162話 『一人の少女は泡沫のように舞っていて』
「ああ、やっと見えてきました。巨匠、そろそろ起きてください」
シルエさんに呼び起され、いつの間にか転寝していた私の身体がびくっと動いた。
「え……? つきました?」
「はい、ここは〝港町シャイネ〟です」
少し振り返って港町の様子を窺ってみると、町中は芸者だらけで大きく賑わっていた。
「明日の為に、既に来ている方々もいるみたいです。私たちが歩いている時も、いくつかサーカス団らしき集団を見ましたし」
町の中に入り、シルエさんはあたりの建物を見回した。
宿を探しているのだろう。
ただ、ここまでの人たちを泊めておけるほどの大きな宿があるとはとても思えない。
それに、他にも団体が多くいるし、野宿をするなんて人も多いのではなかろうか。
……その後、宿を探して色々な場所を見て回ったが、私の予想通り、殆どの宿がこの人数の客を泊めることができないと言っていた。
その中で一つ、複数の部屋に数人ずつ分けられると言っていた古い宿があった。
他の宿屋は最近の造りで、石造りであったり、頑丈な木材で造られていたが、私たちを受け入れた宿屋は石造りだが、所々にひびが入っていたり、欠けていたりしていた。
受付を済ませると、年配の宿主が、私たちを泊る部屋まで案内してくれた。
「上の階に上がりすぐの部屋が男性の方々、そしてここは女性の方々の部屋です」
そう言って、私とシルエさんに一つずつ鍵を渡した。
マミさん、私、エミさん、シルスさん、メルちゃんの五人で言われた部屋の中に入り、その他、双子を含めた男性陣は別の部屋に向かって階段を上って行った。
「あ、巨匠、言い忘れてました」
シルエさんが扉を閉める寸前に呼び止めてきた。
「なんですか?」
「明日5時に起床でお願いします。それまでは何をしてても構いませんが、今日の疲れは癒しておいてください」
そう言って、階段を駆け上がって行った。
私は部屋に入り、他の皆にもその趣旨を伝え、町を見て回ってくると言って外に出た。
って、一人で出ようと思ったけど、他の皆も付いてきてしまった。
メルちゃんは来そうな雰囲気あったけど、まさか女性陣全員が付いてくるとは思わなかった。
「うわー、広いですね、この港町」
マミさんが脇道の道具屋の商品を見て回りながらそう言った。
エミさんもマミさんに付いていき、辺りの商店を見て回りながら私たちに付いてきた。
「マミさんって不思議な方ですよね。どのようなお方なんでしょうか?」
シルスさんがそう言い、私の顔を横から覗き込んだ。
「なんというか……商人なのか、探偵なのか、旅人なのかよく分からない人だけど、悪い人ではないと思います」
「へぇ……」
曖昧な答えになってしまって、シルスさんも少し困っているように見えた。
私自身、そこまでマミさんと関わってるかと言われればそうでもないから、何とも言えないのが痛い所。
「風が気持ちいいね」
私の横でぴったりくっついてきているメルちゃんがそう言い、とんがり帽子が飛ばされないように、左手で帽子を掴んで抑えた。
「海の近くだしね」
ただ、潮風のため肌が荒れてしまいそうで怖い。
歩いているうちに港町の中心と思われる巨大な噴水があった。
その周りには、商人がいたり、待ち合わせをしている人がいたり、音も無しにその場で舞っている人もいた。
その中で、綺麗な衣装を身に着けて踊っている人、ぼろぼろの衣装だったが、踊りがとても上手な少女がいた。
綺麗な衣装の女性の元には大勢の人が集まり観賞していたが、すぐ近くで舞っていた、ぼろぼろの衣装を着ている少女の元には誰一人見向きもしない。
その様子はまるで、誰にも意識されず、水面に浮かび上がってくる泡沫のよう。
「(…………)」
「そうだ、今日のお昼はあの店にしましょう!」
エミさんがひと際目立つ声でそう言い、走ってその店の前まで行き、私たちを呼んだ。
「行きましょう、私もあそこが良いと思ってたんですよ。いやぁ、エミさんとは気が合いそうです」
マミさんはそう言い、駆け足でエミさんの元へ寄って行った。
「私たちも早く行こう!」
メルちゃんが私の手を取り、足早にマミさんやエミさんの元に向かおうとした。
私はなんとかシルスさんの手を掴んで、少し強引だったけど無理やり引っ張っていった。
そして、そのお店の前に着き、私たちは五人で店内へと入った。
次話もよろしくお願いいたします!




