130話 『壁を壊せば大体何とかなる気がする』
あの三人組の言った通り、進んだ先には扉があった。いかにも出入口という感じの、翼を広げた紋章が描かれた薄い緑の扉だった。
よし、せっかくだから私は赤の扉を選ぶぜ。
……この言葉に意味はないよ。ただ単にやってみたかっただけです。だってほら、何がせっかくなのか意味不明だし、扉は赤くないし、そもそも扉は一つしかない。
よし、扉を開けてすぐにここから出ていこう。
私は扉を開けようとドアハンドルを探すが、この扉に取っ手らしいものはない。
あー、これ呪文唱えて開けるパターンだ。
『クックック……私は認められた者しか通さない生きる扉なのです』
男性なのか女性なのかよく分からない声が聞こえてきた。
「誰!? どっから声出してるの!? あと私今すごく急いでるので開けてくれません!?」
『私は扉です。目の前にいるでしょう。ちなみに声の出どころはよく分からない。そして、罪人として登録されたあなた方を通すわけにはいかない』
全然そんなパターンじゃなかった。
「な、意地悪!」
『フフ……私は職務を全うしているだけですから』
「そうかぁ……他に出るところはないんです?」
そう訊くと扉は突然得意げに笑い出した。
『ハハハ! 私以外に外に出る扉はありません。この屋敷には窓もないのです』
「うーん……」
私は私(本体)を抱え、扉前をくるくると歩き回りながら考える。
他に扉がない……。というかここ窓もなかったんだ。通りで空気が美味しくなかったんだね。息苦しい感じがたまらなかった。特に地下牢獄なんて最悪だった。
……そういえばここってゲームの世界なんだっけ。あるよねこういう通れない場所。この手のイベントは、条件とかフラグとか立たないとダメなんだってね。
きっとこの扉に、私たちが通行許可者と認めさせるしかないんだよね。でもめんどくさそうだなぁ……。他の部屋を見てみたいけど、さっきの三人組のことが心配だし、もし私が手段を見つけようとしてる間に倒されてしまったら……。
……本当はあんまりやりたくなかったんだけど、この身体ならできそうな気がする。
いつもゲームをやってて思っていたことをしよう。
――禁断の技を。
『……? 何をしてるのです? ずっと壁を見つめて』
「いやぁ、フラグとか建てるの面倒だから」
私は一歩二歩とだいぶ後ろに下がり、目の前の壁と距離を取った。
『……? なにを……』
「例えば、あなたが動けるとして、目の前に通れない道があった。それに加え、その道以外は壁で囲まれていて、通ることはできない。さぁ、ここであなたはどうする? その道を通るための手段を探しに行く?」
『どうって……そりゃあその通りに――』
私はその場から壁に向かって走り出した。
「いいや、もちろん――」
壁から数メートル手前から跳び片足を前に突き出した。
「私だったらこうするよ!」
そう言って私は壁を蹴り壊し、外に出た。
案外できるんだ……こういうの。すごいなシーゼルの体。
『ちょっと! 何してるんですか!?』
「そこに行くための道を『自分で作る』。それが私がいつも思ってたこと。だって、一々面倒だし」
『は、はぁ……? 何言ってるんです?』
「分からないならいいです。それで。じゃ、さようなら」
『え、えぇぇぇ!?』
……森に行くための道に大きい茨があった。
その道以外に道はないが、周りには木が生えているだけで、通れないわけじゃない。
でも仕様上、その木が生えている所に足を踏み入れることはできない。
で、わざわざ茨を切るための刃物を調達して進む。
そんな面倒なことしないで普通に通れる道からすぐ行けって思いません? 思うよね? 私はずっと思ってきた。何をしても壊れない壁だとか、その道以外から入ることのできない呪いでも作っておけばいいのにね。
私みたいなズルいこと大好きな楽々思考人間がいることを忘れちゃいけない。この世界もそうだけど。
大抵の通れない道は、『壁』を壊せば何とかなるんだから。
次話もよろしくお願いいたします!




