12話 『曖昧な答え』
※今回はあらすじありません。
今後は何話ごとに区切りがいいところであらすじを作ることにします!
ガイルさんですら悩んでしまう案件だ。
相当茎が固いんだろうな。
「何か切れ味のいい刃物でもあればいいんだが……デンジャラスエッグの茎を簡単に切れる刃物なんてこの町にはない」
すごく悩んでいらっしゃる。
というか詰んだんじゃないかこの依頼……
茎を切れるほどの切れ味を持つ刃物がこの町に無い時点でもう詰んでるだろう。
「まあ、案ずるより産むが易しだ。行ってみれば何かしら思いつくだろう。俺は仕事に戻る。頑張れよ」
と、考えるのをやめて、カウンターの方にスタスタと戻って行ってしまった。
最後投げやりかよ! 行ってみれば何かしら思いつくって……
まあ、ここで悩んで行かないよりはマシか。
ブックを見ると、現在時刻はにっゆう時ピッタ。
少し遅いが、とりあえず見るだけ見てくることにしよう。
壁にぶつかり倒れているセナの方へ行き、ポーチの中に押し込み、酒場を後にした。
夜の町は、人通りは少なかった。
ただ、夜の暗闇の中で家の明かりが点々としていて、大道りの脇には等間隔に赤や緑、青などの街灯のぼんやりとした光が交じり合い、幻想的な景色をつくりだしている。
日本の東京ほど……とは全く言えないが、この世界においてザトールはおそらく都会の方なのだろう。
確か依頼には北の方とか書いてあったな。
地図を見ればすぐ分かるのだが……そういえばブックに地図の機能があった気がする。
ブックを手に取り地図のアイコンをタッチすると、パミル大陸全体の地図が目の前に大きく表示される。
体育座りをしている前髪の長い男性みたいな形をしている。
パミル大陸の上の方には異常に大きな山がそびえ立っているらしく、依頼に書いてあった山とは、この山の事だろう。ただでさえだだっ広いこの大陸の四分の一は占めているだろうか。そして南にはフィレスの森と英雄の滝、左下に湖があるみたいだ。そこから水が流れてきて英雄の滝ができたのか。
西にはイリアさんが言っていたようにサン町が海に面して存在している。
まだ見足りない部分もあるが、ザトールの北……北の山から流れている川……これか? 大きすぎか。
山からは一つだけしか川が流れていなかったが、面積が異常に広い川があった。
これが……コルク川……?
確かに、地図を見ると、ワインボトルの蓋代わりになっているコルクの様に見える川がある。
しかしすごい川の流れ方をしている。途中から細い川と太い川に別れ、太い川は東の海に流れ、細い川はこの町に流れてきているみたいである。
町の北門が見えてきた。正門なのか、南門と比べとても大きい。門の上には大きい松明が二つあり、門の周りを淡いオレンジ色で照らしている。
町から出ると、地図に小さく映っていた川が横にあった。小さく映ってはいたが普通に大きい。川の幅は十メートルくらいで流れは緩やかだ。水面には、晴れた夜空の星と満月に近い丸い月が映り、流れる水が、その星や月の光を反射して輝いている。
そうだ、セナに聞きたい事があったんだ。元の世界を知っていたことについてとか。
ゆっくり歩きながら、ポーチからセナを取り出した。
「なに?」
目をこすり、眠そうにしている。
「聞きたい事がある。メルがいる場では聞けなかったから、こうしてセナを連れてきた」
「そう……で、聞きたい事って?」
俺の手を振り払い、自ら浮いたままの状態になる。一体どういう原理で浮いているのか。物理法則を完全に無視しているようだ。でも今聞きたいことは違う。もっとセナの核心に迫る様な事だ。
「なんで俺たちが元いた世界を知っていた?」
セナは満点の星空を見上げ、そっとため息をつく。
「それは、全てが終わったら教えてあげる。まだここでは話すわけにはいかない」
ゆっくりと地面に着地し、川の方を向きながら言った。
全てが終わったらって、魔王を倒すまでってことか? そんなに長く待っていられる気がしない。それに信用が……
「……さ、こんな話なんてしてられないよ! 早くデンジャラスエッグの様子を見に行くんでしょ?」
ぬいぐるみなのに、目から涙の様な液体が流れていて、月の光に反射して輝いているのが見えた。 なぜ泣いているのか。今はその理由が理解できなかった。
セナはポーチには入らず、草が綺麗に刈り取られた道に沿い、俺の前を歩いて行く。
静かな平原の夜道を二人で静かに歩いて行く。普通に話しかけたいが、なぜか話しかける事ができない。というか話せる雰囲気ではない。
明日にはこの雰囲気がとれていることを願おう。いや正直のところ今すぐとれてほしい。この変な緊張感が!
といっても、だいぶ歩いてきたが、一体コルク川のどこにデンジャラスエッグが大量発生してるというのだ。どこにもそんな場所は……あれ?
川岸で誰かが倒れている。でもどこかで見たことがあるような……どこだったかなあ……ってそんな事思い出してる暇はない! 今は人助けだ!
川岸に走り、倒れている人に近寄ると、見覚えのある顔と服装をした女性が傷だらけで倒れていた。
金髪でショートカット、それに茶色いコートにデントンハットに大きなかばん……フィレスの森で会った自称探偵のマミじゃないか! 何でこんなところでボロボロになって倒れているんだ!
両手でマミの上半身を抱えて揺らしまくる。
しかし、結構華奢な体なんだな……
「だいぶ弱っている……あたりの草が焼けているって事は、まさか手でデンジャラスエッグを触ったのね!?」
さっきまで黙っていたセナが、唐突に話し始める。確かに周りの地面をよく見てみると、草が焼け焦げて一部はげている部分もある。おそらくはげている部分の中心にデンジャラスエッグがあったに違いない。たぶん一つだけ触ったら爆発し、その爆発で周りのデンジャラスエッグも誘爆させられたのだろう。
「ん……あう、うぅ……あなたは……?」
意識を朦朧とさせながら、透き通る様な水色の目を少し開けて話かけてきた。
「マミ! 俺だ! 覚えているか!? フィレスの森で会ってアイテム渡してくれたろう!?」
「え……だれ……でしたっけ?」
覚えてないのかよ! でも大ダメージを受けただろうこの意識が朦朧としている中で思い出す方が辛いか……!
セナが必死に何度も何度もキュアーを唱えマミを回復させる。
そのうち、マミの息が安定してくるようになってきた。
「カナタだ! わかるか!?」
「……あ、ああ、一万五千ギフの方……ですね……もちろん、覚えていますよ」
少し回復したので元気を取り戻したのか、声が出るようになり、傷だらけの顔でにっこり微笑む。
よかった……けど、金額で覚えられるのはしっくりこない。
「とりあえず応急処置はしたから、すぐ町に戻ってしっかりした治療をしてもらおう!」
セナに指示された通り、マミを背負ったが、どうやらバッグを持ち上げられないらしく、セナが運べそうにない。
「バッグの前の方に付いている小ポケットに、コインがいっぱい入っているので、一つ取ってください……」
言われた通りに前についているポケットのファスナーを左から右に引き、ポケットを開けて小さなコインを一枚取り出す。
こ、これを取り出したらどうすればいいんだ!?
「取り出したら……う、ゲホッ……行きたい場所を言って投げ上げて……あ、でも一度行ったことのある場所だけですよ」
「わ、わかった!」
言われた通りにしないと! マミが何かもう……死にそうだ!
行ける場所……そうだ、みんながいる酒場に行こう!
「ザトールの酒場へ!」
大きい声で言って、コインを思いっきり投げ上げる。コインが頂点に達したかと思うと、粉々に砕け、周りが眩しいほどに青白く光り出すと、その光で目の前が一瞬見えなくなった。
そして、眩しくて閉じていた目を開けると、いつの間にかザトールの酒場の中へと移動していた。