132話 『話す時、語頭に「なんか」ってついちゃうよね。「あっ」的ななんか。これ癖かな』
「よいしょ、よいしょ」
木を伐り始めて数分、なんと二本もの木を伐り倒すことができた。剣の刃こぼれもなければ、ほとんど疲れることなく作業を続けることができた。
この身体は本当に万能だ。脳以外は万能。
体力はあるし、初期ステータスが高いおかげで、戦闘はそこまで疲れることなくできそうだし、こういった重い作業さえ簡単に熟すことができる。
私のステータスがこれデフォルトだったら、私強い系の異世界物語になっただろうに。変にバランス調整していた。
でも実際、異常に強力な魔法を創りさえすれば、この世界の魔王の部下と魔王と倒すことができる。
ただ、この世界はあくまでお兄ちゃんを更生させるための世界であって、私を主軸とした世界ではないはずだから、私が変に前にしゃしゃり出て壊していったら意味がない。
……の、わりに、私は結構な大事件に巻き込まれてる気はするけども。
これもお兄ちゃんの心を揺さぶる何かなのかもしれない。
ある意味縛りプレイをしてるような感覚。
私が危なかったり、皆が危なかったりしたら使うけど、この能力が使えるとなったらお兄ちゃんは早くこの世界を終わらせようとするに決まってるし、セナさんだってそれを簡単に見過ごすわけにはいかなくなるだろう。
ご都合なのかなんなのか、偶々発動しちゃったからなぁ。
恐らくデバッグ用の能力だし。
(あ、二本でいいんじゃない?)
すると、私の心の中の呟きの間を縫ってくるように、シーゼルが語り掛けてきた。
「え? 二本じゃイカダは作れないよ」
目の前に倒れているのは、まだ葉が大量に残っている重そうな黒い木。
とても二本でこの大荒れの産みを渡るのは無理がある。
(だから、足に一本ずつくっつけて、雪の上をスーって滑るみたいにできないかな)
「無理だって。どう見てもこんな重そうな木どうするの? 今にも「私を愛してるって言ったのに……嘘つき!」って言ってきそうな木の顔だよ?」
(ここで森の精霊の力を借りるの)
精霊だって。
そういえばスキルに『森の精霊呼び』なる項目があったようななかったような……いやある。
森の精霊って言っても、そんな高度なことできるのかな……?
「うーん、やらないよりはやった方がいいし、やってみる」
(よし、じゃあ森に呼びかけて)
「え」
予想以上にド直球な言い方をしてくるこのエルフ。
やったことないことを教わらずにできるはずないじゃない……。
(無理? うーん、私が入っちゃったら使えなくなっちゃうし、やっぱりなつめにやってもらわないと)
「でも……」
(じゃあやり方を教えるよ)
最初からそうしてよ!
(感覚的な問題だけど、森の精霊を使役するには、直接何をしてもらうかを指定しなきゃいけない。まずは、そこの木に意識を集中させて)
「う、うん」
木に意識を集中させる……? こうかな、じっと見つめればいいのかな……?
(うんうん、そんな感じそんな感じ。ほら、木の上にもやっとしたものは見えてきたでしょ?)
「あ」
本当だ。倒木から緑色のもやが。
(それは、木系統のものに森の精霊を惹きつけるためのエネルギーなの)
「へぇ……」
(次は、精霊に倒木をどうしてほしいかを念じる)
「うん」
えー、二本の倒木をそれぞれスキー板の一枚一枚に加工してくださいお願いしますお願いします。
……これでいいのかな。
(よし、条件が整ったみたいだね。じゃあ精霊を呼ぼう)
「え、どうやって?」
(うーん、そこはよく分からないんだよね)
えぇ! それじゃあこの状況をどうすればいいっての!?
神経を集中させ続けるって結構大変なことなのだけども!
(なんか、精霊こーい、みたいな感じでいいんじゃない?)
「そんな適当でいいんでしょか」
(えーだって他に思いつかないし。ショージキテキトーでよくなーい?)
どっかのチャラい女子高生みたいな話し方をするな。
それにしても困ったなぁ……精霊を呼ぶスキルは、シーゼルも使ったことがないはずだから、仕方が分からない。
いや、でも何でそれまでのやり方を知ってたんだろう……?
「うーん、じゃあもいっか……精霊さーん!」
ちょっと雑に呼んでみると、森が騒めき、突然空が緑色に染め上げられたかと思うと、その緑色の空から、透き通った美しい羽根を携え、腰に小さい鋸や、大きな紙やすりを持った、白い衣を着ている小さな体の女の子や男の子が数十人規模でやってきた。
「おぉ」
(わぁすごい。初めて見た)
この規模でこの二本の倒木からスキー板を創るんだ。精霊って大変なんだなぁ……。人間だったら時間はかかるけど、一人二人でも小一時間でできちゃいそうだよね。
『みんなー! 久しぶりのお仕事、張り切っていくよー!』
先頭にいた茶髪のセミロングの精霊がそう言うと、周りにいた精霊たちもそれに続いて、手を握りしめ、掲げて意気込んだ。
そして、木工作業に素早く取り掛かり始めた。
「すごいね、これは」
(私が元の世界にいた時は、ずっと精霊と戯れていたから、こんな風に呼ぶことはなかった)
そういえば、シーゼルの世界にいた時の事、詳しく訊いていなかった。一体どんな感じの世界だったのだろう。
「ねぇ、シーゼル」
(ん? なに?)
「シーゼルのいた世界の事、詳しく知りたい」
(…………そうだなぁ……。こうなってしまった以上、一応話しておいた方が隠し事なく楽になるだろうし……分かった)
さて、シーゼルの事を知れるチャンスだ。メモの準備を。
(――なんか、私の元いた世界はね、元々人間とエルフが共存していた世界だったんだ)
あっ、なんか次話もよろしくおねがいいたします!




