10話 『弱点と逆転と秘密!』
☆9話のあらすじ☆
マコトムシメガネで二人の無事を確認し、二人が捕らえられている木に到着した。
が、すぐオーガと戦うことになってしまい、打開策はないかと考える。
隠れる場所を見つけようと村の中を走り回るが、オーガが棍棒を振り回しながら追いかけてくるせいで、もともと腐っていた木造の家が次々に壊されていき、隠れる場所がなくなっていく。
どうすればいい……
ふと目についたのは腰に付けていた木の枝。
仕方ない、これをあいつにぶつけてその隙に!
全力で木の枝をオーガに投げつける。それはオーガの顔に飛んでいき、運良く目に当たった。
『ウガァアァァァア……!』
オーガの叫び声が聞こえた。痛そうに手で目を抑えて怯んでいる。
もしかして目が弱点なのか……?
まさか木の枝がこんなにも役に立つとは。
とりあえず怯んでる間に隠れよう!
ささっと植物で覆われた家の陰に隠れる。
そして、マコトムシメガネでオーガの倒し方を一心に考えると、レンズにオーガが目を抑えて怯んでいる姿とオーガの背中にある大きな痣が映し出された。
「これは……!」
オーガの目、そして背中にある痣、この二つが弱点という事を示しているのか!
なら、再度目に何かしらを当ててメルに背中の痣を狙って攻撃してもらうというのか最善の策か
でも、メルが遠くにいるのではこの作戦を伝える事が……
「何か良い作戦を思いついた?」
「ぬわっ!?」
いつの間にかメルが俺の隣に来ている。
ちょっと驚いたが、実にナイスタイミングだ。
この機会にメルに作戦を伝えなければ!
「メル、俺が惹きつけるから、その間パワーアップで自分を強化するんだ。強化が完了したら大声で伝えてくれ。そしたら俺があいつを怯ませるから、その隙に背中にある痣に全力で打撃をいれるんだ!」(※良い子は真似しちゃダメです)
メルは「り!」と言い、サイレントをしてどこかに消えていく。
さて、全く考えていなかったが、どう惹きつける。そして何を投げつける。
仕方ないし、また木の枝を投げつけるしかないか……どうせなら惹きつけ役はウサギにやってもらいたい所なのだが、何故かぐったりとしていて全く反応してくれない。
こういう肝心な時に役に立たない。
オーガが棍棒を振り下ろす。俺が隠れている家を破壊され、完全に場所がバレてしまった。
オーガは先ほどの俺がした事による恨みからか、激怒している。
「くそ、やるしかない!」
木の枝を急いで拾い、また逃げる。
少し休めたのはいいが、さすがに走るのがキツくなってきている。こりゃ明日は筋肉痛で足がパンパンになりそうだ。まぁ明日がやってくるかどうかはこいつを倒してからの話なんだが!
脇目も振らず俺にだけ向かって棍棒を振り下ろしてきたり、振り回してきたりする。
どうやら才能はないが、避けることに関しては、いつも現実逃避をしてきた分、この現実に
対して避ける事が得意になっているみたいだ。これは良い事とも言えるのではないのだろうか。
「強化完了です!」
メルの声が聞こえた。よし、今だ!
手に持ってた木の枝を再度オーガのめにめがけて余力を一気に使い切るように投げる。
頭が非常に悪いオーガは、学習能力が低く、目を手で隠そうとなんてせず、見事に木の枝はオーガの目に命中し、オーガはまた叫び声をあげて怯んだ。
「メル! 今だ!」
咄嗟にメルに声をかける。
メルは既にオーガの後ろに回り込んでいて、オーガの背中の痣めがけて走っていく。
そして、ジャンプして勢いよく上から杖を振り下ろし、痣の部分に痛恨の一撃を加える。
その瞬間、周囲にはものすごい衝撃が走り、地が揺れ、木が揺れ、オーガの周辺の地はへこみ、ついでに俺も衝撃で吹き飛ばされた。
そしてオーガはうつ伏せに倒れる。
「やった……! 勝ったぞ!」
メルは疲れたのか、パタリと倒れている。
いや、仕方ない。メルはよくやってくれた。
メルをおぶる……意外と軽いな。
そして獣人のもとに歩いて行き話しかける。
「オーガを倒したぞ! 二人を返してもらう!」
すると、獣人が降りてきて、
「確と見届けた。二人は返そう」
よし、これで……
「ただ、無事に帰すとは言っていないがな!」
そう言うと、狂気に満ちたような表情を浮かべた獣人は俺たちに襲いかかろうとしてきた。
体力ももう残っていない。もはやこれまでか……ごめん。メル。なつめ。イリアさん……俺が不甲斐ないばかりに……!
「ちょっと待って」
さっきまでぐたっとしていたウサギが声を出し、目の前に出た。
しかし、獣人はウサギになりふり構わず攻撃を仕掛けようとする。
俺は咄嗟に「危ない!」と声を出した。
次の瞬間、ウサギに獣人の爪があたる。
しかし、ウサギには攻撃か全く通っていない。
それどころか傷ひとつない。
むしろ、攻撃を受けて傷を負っているのは獣人の方だ。一体、一瞬の間に何をしたんだ。
「フィレス。まさか私のことを忘れたなんて言わせないよ?」
獣人は、驚いたような顔でウサギの方を見る。
フィレス……? この獣人の名前か?
でもなんで知っているんだ。初対面のはずじゃ……
「その声、もしや『セナ様』では……!?」
獣人は正気を取り戻したかのように話す。
セナ様……このウサギを操っている本人の事か? でも何でお互いの事を知っている。
「覚えていてくれてよかったよ。まさかかつての部下に襲われるとは思わなかったなあ」
部下だと……? この獣人が?
一体このウサギはどんな存在だったんだ。
「セナ様、この度の無礼申し訳ありません。私がおかしくなっておりました。まさかセナ様と気づかずに攻撃を仕掛けてしまっていたとは……」
獣人はウサギの前で、片膝を地につけ、まるで王や公爵の前にいるようにしゃがんだ。
「とりあえず、あの牢屋から二人を出し、そして起こしてあげて。私の友人なのよ」
フィレスと呼ばれる獣人は足早に木のくぼみつけられた牢屋に向かい、鍵を開けてなつめとイリアさんを解放した。
そして、獣人は二人に向かい変な呪文を唱えると、目を覚ました。
なつめは、何が起きたか分からないかのように辺りをキョロキョロと見回す。
一方、イリアさんは獣人に対して身構えているように見える。
「なつめ! イリアさん! 助けにきた!」
なつめはやっとこっちに気づいた。
しかし、イリアさんも気づいただろうに、まだ身構えている。
「この度の無礼、本当に申し訳ありません。まさか貴女方がセナ様のご友人だったとは気づかずに……」
なつめは依然キョトンとしたままだが、
イリアさんは話を理解したかの様に立ち上がり、なつめの手を取り立ち上がらせ、一緒にこちらに向かってきた。
本当に無事で良かった……心の底からそう思った。
「みんなに話したい事があります」
そう言ったのはフィレスにセナ様と呼ばれていたウサギだった。いつもにない真剣な口調で話をする。
「なつめさん、カナタさん。今まであなた達に秘密にしていた事を話します。私は二十年前までこの大陸を支配し、魔王の下についていた幹部の一人、要は魔物です」
このウサギの主が魔物!? でも今はサン町で占い師やってるとか言ってたよな。
やはりなつめも俺と同じ様に動揺しているみたいだ。まあ最初から一緒にいたわけだからな。
「あの時の勇者の一人、イリア。あなたなら私の事が分かるのでは?」
「もちろん、覚えているわよ。あなたには苦戦したわ。いくら攻撃したってダメージが通らなかったからね。ほんと最初の頃はうざったらしかったのなんのってね」
ダメージが通らない……? それは、完全なチートじゃないか。
それにイリアさんが勇者の一人……? 一体どういう事なんだ。
「あ、そういえばカナタくんには言ってなかったわね。二十年前のこと」
イリアさんが二十年前の出来事を端的に教えてくれた。
四人の勇者について、その後など。
とは言え、まさかイリアさんが魔王討伐をした勇者の一人だったとは!
じゃあ今いる魔王って一体何なんだ?
「あの、じゃあ今いる魔王って一体何なんです?」
「おそらく、封印の力が衰弱し、それを狙って魔王が封印を打ち破り、魔王が復活した。そう考えるのが妥当だと思うわ」
魔王ってそんな封印を破っちゃうほど強いのかよ。俺ら軽々と倒せと言われたけどそんなイリアさん達みたいに力無いし、倒せないかもしれないぞ。
「あ、話戻していいです?」
口を挟んできたのはセナと呼ばれるウサギ。まだ話し足りないらしく、少し不満そうにしている。
こほんっと咳払いをし、話を続ける。
「で、私は勇者達に『ある事』をされ、やられたわけです。そのあと魔王がさっと封印されて、私は幹部の役目を終えたんです。が、また復活した。だから職なしでね。当時私に仕えていたルナとサンは付いてきてくれたんですけど、他のみんなはもう違う幹部に付いちゃったらしく、職なし嫌ですし、仕方ないから手軽な占い師をやろうかなっと思ってサン町で始めたわけです。それで使える様にしたのがこのぬいぐるみってこと」
ウサギはスッキリしたのか、耳でハート型を作る。それ、オーケーサインじゃないのか。
というか、冒頭のある事をされてとは何だろうか。まさか、いかがわしい事じゃないだろうな!?
「聞きづらいんだけど……そのある事って何だ?」
ウサギは耳をしぼめ、言いたくなさそうにもごもごして俯いている。
表情がないのに、中の人がかなり表情暗くしている光景が目に見える。
そこにイリアさんが申し訳なさそうに再度話に入り教えてくれた。
「私から説明するわ。まぁ、勇者たる者こんな事をしていいのかという話なのだけど……簡単に言うと、精神攻撃よ」
精神攻撃……俺も嫌いではある。
普通の攻撃よりもさぞかし残酷な攻撃だろう。
「イリア、あんまり思い出したくないからそれ以上はやめてください。お願いします……う、
うぅ……」
「わ、わかったわよ……」
ウサギは泣きながら地べたにつきイリアさんに向かって土下座をする。
モンスター相手にトラウマを与える程の精神攻撃を仕掛けたのか……きっと俺の想像を軽く越える様な猛攻だったのだろうな……
てか、さすがにずっとメルを背負っているとキツイ。そろそろ降ろしたいのだが、
「むにゃむにゃ……マロン……マロン……いっぱい……ふふ」
マロンクリームパンがいっぱいある夢を見ているのだろうか。
尚更気持ちよさそうに、幸せそうな顔して寝てるメルを、無理に起こすわけにはいかない。
……あああ! 俺の服によだれを垂らさないでくれ!
「あ、お兄ちゃん。何でいるの?」
なつめはまだ眠そうにしていて、目をこすり、あくびをしながら話しかけてきた。
「助けに来たんだけど……」
「え? 助けに? 何でお兄ちゃんみたいな貧弱な衰退生物が私を助けに来たの?」
いや、だってウサギに言われて来たし。
……それに貧弱な衰退生物ってなんだよ……
でも何でと言われれば何て言ったら良いのだろうか……考える前に口と体が勝手に動いた?
……なんか変だよな。かっこつけている感じがする。
「それと、その背中に背負ってる子は? まさか……道中でナンパしてゲットしたの? 」
違う! 何でみんなそんな感じの発想になるんだ! さすがに誤解されすぎだろう!
まぁ、確かになつめがいない時にメルは仲間になったから、ある程度は疑いの目をされても仕方ないとは思うが、そもそもコミュ障がナンパなどできるものか!
「違う。この子はザトールで仲間になった魔法使いのメルだ」
なつめは驚いて目が丸くなっている。
「お兄ちゃんが、仲間をつくるなんて……成長したね、良かったね……初めてのトモダチ……」
なつめが涙をこぼしながら話しているが、なんか俺、妹にナメられてるみたいだな。
そのあと、フィレスは俺らに改めて謝罪をして、なつめを連れ去った理由を話した。
なんと自分の嫁探しをしていたらしく、人狼族がみな新しい幹部に付く中、フィレスだけは付かず独立し、フィレスを信頼していたゴブリン達と一つ目オーガだけは付いてきてくれたらしい。
それで、町から出たなつめ達を見つけたゴブリンがその後をつけ、英雄の滝で待ち構えていたオーガと合流し、なつめを連れさらったわけだ。その間なつめはフィレスのスキルで眠らされていたらしく、その後を追ったイリアさんも眠らされ、あの牢屋に入れられたらしい。
さすがにオーガに関しては可哀想だと思ったので、イリアさんとなつめが何とか回復してくれた。 あと英雄の滝にいた傷だらけのゴブリン達も帰ってきて、回復させてからフィレスの森を離れた。
結局フィレスは、悔い改め人狼族の中から嫁探しをすると言っていた。
また会ったらよろしくとは言われたが、もう会う事はないだろう。絶対人狼族の住処なんて行かないし。
といっても、とんだ迷惑な話だった。
今後はこういう事がないように願うだけだ。
——フィレスの森を離れ、ザトールに帰ってきた時には、もう18時を疾っくに過ぎていた。
イリアさんとは別れ、急いで酒場に向かう。 酒場のマスター、ガイルさんに事情を話し、何とか辞めさせられずには済んだが、今後は気をつけろと怒られた。
そして、玄関に張り替えられていた、あと一人くらいアルバイト募集中の紙を見たメルも「私もバイトをしたい!」という事で酒場でバイトをする事になって、結局仕事をしていないのは俺だけになってしまった。
ちなみに宿はこの町には無いらしく、俺の思った通り、自分の家を買うしかないらしいと言われたが、ガイルさんのお計らいにより、家が買えるまでは特別に泊めてもらえる事に。
それで、俺はバイトをしない代わりに、酒場の依頼掲示板にある依頼をこなす事になったけど、こっちの方がキツくないか!?
まぁでも、夜になると仕事を終えた大勢の客がひしめき合う酒場の方が精神的にももっとキツイか……
こればかりは仕方ないし、文句は言わずにやろう。
——そしてここから、パミル大陸での、たぶん『ちゃんとした』異世界生活が始まる。
【主人公以外のキャラ補足!➀】
サティス・イリア (354歳 女性)
タレント能力《星の力の創生》
どこでもいくらでも星の力を作り出す事ができる。占い師になる為だけに生まれてきたような才能。
20年前に魔王討伐をした、勇者四人の中の一人。
354歳とは思えないほど健康で、それに肌はもちもち、プラス美麗。
なので占い目的だけではなく、イリアさん目的に男性が占い師の館に来ることが多く、よく口説かれる為大変困っている。
(ちなみにイリアさんは、この町ができた頃からいるらしく、歳に関しては「私は不老で超長寿なのよ!」と言っています。)
スキルは主に回復と補助。攻撃は魔法だけ。
ただ使えるものは全て初期魔法だけで中級、上級、特級魔法は一切扱えない。ちょっとかわいそう。