、本当によくご無事でありました」

「あぁ……俺らは頭良くなかったからな。てか、今まで存在忘れられかけてたから、話しかけられて驚いた」


 そういえば……、小さすぎて忘れかけていたけど、所々出てたかな……。

 小人って大変だなぁ……。


「シドモンの野郎がやってきて、それからフードの男がやってきて……。その前にスパイクはいたが、あいつは昔、あんなじゃなかった。まるで、誰かに操られているかのように、訳の分からない呪術を使うようになって、人を殺すこともいとわなくなった。それが原因だったとはな」


 サラさんの言っていた良い人の像とは全く別の人格に代わってしまった……。

 というよりも、現在進行形で操られているというのが正しい。


「その操作状態を解除するには、ルミナを倒すしかありません」

「シルスが解除することはできないのか?」


 今まで話を聞くことでいっぱいいっぱいだったはずのお兄ちゃんが、唐突に質問を投げかけた。


「無理です」

「何故?」

「簡単に言えば衰弱です。今の私では、力を与えられますが、操ることはできませんし、与えた力を抑制することもできません」

「……本当に神か?」

「そりゃもちろん」


 シルスさんは自信ありげに、自分の胸をぽんと叩く。


「じゃあ、作戦を考えないと――」

「――いえ、その必要はありません。するだけ無駄ですから」


 お兄ちゃんの提案は、すぐに打ち消される。


「彼は敵を味方に付けられる能力を持っています。特に、人間の皆さんは危ないです。なので、作戦なんて考えを捨てて、自分自身を保つことを意識してください。でないと、私たちに勝機はありません」


 お兄ちゃんは肩を窄めて黙り込んだ。


「私からの話は以上です。何か質問があれば受け付けます」


 静寂から解き放たれ、他の人は席を立ち、自分がいれそうな部屋、場所に散らばって行った。

 そんな中、残っていたのは、若いバンダナを付けた人、そして、私とシルスさんだった。


「恐らく会うのは今日が初めてだろう、俺はチャンクだ」


 少し髭を生やした男は、私の目を見てそう言い、手を差し出してきた。

 チャンク……。

 シルエさんが言っていた、最近注目されている若手のサーカス団員の人だ。

 確か、あの時はこの人が依頼をしてきたんだっけかな……。

 その手を掴んで握手をする。


「俺が厄介事に引き起こしちまったせいもあるから、責任を少しくらいは取らせてくれ」


 そう言って、その男は何処かへ行ってしまった。

 大広間には私とシルスさんだけが残り、波の音が微かに聞こえる静寂の場へと変わった。

 気まずい、気まずい。とても気まずい。

 戦いのことなんて、今は話したくない。

 かといって、シーゼルのことを話す気分にもなれない。


「甲板で――」


 この静寂を断ち切ったのは、シルスさんだった。


「甲板でお話しませんか」


 私は下を向きながら頷いて、椅子から立ち上がる。

 シルスさんもそれに続いて立ち上がり、一人足早に甲板へ続く扉を開いて外に出た。

 私は、円形に並べられた椅子を元に戻し、シルスさんが出て行った扉を開いて甲板へ出た。

 日差しが眼に当たり、ゆらゆらと揺れる帆のはっきりとした影が綺麗に見える。

 そして、その日差しの中、シルスさんは船の先端の付近で空を眺めながら、つま先とトントンと地面にぶつけながら、私が来るのを待っていた。

 私はその隣に立ち、一緒に空を眺めた。


「……快晴ですね」


 シルスさんが私に聞こえるような声で、ぼそっと呟く。


「そ、そうですね」


 どう返していいか分からず、適当な返事をした。


「……シーゼルの件、黙っていてすみませんでした」


 声のトーンが少し低くなり、海面で元気よく跳ねる魚を見始めた。


「……いいえ」

「彼女自身、気づいていたと思います。衰弱していく自分の身体を鞭で叩いて、無理やり動いてましたから」

「…………」


 これも運命の導き――。そう考えるしかなかった。


「でも、このことは彼女に伝えないでください。きっと、彼女自身、最期の話くらい明るくしたいでしょうから……」


 静かに首肯いた。


「彼女は貴女に出会えてとても嬉しがっていました。人間に対して深い恨みを持っていた彼女が、貴女を受け入れることができた……。それはかけがえのない事実ですし。だからこそ、彼女には恨みなんて古いものを全て取っ払ってもらって、笑って逝ってほしいのです……。ただ、話すことのできる時間はそこまでありません……。なにせ、彼女は衰弱しきっています。……それでは始めましょう。最期のお話を――――」

次話もよろしくお願いいたします!

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