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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第2-4章 【それは一つの混沌で】
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163話 『     』

 店内は賑わっていた。

 小洒落た店内を店員に案内され、大きなテーブルへと案内された。

 店内では、昼間からお酒を飲んで騒ぐ人、これからの冒険の話をする人、明日のことについて話す人など、様々な人がいた。


「賑わってますね、はいこれメニュー表です」


 席に座り、マミさんがメニューを全員が見れるように開き、一枚一枚捲って行った。


「あ、じゃあ私はこのグラクンというので」


 シルスさんはそう言って、メニュー表の〝グラクン〟という名前の箇所を指さした。

 私を含めた4人は、シルスさんと同じものを頼もうということで固まり、店員を呼び止めて、グラクンを五つ頼んだ。


「グラクンって何でしょうね。似たような名前の料理を知っていますが、それとは別物なのでしょうか」


 マミさんは頬杖をつきながらそう言い、指で机に何重もの円を描き続けていた。


「まぁ、一番のオススメってこのメニュー表に書いてありましたし、ハズレはないと思いますよ」


 シルスさんがメニュー表を元々あった場所に片付けながらそう言い、渡されたおしぼりで手を拭いた。


「何にせよ、みんなで食べれるなんて嬉しいよ」


 メルちゃんは足をぶらぶらさせながら笑顔でそう言った。


「そうだね」


 私はそれだけ答えて、目の前にいるシルスさんの目を見た。


「……」


 やっぱり、シーゼルと目の色が全く違う。

 シーゼルは赤くなったり青くなったりだけど、シルスさんが中にいるときは、ずっと金色の眼をしている。

 シルスさんは私の視線に気づいたのか、一瞬私の顔を見て、すぐに目をそらした。

 いけない、こうやって人のことをじっと見るのはよくないよね。

 私はすぐに視線をテーブルに戻し、テーブルの上で手をかちゃかちゃと動かした。

 すると、遠くのテーブルで飲んでいた強面のごつい男性がこちらに近づいてきて、その周りにいた、太った男性と少し痩せ細って、目がつり上がっている男性も一緒にやってきて、私たちに話しかけた。


「おい嬢ちゃん。何俺たちに眼飛ばしてんだ?」


 別に目をくれたわけでもないのに、勝手な思い込みで絡まれてしまった。

 その強面の男性はテーブルを握りこぶしで殴り、見下すように私の目を見てきた。


「黙ってないで何とか言ったらどうだ!?」


 少しずつ圧迫が強くなっていく。

 さらに大きいせいで、また圧迫感もあって暑苦しい。


「兄貴、こいつら仲間じゃないすか?」


 痩せ細った男性がそう言い、私の顔やシーゼルの顔を指さした。


「それに、他の女の顔もなかなか……」


 太った男性がそう言うと、やせた男性がシルスさんの肩を掴んだ。


「ちょ」


 シルスさんは抵抗して、男性の手を振り払った。


「てめぇ!」


 痩せた男性は怒り、シルスさんに殴りかかろうとした。

 しかし、やせた男性の手を、先頭にいた強面の男性が止めた。


「まぁそうカッカするな、リューゲル」


 そして、また私の顔を見て、にやけながら話をし始めた。


「なぁ嬢ちゃんたち、俺らと旅をしねぇか? 金もある、酒もある、何にも困らねぇぜ? な、いいだろう?」


 そう言って、机の上に置いてた私の手を無理やり掴んだ。


「やめてください!」


 手を振り払い、大きい声でそう言うと、賑わっていた店内は静まり返り、周りの人たちが全員こちらに視線を向けた。


「テメェ……俺よりランクの低いやつが逆らいやがって!」


 男性は持っていた巨大な剣を取り出し、私めがけて大きく振りかぶった。


「おやめください! お客様!」


 店内にいた店員がその男性の近くに駆け寄り止めようとした。

しかし、近づいてくるのに気づいた強面の男性が、振り返って店員を斬りつけた。


「わっ――」


 女性の店員は倒れ、周りにいた人たちがより一層静まり返った。

 強面の男性は私の方にまた振り向き、改めて剣を私の首元に寄せた。


「おい、次拒否をしたら、どうなるか分かってるだろうな?」


 なんてこと……。

 すると、マミさんが唐突に立ち上がり、痩せこけた男性や太った男性を押しのけて、強面の男性の横に立った。


「なんだ、テメェ……やんのか?」


 そう言い、私の首元から剣を遠ざけ、マミさん向けて刃をふるった。

 マミさんにその刃が当たったが、服に触れた瞬間、高音の金属音が店中に鳴り響き、同時に悲鳴が沸き上がった。


「……?」


 私はマミさんが切りつけられる瞬間目を塞いだ。

 目を開けてマミさんの方を見ると、大剣を片手でつかんで、力任せに切りつけようとする男性の力を抑えていた。


「マミ、さん……?」


 一体どの筋肉にそんな秘めたる力があったのか……。

 店内の人はほっとしたのか、席を立っていた人は力が抜けて座り込んでいた。


「な……?」

「あ、兄貴の大剣を片手で……!」


 強面の男性は、剣を手放し、冷や汗をかいて後ずさった。

 マミさんが剣を手放すと、地面に落ち、その剣は、淡い光を出して粉々に砕け散った。


「私の仲間に手を出すの、やめていただけませんか?」


 普段とは全く違い、とても怖い顔をしていた。

 そして、剣を壊され怖気づく強面の男性にゆっくり歩み寄った。

 男性は腰を抜かして倒れ、冷や汗を益々かきながら震えていた。

 マミさんは男性の耳元に口を近づけて何かを呟いた。


「(私の――)」


 〝私の〟とだけ小さく聞こえたが、その後に続く言葉は何も聞き取れなかった。

 強面の男性は情けない声をあげて、店から逃げるように出て行ってしまった。


「お、覚えてろよ!」


 続けて、仲間の二人は追いかけるように店を出て行った。

 マミさんが店に戻ってきて、何事もなかったかのように自分の席に戻って、おしぼりで剣を掴んだ手を拭いた。


「ん? 皆さん、私のことなんて見て、どうかなさいました?」


 一部始終を見ていた店内のお客さんは、切りつけられた店員を治療する人を除いて、自分たちの食事をとり、先ほどの静寂から、店内に賑わいが戻ってきた。


「マ、マミさん……?」


 私が呼びかけると、マミさんは不思議そうに首を傾げ、その後にっこり微笑んだ。


「グラクン、楽しみですね」

「い、いやいや、マミさん凄いよ!」


 メルちゃんがそう言って席から立ち上がった。


「そ、そう! すごいっすよ! カッコよかったっす!」


 エミさんは目を輝かせてそう言った。


「不思議な人だとは思ってたけど、こんなにも強かったなんて……」


 シルスさんは呆気を取られたのか口をぽかんと開けていた。


「ふっふっふ、あのくらい、お茶の子さいさいですよ!」


 と言って、袖をまくり上げ、左腕を不自然に右腕にあて、右腕で小さい力こぶを作った。

 力こぶ、人工的に造ってる……。

 しかし、あの大剣を片手でつかんで粉々に砕く力なんて、マミさんにあるようには思えないし、それに、マミさんのタレントは【創ること】で、壊すことではないはず――。


「お待たせしました~、グラクン5つです」


 私が思索に耽っていると、店員が木製の大きなトレイに五つの器を乗せてやってきて、テーブルに五つ、その器を乗せた。

 器には、私が見たことのあるような料理があった。


「まるでグラタンみたいな……」


 とろとろのチーズが溶岩のようにぽつぽつと動いている。

 分厚いチーズの皮と、中に入っていたご飯をスプーンで掬い上げ、息を吹きかけて冷ましてから口の中にスプーンを運んだ。


「あつっ!」


 冷ましたはずだったが、中身が熱くて、はふはふしながら飲み込んだ。

 熱かったが、味はとても良くて、チーズがとろとろで、味付けも良く、今まで食べてきたグラタンの中で一番美味しいものだった。

 そして、談笑を交えながら昼食を摂り終え、分割してお金を支払い、その店を出て行き、私たちの泊る宿に戻って行った。

次話もよろしくお願いいたします!

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