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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第2-2章 【テイシング監獄島 ~なつめと訳ありエルフの脱出大作戦~】
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136話 『天使と悪魔。偶に天使の方があざとい』

 海を切り裂いてモーセみたいに歩いていければなぁなんて考えて、海の上を雪上にいるかの如く軽快に滑って行く。

 一体どれだけ離れてるんだろう。この島は。

 地図に微かに見えた大陸の端っこ、そこに行けばなんとかなるはず。

 地図を見ながら、進む方向を確かめて、風を強くしたり弱くしたり、うまいこと調整をして大陸へ。

 海生物はいるけれど、襲おうとしても、私に追いつけずに諦めて去っていく。

 それよりこんなに潮を浴びて、私の髪の毛と肌大丈夫なのかな。帰ったらすぐにシャワーを浴びなきゃ。


(自分がどこにいるか分かるのいいね)


 こういうのは本当に便利だ。

 あいぽんみたいで分かりやすい。

 ただあいぽんの位置情報って正確じゃないんだよなぁ……。


「うん。私のいた世界も、こういうのがあるんだ」

(へぇ……いけたら行ってみたいなぁ……)


 そういえば、このゲームの世界から現実世界へは行けるのかな。

 転生だってセナさんは言ってたけど、こっちからあっちに戻るときも死んで帰るのかな。

 というか、死んで帰るってなんだ……?

 無言の帰宅みたいでちょっと嫌な表現。


「そうだね」


 ちょっと考えた後、私はそう返した。


(あ、大陸が見えてきたよ)


 崖から飛び降りて大体数十分。

 やっと大陸が見えてきて、私の海渡りも終わりを迎えそうだ。


「スピード、一気に上げるよ!」


 浜辺に一気に突っ込んで早くシャワーを浴びたい! どこでもいいからシャワー浴びさせてくれる人探そう!

 私は一気に、今出せる風力を最大に調整してスピードを上げた。


(ちょ、ちょっと早すぎない?)


 シーゼルが頭の中でそう訊いてきた。


「早くシャワー浴びたいから!!」


 なんか浜辺の近くに木造の家があるし、あそこに住んでる人から家のシャワー借りれたらいいなって思ってる。

 私はまたカッコつけようとして、浜辺に着く前に、風力を上方にあげて跳びあがり、浜辺にスタッと着地しようとした。

 が、ある問題点が一つ。


 スキー板のせいで、空中でバランスがとれない。


「わぁぁぁぁ!」

(きゃああああ!)


 私はそのまま、地面に頭から衝突した。

 不思議と痛みはなく、浜辺の砂の上に俯きで倒れたまま気を失った。


 その後、私たちの姿を見た者はいない……。



 …………



「……?」


 目を覚ますと、木製の板で敷き詰められた天井と、その天井に吊り下げられた強い光を放つカンテラが見えた。


「(あれ、私は――)」


 毛布でくるまれた私の身体は、元の重たい体に戻っていた。


「お目覚めかな?」


 左手から声が聞こえた。

 若い女性の声だ。

 椅子に座って、台の上で毛布にくるまれている私を看ているらしい。


「あなたは大丈夫だったみたいだけど、隣の子はちょっと怪我しちゃったみたい」


 首を横に向けると、シーゼルが頭に包帯を巻かれてぐっすりと眠っているのが見えた。


「あの、ここは……」


 そう尋ねると、女性は優しく微笑んだ。


「ここは私の家」

「はぁ……すみません、なんか」


 そうか、私は運ばれてきたのか。

 悪いことさせちゃったな……それに悪いことしちゃったな……。

 シーゼル、大丈夫かな。


「ううん。最初ね、外で大きな音がしたと思ったら、あなたたちが倒れていてね。吃驚びっくりしてすぐに家に連れてきて看病してたの」


 本当に申し訳ない。

 私がカッコつけようとしたばっかりに……。


「そうだ、その子の足についてた板みたいなの、壊れて粉々になってたけど大丈夫だった?」

「え?」


 シーゼルの足元を見ると、足には何も付いていなかった。


「本当だ……」

「大丈夫だった?」

「はい。あれ呪われた装備でしたから、外れてよかったです」

「ん? よかったならよかった」


 女性はまたニコッとした。

 そして、椅子から立ち上がり、「あったかい飲み物を持ってくるから、そのまま待っててね」と言い、扉を開けて部屋から出て行った。

 もしやここって、あの浜辺近くにあった家かここは。

 うーん、本当に申し訳ないことしちゃったなぁ。

 シャワーを借りようって考えた時点で図々しいけど、この状況でシャワーを貸してくださいとは言いづら――

 手を毛布から出し、髪を触ってみると、潮にさらされたはずの髪の毛はべたつきはなく、いつものように、大事なことだから、いつものようにさらさらしていた。

 何故……?

 もしや私が気を失てる間に身体を洗われた!?

 な、な、なんてことだ……。

 そんな趣味はないのに……。

 様々な思考を巡らせていると、扉の開く音がした。


「はい、ココア持ってきたよ」


 エプロンを着た、セミロングの黒髪の女性は、湯気の出ているティーカップの乗っているトレイを持ってきた。

 私は咄嗟に毛布に全身を隠し、その女性に尋ねた。


「あの、もしかして私の身体洗いました?」


 毛布からほんの少し顔をのぞかせると、女性はトレイを近くの机に置き、首を傾げて座っていた。


「髪にべたつきがあって、肌からちょっと潮の匂いがしたから洗ったけど、何か問題あったかな……?」


 この人は何も自覚していないのか!?

 眠っている女性の身体を洗うとか絶対におかしいとか思わないのか!?


「あの! 私が気を失ってる時に洗いましたよね? もしかして、私の身体見ました?」


 女性は何かを悟ったかのように、ふふっと笑った。


「洗ったとは言っても、私の能力で洗っただけだから、裸体とかは見てないですよ」


 能力、だって――?


「私のタレント、『ソフトウォッシュ』って言って、人の身体を洗えたり、心を浄化したりできるものなんだよね」


 私はとんでもない勘違いをしていたらしい。

 その女性はブックを取り出し、自分のステータス画面を開いて、自分のタレント能力が『ソフトウォッシュ』であることを示した。


「あぁ……そうですか……勘違いしてました」

「ふふ、面白い人ですね」


 女性はまた微笑み、台の隣にある椅子に座った。


「私はサリーって言うの。あなたは?」


 唐突に名前を聞いてきた。


「え、ええと、私はなつめです」

「ふむふむ、その隣の子は?」

「シーゼルっていいます」

「なるほど、二人とも良い名前ね」


 女性は、私をゆっくりと起き上がらせて、トレイの上に置かれていたティーカップを手渡した。

 喉が渇いていたからか、ココアを一気に飲み干してしまった。

 あったかい……美味しい……。


「あらあら、そんな一気に飲み干して。そんなに喉が渇いてた?」


 ティーカップを渡すと、ポットからココアを注いでまた渡してくれた。


「あ、ありがとうございます……」


 肩を窄めてティーカップを受け取り、今度は少しずつ飲んでいった。


「私、ご飯の準備してくるから、そのまま安静にしていてね」


 そういって女性は再び部屋から出て行った。

 ……迷惑な気がしてきた。

 もう出て行った方がいいかな。コッソリ出ていけば気づかれないかもしれないし……。

 でもそれはそれで申し訳ない気が……。

 う~私の中にいる天使と悪魔が言い争ってる。

 つまりすごく葛藤してる。

 出ていくにしても、シーゼルが目を覚まさないままじゃ無理だし……。

 私がシーゼルの身体を酷使したせいなのかな……すごい疲れてる。

 ――もう、私の中の天使に従おう。

 もうご飯、戴こう。

 私はココアをまた飲み干し、テーブルの上に置いて横たわった。


次話もよろしくお願いいたします!

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