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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第2-3章 【気分をあげていこう】
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155話 『依頼:装備品の素材集め2』

 ……結局思いつかなかったから、剣で全部ぶった切ってしまった。

 辺り一面に緑色の液体が広がって、一瞬で野原になってしまったが、白いもこもこも数えきれないほど生えていたから、これで100個という目標は達成しただろう。

 さっさと集めて北にある遺跡に向かおう。

 私は一本一本、形が壊れないように慎重に積み、10本ずつの束にして、茎の部分に雑草を巻いて離れないようにする作業を10回繰り返した。

 1、2、3……10。

 これで100個集まった。

 まだまだ残ってはいるけれど、どうせ使わないだろうし、そのままにしておこう。

 私は最後の束をポーチに入れ、再び遺跡目掛けて北に歩き始めた。

 ブックで時計を確認すると、もう8時を過ぎていた。

 そろそろシルス基シーゼルが起きてもおかしくない頃だ。

 それに、あの装備屋だって開店してしまうかもしれない。

 空間転移的な魔法でもあればその辺楽にできたのに……。

 新しく魔法が作れるか作れないかが知らないけれど、またあの時と同じ様になりそうで、とても使いたいとは思えなかった。

 魔法の削除をしたと言っていたけど、その前にも何か言っていたような。

 うーん、忘れてしまって思い出せない。

 それにしても、あの変な空間はなんだったのだろう。

 私の幼少期、私の住む家、私の誕生日、私の家族……それらをみせて、何かを伝えたかったのか……?

 それに、最後に誰かの名前を言ったような気がしたけれど、全く聞き取れなかった。

 ただ、明らかに私の名前じゃなかったことは明白だった。

 ……そのことについてセナさんに訊きたいけれど、得体の知れない恐怖が私の心を飲み込んで、勇気が出せない。

 一体、あれは何だったのか――。


 それから朝日が昇ってきた空を見上げながら歩いていると、荒野の上に今にも崩れ倒れそうな石造りの柱や、小さな建造物が見え始めた。

 いつの間にか、私は遺跡の入っていたらしい。

 ブックを取り出し、右についている長細いボタンを押し、電源を付けて地図を開いた。

 〝テナー遺跡〟、そういう名前らしい。

 ひときわ目立つ、大きな建造物が一つあったが、道中には、見たことのない蜂のような魔物や、大きなサソリ、滅茶苦茶狂暴そうなヘビなど、強そうな魔物がうろついていて、なかなか進めそうになかった。

建造物の影、柱の陰に隠れながら進んで、あの巨大な建造物を目指すことにしよう。

 魔物の目を盗み、私のいない方向へと振り向いたら次に隠れられそうな場所へ、次、次……それを何回も繰り返して、漸く大きな建造物に辿り着くことができた。

 いつのまにか、周りが壁に囲まれていて、私は完全に遺跡に取り込まれていた。

 さっきまでこんな壁はなかったはずなのに……。

 そういえば、ここは昨日通った道の近くではないだろうか。

 サラさんの家も北だったはずだし……。

 でも、昨日はこんな建造物なんて一つもみなかった。

 一体これは……?

 私は疑問を持ったが、一度考えだすと答えが出るまで考え続ける癖が出てしまうため、すぐに考えるのをやめ、巨大な柱が何本も立てられていた正面から、中に入るための扉を探した。

 柱の大きさに圧倒され気づかなかったけど、両開きの扉が丁度中央の位置にあった。

 その扉を恐る恐る開けて、扉と扉の隙間に足を入れ、閉じないようにしてから、首を突っ込んで中を確認した。

 外に比べると、中はだいぶ暗かったが、大きな燭台に小さな灯が宿っていて、全く見えないというほどではなかった。

 何もいないことを確認し、私はその神殿の中に入った。


「――ライト」


 小さな明かりの珠が私の目の前に出てきて、周囲を明るく照らしてくれた。

 瓦礫の山、大きな窪みができている壁、床、倒れている燭台、遺跡と言われることだけあって、とても古そうな遺物が沢山地面に転がり落ちていたり、骸骨が転がり落ちていたりと、いかにも、ザ・遺跡という雰囲気だった。

 入口付近の小さなホールには、ゴーレムらしきものは一体もいなく、その先にある部屋で、のろのろと動き、時折地面を鳴らして動く何かの影が見えた。

 ゴーレムはあれに違いない。

 私は走って、小さなホールから長い通路を渡り、次は巨大な空間に辿り着いた。

 その空間には、額に変な文字が刻まれた、無数の人型の青い岩々が、何をするわけでもなく、ただ茫然とし、その場で立っていた。

 私が横を通り過ぎても全く気にする様子はなく、岩の中に埋め込まれた真っ黒な眼球も動いてはなかった。

 私は部屋の中央に立ち、辺りを見回した。

 この部屋には、少なくとも30、いや、40体の岩の生物、ゴーレムがいる。

 微動だにせず、その場でじっと構えているが、一体だけこの部屋の端をぐるぐると周回しているゴーレムがいた。

 警備をするために巡回していると考えると、迂闊に手は出せない。

 それに、この中の一体にでも手をだすと、全てのゴーレムが動きだす罠があるかもしれない。

 だが、倒さないと石を手に入れることはできない。

 すると、突然地面が揺れ始め、天井が崩れ、落盤し、岩がゴーレムに直撃した。

 直撃したゴーレムは跡形もなく壊れ、中から、ライトに照らされ眩い光沢を放つ石が1つ出てきた。

 揺れが収まるまで、傘を頭の上で広げ小さな石を防ぎ、揺れが収まったと同時に動き出し、崩れたゴーレムから出てきた、光沢を放つ石を手に取った。

 ポーチから、おばさんに借りた石を取り出し、見比べてみる。

 形、色、光沢……この石で間違いないだろう。

 どちらもポーチにしまい、他にないか探したが、その瓦礫の中からは一つしか見つからなかった。

 複数体のゴーレムたちがこの揺れに反応し、黒かった眼球を赤く光らせ、周囲を見回し始めた。

 私は身をかがめ、その視線のさきに入らないようにした。

 私の腰の上を、擦れ擦れで赤い視線が通り過ぎた。

 見つかったら殺される、絶対に一斉に襲ってくる。

 私は手を合わせて願いながら、その時が過ぎるのを待った。

 だが、そううまくはいかなかった。

 一つの視線が私の顔に当たり、他の視線も私の方に向く。

 その途端、地面が大きく鳴り響き、その部屋にいる全てのゴーレムたちが一斉に動き出し、私のいる場所、つまり中央に向かって、ゆっくりを歩きながらやってきた。

 もう無理だ。

 この状況を打破し、逃げる手段が思い浮かばない。

 こんなところで融合魔法なんてものを使ったら、遺跡が崩れ落ち、ゴーレムもろとも私も岩の下敷きになってお終い。

 その瞬間、死を悟った。

 こんな一斉に、部屋のど真ん中で数十体のゴーレムに囲まれて、生き残れるはずがない。

 ふと横を見ると、白骨化し、朽ちかけている骸骨が私の眼に映った。

 きっとこの人も同じようにやられてしまったのだろう。

 骨が所々いびつな形をして、ヒビも入っていた。

 ゴーレムに殴り殺されたのだろうか。

 私も、そうなってしまうかもしれない。

 独りで来たこと自体、とても浅はかだった。

 せめて一人くらい連れてくるべきだった。

 せっかく監獄島から脱出してきたというのに……。



 私は、なんて馬鹿な人間なんだろう――。

 せっかく生きて帰ってきたのに、その命を無駄にするなんて――。



と、その時、少し離れた場所から、岩が崩れるような音がしたと思ったら、周りにいたゴーレムたちが、何者かに次々と壊されていった。

 ゴーレムが次々と壊されていき、砂埃が舞い上がった。

 目を瞑り、腕で目に砂埃が入るのを防ぎ、砂埃が消えるのを待った。

ゴーレムが壊れる音が一旦止まり、ゴーレムたちが立ち止まって、一か所に視点を集めた。

 私もその視線の先に目を向けると、そこには丸い球体が先端についている武器を持った一人の人間の姿があった。


「メ、メルちゃん!?」


 そこには、監獄島から帰ってきたときに一回も目にしていなかった、メルの姿があった。

次話もよろしくお願いいたします!

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