121話 『ド天然でもエルフの子』
「(タレント能力も知らずにいたんですか!? どのくらい!?)」
すると、シーゼルは目を瞑りながら、一、二、三……と、右手の指を計五本立てて、深呼吸をしたと思ったら、腕をピーンと上に高々と掲げて、「五十日くらい!」と、そこまで大きくない声で、自信満々に言った。
「(いや、そこ自信ありげに言うことじゃないですから)」
掲げた手を降ろし、反省の色を少しだけ浮かべたシーゼルは、少し俯き、ため息を吐いてから、不貞腐れた表情で私を睨みつけた。
「じゃあタレント能力って何?」
私は人差し指をピンと立てた。
「(説明しよう。タレント能力とは、この世界における、個々が有する才能のことであり(確かそう)、その才能によって、取得するスキルや得意な戦闘の方式が変わるのである(たぶん))」
シーゼルは話に対し一切反応を示さなかった。
わかってるのかわかってないのかくらい言ってほしいと願った。
「(あの……)」
「何?」
「(今の説明で分かりました?)」
「うん。つまり得意分野のことね」
「(……そうです)」
「だったら私、自分の才能知ってるよ」
「(え?)」
「的あて」
そういうことじゃない。
「(……スキルとかはどうです?)」
「スキル? 何その炙ったら美味しそうな魚介類」
そういうものじゃない。
というかそういうものあるの……?
「(魔法とかは?)」
「魔法は知ってる。これでしょ?」
そう言い、シーゼルは手のひらに小さな火の玉を創り出した。
貴重なMPを非常に無駄に消費させてしまった。
「(いやもういいです。せっかく魔力回復したのに使わないでくださいよ)」
「うん……ごめん」
割と素直だ。
少し大人ぶってる感があるけれど、まだ子どもなのかな? まぁ見るからに子どもなんだけども。
「……とりあえず、今はこの第一施設を出る手立てを考えよう」
「(そうですね……)」
シーゼルは、描いた地図の最初の丸部屋を指し示した。まず、第一の関門であるここを抜ける為の作戦を話し合おうということだろう。
「まずこの部屋……第一の難所だと思う。でも、この部屋の攻略ができれば、他の部屋も同様の方法で攻略することができるでしょう。それも安全かつ安定した方法でね」
私はシーゼルの言葉に相槌を打つことしかできない。
「(攻撃はやむを得ない場合以外は絶対禁止ですね)」
「そう。だから、相手の目を『別のもの』へと向けさせる方法を取る。そこでなつめ。この牢獄の特性を利用しようと思ってるんだけど、どういう手法を取ったらいいと思う?」
私は今までの出来事を振り返る。シーゼルが、この施設の特性を私が認知しているということを知っていての発言だろう。
この施設は、見るからに石煉瓦の組み合わせでできている。そして、その壁がある一つの衝突から発せられた音波を弾き返しあって響き合っている。それを証明するものとして、私が倒れている時、階段を下る兵士の足音が、壁で反響していた。それに、牢の扉を開く音や、私の掠れた歌声も少し響いてた。
……以上のことから考察するに、この施設の特性は『音の反響』であることに間違いはない。そして、私が今までやってきたゲームから考えるに、方法はただ一つ――
「(丸部屋から、私たちのいる階段や次の階段に繋がる部屋以外の部屋で音を発生させて、注目をそちらに向けさせ、確認しに行かせて、隙ができた瞬間に、階段のある別の部屋に行く……)」
シーゼルは私の話を聞き、嬉しそうに微笑んだ。
「うん、正解。そのために、何か道具を使わなければいけない。それも、証拠の残らない道具をね」
「(それはどう調達するんです?)」
「ふふーん、そこで私のこれ」
と、得意げに言うと、シーゼルは手のひらに、小さな光とともに弓と矢を創り出した。
「禁忌古術の呪縛解除で消費した魔力で、殆どの魔力を消費してしまって、あまり創りたくはなかったのだけど、こうして魔力をある程度回復させて貰えたから、気兼ねなく創れるようになったよ」
「(は?)」
「これは『魔弓矢』。いつからかは覚えてないけど、最近できるようになったの。魔力の具現化」
それスキルじゃない……?
「弓は一回作れば何度でも使える。矢は一回一回生成を要するけれど。でも大丈夫。私狙ったところには確実に当てれるから、一本一本の矢を無駄にすることはないよ」
……それタレント能力では!?
「ん……? どうしたの……? 下唇噛んで、何か言いたげな顔をして」
どうしたもこうしたもない。さすがに呆れてきた。いやきっと頭は良いんだろうな。でもこう、何とも言えない微妙な具合で抜けているというか、明らかに天然だというか……。
まぁ、とりあえず――
「(それをスキルとタレント能力って言うんですけど……)」
「……えっ」
シーゼルは私の話を聞いて、静かに苦笑した。
(執筆含め)一苦労しそうな予感が……?
次話もよろしくお願いいたします!




