158話 『ルミーナ元支配者との密会』
前回までのあらすじ。
それまでは割愛。
テイシング監獄島で新たな仲間シーゼル(と女神シルス)を連れ、ルミーナ大陸に戻ってきたなつめは、呪術師スパイクの妻サラと出会い、どっかで会った三人組の盗賊と再会し、土中から忍び寄る大蛇と対峙し、なんとかクアイリッドに戻ってきた。
その後、兄カナタに説教をかまし、次の日の朝に依頼を受け、変な土中植物を退治し、北の遺跡へと向かった。
その遺跡で、数多くのゴーレム(一種類)と戦い、打ち勝った。
素材も大量に集まり、ウハウハ気分のなつめ、そんななつめたちに待ち受けている遺跡の名称と秘密とは!?
メルちゃんが眼を覚ました頃、既に時間は10時を回っていた。
こりゃもう心配されていても不思議ではないだろう。
お兄ちゃんはちゃんとお風呂に入ってきてくれたかな。
あれ、そういえば私昨日お風呂はいってなくない?
お兄ちゃんのこと言う前に私の身体に気を遣うべきだったかも……。
「よし、奥に進んでみよう!」
メルちゃんはそう言い、まだ目を覚ましたばかりだというのに勢いよく立ち上がった。
一瞬ふらっとして倒れそうになったため、私は咄嗟にメルちゃんの倒れそうな身体を支えた。
メルちゃんは苦笑して、「ごめん、立ち眩み」と言って、壁に手をつけて姿勢を安定させた。
「……ん? ちょっと待って、今なんて?」
「奥に行こうって」
「なんで!?」
冒険する気満々で、スキップをしながら次の通路の手前まで向かって行った。
「なんとなくー!」
立ち止まり、私を呼ぶように手を振っていた。
なんとなく……ね。
まぁ、この神殿自体、不思議なことが沢山あるし、調べてみるのも悪くはないかも。
ため息を吐いて、私はメルちゃんのいるところへと駆けて行った。
それから、神殿の迷路のような通路を進み、仕掛けられていた罠を切り抜けたり、宝箱に化けた魔物を退治してレアなアイテムを手に入れたり、色々楽しみ、色々な苦難を乗り越えて道を選別していき、最後の部屋に辿り着いた。
最後の部屋には祭壇があり、祭壇に置かれている巨大な何かの偶像の周りには、水が流れ出てきている窪みがあったり、燭台に青い炎が灯されていたり、それに、窪みから出てきた水には丸い葉が浮いていて、その上には青白く光る蛍のような生命体が乗っていた。
この空間は一体……?
ふと祭壇の方を見ると、二人分の人影があった。
二人の影は私たちが来たのに気づき、ゆっくりと近寄ってきた。
まさかまた新キャラ!? もういらないから!
私はほんの少し後ずさりをした。
が、メルちゃんは何故か対抗して、近づいてくるその影たちに自信満々の顔で近づいていった。
「あ、メルさんに巨匠じゃないですか!」
影の片方が、私たちの存在に気づき名前を――って、巨匠……?
「シルエさん……?」
片方の影は駆け寄ってきた。
次第に人影がはっきりと見えてきて、シルエさんのいつもの姿がしっかりと見えてきた。
「え? なんで名前知ってんの?」
シルエさんじゃない方の、目の下に大きな隈ができた、女性とも男性とも言い難い中性的な面の髪の長い人が、倒れそうな足取りでふらふらと歩いてきた。
その人は平らな地面で躓いて突然地面に倒れた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「たぶん大丈夫じゃない……頼む、あの祭壇のとこまで運んでくれ」
メルちゃんはその人を黒衣を片手でつかみ、祭壇の所まで引っ張って行った。
「それはそうと、何故巨匠がここに?」
「そ、それはこっちの台詞です。なんでこんな危険な所に……」
「ええと……実はお給料を貰いに……」
……お給料……?
もしかしてここって――!
「魔王の第二幹部のおうちですか!? ここ!」
「そうです……」
「ということは、あの人は……!」
「そうです……!」
なんてことだ。
色々とすっ飛ばしてきてしまった。
フラグとか大丈夫だったのかな。
これで外に出たら進行不可能とかにならないかな。
ちょっと心配になってきた。
「あの、巨匠には色々とお話したいことがあるので……こちらに来てください」
そう言い、シルエさんは祭壇に向かって歩いていく。
「巨匠は何故ここに?」
「私は仕事の依頼で」
「依頼……ですか。どのような?」
私は装備屋のおばさんからの依頼の内容を、シルエさんに詳しく話した。
「なるほど、カランドメタリアですか。確かに、この遺跡にいるカランドゴーレムを倒すことで手に入りますからね」
シルエさんは、次にここについて話をし始めた。
「ここは〝カランド遺跡〟と言います。そして、あの雑に運ばれてるお方は、この大陸の元支配者、ランク5の【シル・エンプラント】さんです。略名はシルエと言います」
あれ、そういえばシルエさんって……?
あれれれ、なんかこんがらがってきた。
「あの、シルエさん。シルエさんってシルエさんなんですか?」
「何となく訊きたいことがわかります。私はこの大陸の支配者をしているため、シルエと名乗っていました。私の本名は【アルバトリオ】と言います」
そうか、最初に会った時、アルバ何とかって言いそうになってたのはそういうことだったのか。
「じゃあ、これからはアルバさんとお呼びした方がいいでしょうか」
「いえ、今まで通りで大丈夫ですよ」
シルエさんは優しく微笑んだ。
祭壇の手前に着き、中性的な人はうつ伏せで倒れていた。
「ちょっとー、雑じゃないかなー、君」
その人は疲れた顔でそう言った。
メルちゃんはその言葉を無視して、誇らしげに笑っていた。
「で、アルバくん。この人たちは君の知り合い? それともただの部外者?」
「すみません、紹介が遅れました。私の巨匠とそのお仲間さんです」
「巨匠? 君の?」
「はい」
他の人に言われると、少し恥ずかしい気がする。
やっぱり、巨匠って呼んでもらうのやめようかな……。
というか、本当はやめてほしいのだけど、シルエさん、全然譲らないからなぁ……。
「なつめです。そっちはメルって言います」
「ふーん、それで君たち」
「(無視!?)」
「ここに来るとき、ゴーレムの大群と鉢合わせたはずだが、どうやってここまで来たんだい?」
「全部倒しちゃいました」
「ふーん、ふ、へ? 全部? 合体後も?」
「はい……」
その人は飛び上がり、私の肩をがっしりと掴んできて、私を前後に揺さぶった。
「なんてことを! せっかく私が昔の魔法生物を真似て作ったというのに!」
これ、『私なんかやっちゃいました?』パターンだ。
「……まぁ、また作り直せばいいし、少し時間がかかるだけだし、いいか……」
残念そうにとぼとぼ歩きながら祭壇の上に戻って行った。
「ということは、実質的に負けになるわけだな、自分」
そう言って、ポケットから一枚のメダルを取り出し、私に投げてきた。
私は何とかそのメダルをつかみ取り、表面に書いてある絵を見た。
そこには、巨大なゴーレムが両手を掲げている姿が描かれていた。
「それは、自分に勝った証だ。受け取れ」
「え? でも……」
「もういいんだ。今の状況じゃ負けるし、それに、今の支配者的立場、俺じゃないし。あの変なデブだし」
自暴自棄になっている。
しかし、魔王の幹部ともあろう人が、誰かに支配権を奪われるなんてことあるのだろうか。
「どうしてこうなった的な顔してるな。ならお望み通り経緯を話してやろう」
望んではないのだけれど……。
その人は胡坐をかき、右手の人差し指をピンと立てて話をし始めた。
次話もよろしくお願いいたします!




