163話 『 』
店内は賑わっていた。
小洒落た店内を店員に案内され、大きなテーブルへと案内された。
店内では、昼間からお酒を飲んで騒ぐ人、これからの冒険の話をする人、明日のことについて話す人など、様々な人がいた。
「賑わってますね、はいこれメニュー表です」
席に座り、マミさんがメニューを全員が見れるように開き、一枚一枚捲って行った。
「あ、じゃあ私はこのグラクンというので」
シルスさんはそう言って、メニュー表の〝グラクン〟という名前の箇所を指さした。
私を含めた4人は、シルスさんと同じものを頼もうということで固まり、店員を呼び止めて、グラクンを五つ頼んだ。
「グラクンって何でしょうね。似たような名前の料理を知っていますが、それとは別物なのでしょうか」
マミさんは頬杖をつきながらそう言い、指で机に何重もの円を描き続けていた。
「まぁ、一番のオススメってこのメニュー表に書いてありましたし、ハズレはないと思いますよ」
シルスさんがメニュー表を元々あった場所に片付けながらそう言い、渡されたおしぼりで手を拭いた。
「何にせよ、みんなで食べれるなんて嬉しいよ」
メルちゃんは足をぶらぶらさせながら笑顔でそう言った。
「そうだね」
私はそれだけ答えて、目の前にいるシルスさんの目を見た。
「……」
やっぱり、シーゼルと目の色が全く違う。
シーゼルは赤くなったり青くなったりだけど、シルスさんが中にいるときは、ずっと金色の眼をしている。
シルスさんは私の視線に気づいたのか、一瞬私の顔を見て、すぐに目をそらした。
いけない、こうやって人のことをじっと見るのはよくないよね。
私はすぐに視線をテーブルに戻し、テーブルの上で手をかちゃかちゃと動かした。
すると、遠くのテーブルで飲んでいた強面のごつい男性がこちらに近づいてきて、その周りにいた、太った男性と少し痩せ細って、目がつり上がっている男性も一緒にやってきて、私たちに話しかけた。
「おい嬢ちゃん。何俺たちに眼飛ばしてんだ?」
別に目をくれたわけでもないのに、勝手な思い込みで絡まれてしまった。
その強面の男性はテーブルを握りこぶしで殴り、見下すように私の目を見てきた。
「黙ってないで何とか言ったらどうだ!?」
少しずつ圧迫が強くなっていく。
さらに大きいせいで、また圧迫感もあって暑苦しい。
「兄貴、こいつら仲間じゃないすか?」
痩せ細った男性がそう言い、私の顔やシーゼルの顔を指さした。
「それに、他の女の顔もなかなか……」
太った男性がそう言うと、やせた男性がシルスさんの肩を掴んだ。
「ちょ」
シルスさんは抵抗して、男性の手を振り払った。
「てめぇ!」
痩せた男性は怒り、シルスさんに殴りかかろうとした。
しかし、やせた男性の手を、先頭にいた強面の男性が止めた。
「まぁそうカッカするな、リューゲル」
そして、また私の顔を見て、にやけながら話をし始めた。
「なぁ嬢ちゃんたち、俺らと旅をしねぇか? 金もある、酒もある、何にも困らねぇぜ? な、いいだろう?」
そう言って、机の上に置いてた私の手を無理やり掴んだ。
「やめてください!」
手を振り払い、大きい声でそう言うと、賑わっていた店内は静まり返り、周りの人たちが全員こちらに視線を向けた。
「テメェ……俺よりランクの低いやつが逆らいやがって!」
男性は持っていた巨大な剣を取り出し、私めがけて大きく振りかぶった。
「おやめください! お客様!」
店内にいた店員がその男性の近くに駆け寄り止めようとした。
しかし、近づいてくるのに気づいた強面の男性が、振り返って店員を斬りつけた。
「わっ――」
女性の店員は倒れ、周りにいた人たちがより一層静まり返った。
強面の男性は私の方にまた振り向き、改めて剣を私の首元に寄せた。
「おい、次拒否をしたら、どうなるか分かってるだろうな?」
なんてこと……。
すると、マミさんが唐突に立ち上がり、痩せこけた男性や太った男性を押しのけて、強面の男性の横に立った。
「なんだ、テメェ……やんのか?」
そう言い、私の首元から剣を遠ざけ、マミさん向けて刃をふるった。
マミさんにその刃が当たったが、服に触れた瞬間、高音の金属音が店中に鳴り響き、同時に悲鳴が沸き上がった。
「……?」
私はマミさんが切りつけられる瞬間目を塞いだ。
目を開けてマミさんの方を見ると、大剣を片手でつかんで、力任せに切りつけようとする男性の力を抑えていた。
「マミ、さん……?」
一体どの筋肉にそんな秘めたる力があったのか……。
店内の人はほっとしたのか、席を立っていた人は力が抜けて座り込んでいた。
「な……?」
「あ、兄貴の大剣を片手で……!」
強面の男性は、剣を手放し、冷や汗をかいて後ずさった。
マミさんが剣を手放すと、地面に落ち、その剣は、淡い光を出して粉々に砕け散った。
「私の仲間に手を出すの、やめていただけませんか?」
普段とは全く違い、とても怖い顔をしていた。
そして、剣を壊され怖気づく強面の男性にゆっくり歩み寄った。
男性は腰を抜かして倒れ、冷や汗を益々かきながら震えていた。
マミさんは男性の耳元に口を近づけて何かを呟いた。
「(私の――)」
〝私の〟とだけ小さく聞こえたが、その後に続く言葉は何も聞き取れなかった。
強面の男性は情けない声をあげて、店から逃げるように出て行ってしまった。
「お、覚えてろよ!」
続けて、仲間の二人は追いかけるように店を出て行った。
マミさんが店に戻ってきて、何事もなかったかのように自分の席に戻って、おしぼりで剣を掴んだ手を拭いた。
「ん? 皆さん、私のことなんて見て、どうかなさいました?」
一部始終を見ていた店内のお客さんは、切りつけられた店員を治療する人を除いて、自分たちの食事をとり、先ほどの静寂から、店内に賑わいが戻ってきた。
「マ、マミさん……?」
私が呼びかけると、マミさんは不思議そうに首を傾げ、その後にっこり微笑んだ。
「グラクン、楽しみですね」
「い、いやいや、マミさん凄いよ!」
メルちゃんがそう言って席から立ち上がった。
「そ、そう! すごいっすよ! カッコよかったっす!」
エミさんは目を輝かせてそう言った。
「不思議な人だとは思ってたけど、こんなにも強かったなんて……」
シルスさんは呆気を取られたのか口をぽかんと開けていた。
「ふっふっふ、あのくらい、お茶の子さいさいですよ!」
と言って、袖をまくり上げ、左腕を不自然に右腕にあて、右腕で小さい力こぶを作った。
力こぶ、人工的に造ってる……。
しかし、あの大剣を片手でつかんで粉々に砕く力なんて、マミさんにあるようには思えないし、それに、マミさんのタレントは【創ること】で、壊すことではないはず――。
「お待たせしました~、グラクン5つです」
私が思索に耽っていると、店員が木製の大きなトレイに五つの器を乗せてやってきて、テーブルに五つ、その器を乗せた。
器には、私が見たことのあるような料理があった。
「まるでグラタンみたいな……」
とろとろのチーズが溶岩のようにぽつぽつと動いている。
分厚いチーズの皮と、中に入っていたご飯をスプーンで掬い上げ、息を吹きかけて冷ましてから口の中にスプーンを運んだ。
「あつっ!」
冷ましたはずだったが、中身が熱くて、はふはふしながら飲み込んだ。
熱かったが、味はとても良くて、チーズがとろとろで、味付けも良く、今まで食べてきたグラタンの中で一番美味しいものだった。
そして、談笑を交えながら昼食を摂り終え、分割してお金を支払い、その店を出て行き、私たちの泊る宿に戻って行った。
次話もよろしくお願いいたします!




