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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第2-2章 【テイシング監獄島 ~なつめと訳ありエルフの脱出大作戦~】
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134話 『いつか必ず――』

前話より長めです。

 ――人間が、結界を壊して、私たちの集落に奇襲を仕掛けてきた。

 見たことのない武装をして、集落にある家々を次々と焼き払っていった。

 私がエルフたちを神殿に続く道に誘導したて、私や〝お母さん〟を含めた総二百名くらいを神殿へと連れて行った。


 ……ところが、神殿には、私たちが来るのを知っていたかのように、ある人間が待ち構えていた。

 学者――私にシルス様の力を加え、人間たちにエルフ〝そのもの〟が恐怖の象徴だと、人間たちに植え付けた張本人であった。

 何故かその学者は、当時の姿を一切変えずに、その時そこに存在していた。

 そして、その男は私たちエルフにこう言った。


『クックッ……ここに来ると思っていましたよ。無謀にも足掻くエルフの皆さん。この世界に居場所がなくなったら、別の世界に行けばいい……そんなこと、私が分からないとでも? ……はて、本当に分からなかったのでしょうか? クックッ』


 一部のエルフは困惑していた。

 何せ、その学者の存在を知っていたのは、私と〝お母さん〟だけだったからだ。


 ……神殿に行くには、底の知れない渓谷を経由していかなければならない。

 それも、渓谷は強風が吹き荒れていて、橋を創るにしてもとても作れるような場所ではなかった。

 神殿がある地は、他の土地から完全に孤立していて、その周りが渓谷になって囲まれているという特殊な土地だった。

 風に乗ったり、風を多少となり操れるエルフなら苦はなく来れるものの、とても人間がこれるような場所ではなかった。

 黒いフードに黒衣を身に着けた学者は、如何様にしてこの神殿に来たのか、不思議でならなかった。

 それに、何故この学者は歳を食った雰囲気が一切ないのか、何故異界転移のことを知っていたのか、何もかも不明点しか見つからなかった。


 ……その学者は続けざまに語った。


『困惑しているようですね……ククッ。私がここに来ることを想定していなかったような顔です』


 その学者の言う通り、他のエルフたちは皆動揺していた。

 そして、神殿中に響き渡るような声量で、高々とあざけ笑った。


『クハハハハ! お前らはここで死ぬ。別世界になど逃がしはしません。その代わり、痛みもなく楽に殺してやりましょう。手始めに……そうだな、右の君からやるとします。クックック』


 その学者は怪しげな呪文を唱え始めた。

 詠唱が終わったかと思うと、私たちから見て左側の先頭端にいたエルフの青年が、苦しみながら悶えて倒れた。


『おっと、苦しそうにしていますね。唱える呪文を間違ってしまったか? ククク。いや、死を受け入れないから苦しむのですよ。死を受け入れなければ苦しむことなく安らかに死ねる。そういう呪文です。クックック……さぁ、お次は誰かな?』


 次第に弱っていったその青年のエルフは、十数秒経つと、もうピクリとも動くことはなくなった。


『お次は、そうですね……じゃあ、先頭の真ん中の君……の隣のおばさんですかね。ククク』


 私の隣――つまり、私の〝お母さん〟だった。

 私は、詠唱を始める前にその学者に掴みにかかった。

 だが、私がその学者を殴りかかったとき、学者の姿はなく、別の場所にその姿があった。


『おやおや、相変わらず喧嘩っ早いね、君は。まるで〝あの時〟のようです。君とあの子を殺そうとしていた家族を、無意識に先に殺してしまった時の様……。ということは……そのエルフは、君にとって大切な人なんですね?』


 その時、始めて真実を耳にした。


 無意識に私が家族を殺した……?


 あの子を殺そうとしていた……?


 そんな話なんて聞いたことがなかった。

 その時、何となく察しがついた。


 家族のエルフが死んでいたのは、家族がエルフを殺したから――


 無意識の中でその光景を見た私は、その時に一緒に寝ていた女の子の部屋に近づいてきた家族を、襲い掛かった――


 きっとあの時、家族は暴走した私に怯え、逃げまどい、私に殺されたのだろう――

 そう思った。


『あの子は君が消えた後、村の人に捨てられましたよ。厄神の御使いだとか言われて。今はどこにいるかは知らないですが、おそらく死んだでしょう。神の御使いだろうが人間の子は人間です。きっと、君の体にも変化はあったはずです。ククク』


 実際、私の体には変化などなかった。

 それは今も継続して、何もない。

 だからこそ、怖いところもあった。

 それはそうとして、あの子が捨てられた。

 村の人に捨てられたという事を聞き、私はショックで脚の力が抜け、立つことができず、神殿の硬い地面に崩れ込んだ。

 腕も力が抜けて、地面に両手がついた。


『さて、次は君の大切な存在を、君の目前で殺してあげよう。さて、君はどんな表情を見せてくれるかな? 非常に楽しみだよ。クク』


 どうすれば止められるかが分からなかった。


 ――私はあの子も救えやしなかった無力な存在だ。

 ――今まであの子のことを考えるだけで何もせず、結局救うことができなかったじゃないか。


 そう思うと、身体が動かなかった。

 その学者は崩れ込み、座っている私に近づき、耳元でこう囁いた。


『――だから君は、誰も救えないのですよ。神の力を授かった、エルフの出来損ない――』


 心は怒りに満ち溢れていた。

 そのことが真実で、受け入れたくなかったのに、受け入れたくないはずなのに、受け入れることしかできなかった。


『さて、そろそろ始めましょうか……』


 その学者は、私の隣で静かに呪文を詠唱し始めた。


『――させるか! みんな!』

『――おう!』


 男エルフたちが、総勢で学者に立ち向かっていった。

 学者は詠唱をやめ、抗うと思っていなかったのか、驚き私の攻撃をかわした時と同じように瞬間移動して別の位置に立っていた。


小癪こしゃくな……抵抗しますか! このどうしようもないエルフなんぞの為に!』


 学者は祭壇の上で、大声でそう言った。


『その人の母親を殺させはしねぇ! シーゼルさんがいたからこそ、俺らは生き延びてこれたんだ。ここで簡単にくたばるわけにはいかねぇんだよ! シーゼルは俺らの希望なんだ!』


 一人の青年エルフがそう言うと、数十人ものエルフが学者に立ち向かっていった。

 私はその青年のエルフの〝希望〟という言葉を聞いた時に思った。


(みんながこうやって立ち向かっているというのに、私だけ自分のことばかりを考えて、自分で自分を追い込んで、何もできなくなっている。そんなんじゃだめだ。私がいないとみんなが助からない。私がやらなきゃだめなんだ……!)


 と。


 立ち上がって、戦えるエルフに守ってもらいながら、みんなを誘導して、祭壇の上に乗せた。

 そして、私は詠唱をし始めた。

 学者は、他のエルフがある程度動きを封じている。

 ……詠唱をし終え、祭壇の地面が若竹色に輝き始めた。

 学者は私たちを逃がすまいと、呪文を唱えようとするが、エルフたちが抵抗し、それを止められて怒り狂っていた。


『逃がすものですか! 貴様らを根絶やしにさえすれば、この世界は私のものとなるというのに!』


 その学者は怒りの表情を浮かべ、地団駄を踏んだ。

 そして、ついに転移の準備が整った。

 私は戦っている青年エルフたちに呼びかけたが、彼らは矢を放ちながらこう言った。


『俺らは大丈夫だ! もし転移中にあいつが何かをして失敗なんてしたら意味がねぇ! お前らだけでも行け、俺らはここで絶対に生き延びる! だから安心していけ!』


 私は、その言葉を信じ、静かに頷いた。

 手を掲げ、転移するための最後のコトバを言い放った。


 ――メタスタス!


「いつか必ず、助けに行くから――!」


 若竹色の光が私たちを包み込み、謎の空間に連れて行かれた。

 そのうち、意識も失い、私たちはその空間を彷徨った。

 そして、どのくらい経ったかは分からないけれど、私たちは、あの大陸の荒野のど真ん中で目を覚ました。

 だけど、私が目を覚ますと、私の周りには数十のエルフしかいなかった――

 みんな、ばらばらの場所に転移してしまった。

 それから、ここで生きる術を見つけようとした。

 その学者がいないこの世界で。

 この世界にいた人間は、私たちに対して、優しく接してくれた。私たちの警戒心はある程度解け、あの町でカフェを始めた――



(それ以降は、監獄で話したことね。今はもう、私の仲間はあいつらに殺され、誰一人いなくなった。お母さんも違う場所に転移してしまったし。消息も不明なの。本当に心配でね――)

「なるほど…………」

(…………正直、引いた?)

「全然引いてないよ」


 私は笑顔でそう答えた。

 人を殺したことは正直驚いたけれども、そんな辛い経験があったなんて知らなかった。

 色々と深い話がまだありそうだけど、あまり触れないようにしよう。

 こういうことは思い出させたくない。

 正直、聞かなきゃよかったって後悔さえしてる。


 …………。


 いや待てよ私。

 そういえば時々年数の話が出ていたけれど……


 この女エルフ、一体何歳だ――?


 あ、それにしてもすごい文量だったよ。

 まるで長編小説の中で作られた短編小説を読み聞かされてるみたいだった。

 ……長編小説の中で短編小説書くなって話なんだけどね。 

 うん。


『作業、終わったよ~』


 すると、小さな精霊たちが私たちを得意げな顔で見上げて、何かを欲しそうにしていた。


(あ、魔力あげなきゃ)

「魔力? MP?」

(うん。9だけね)


 精霊たちは、出来も質も良すぎる木のスキー板っぽいものを持っていた。

 うーん、ここまでしてもらって9だけってのもなぁ……。

 あ、じゃあみんなに魔力回復薬をあげよう。そのくらいかそれ以上のことをしてもらったんだから。


「じゃあ、これどうぞ。美味しい魔力回復薬だよ。一人一本ね」


 私はポーチを弄って小瓶を精霊の数分取り出した。

 なんか途中でウサギの耳みたいなのも掴んじゃった気がしたけど、それはポーチの奥深くに詰めた。


『いいの? こんなに』


 精霊は目を輝かせてその小瓶を受け取った。


「うん。だってこんなに綺麗なもの作ってくれたんだもん」

『わーい!』

『おいしーい!』


 子どもみたいに無邪気な精霊。

 可愛らしい。

 めんこい、めんこい。


『じゃあ、板に乗ってる間は絶対に落ちなくなる機能もつけるね! えい!』


 …………?

 や、それは最初からつけといて!

 ――それから、私は二枚の板を受け取り、精霊たちが幸せそうに帰った後、波風吹き荒れる海の傍の崖際に再び立った。

さぁ、これからどうなるのか……。その〝いつか〟はいつやってくるのでしょうか……?


憎らしいキャラを作るのはあまり得意ではないのですが、今回はうまくいきそうです。

学者って『なんかよく分かんないけどムカつくヘイトホイホイキャラクター』が多いですからね。

次話もよろしくお願いいたします!

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