120話 『というわけで』
私は一先ず牢獄の扉を閉め、次に見張り役の兵士が来ても大丈夫なようにした。そして、二人で部屋の隅に座り、今後のことについての話を始めた。
「(というわけで、どうするんですか?)」
「話を始めたと思いきや……」
「(今まで計画が成功したことが一度もなかったもので、思考放棄してました)」
「うーん……じゃあ取り敢えず、この施設の造りと警備配置から教える」
「(そんなの分かるんですか!?)」
「……まぁ色々あってね」
すると、シーゼルは指で、地面に長方形を創るように小さくなぞった。
「この長方形は、私たちが今いるこの部屋だとする」
「(はい)」
次に、長方形の中央に細い部屋を描き、その階段の先に小さな円形を描いた。
「この細いのは階段。次は、見張り役がいる死角皆無の部屋で、ど真ん中に警備員が立っている」
「(ふむふむ)」
円形から、四つの細長い長方形を描き、それぞれの先に、この部屋と同じような長方形を描いた。
「(これは……?)」
その後も同じように、この部屋とは別の部屋から、別の階段で円形の部屋に繋ぎ、円形の部屋からまた分岐させ、長方形の部屋を複数描くという作業を繰り返し行った。
「この施設は端から、罪人を閉じ込めるためだけに作られた施設ってこと。この施設は九割以上が牢獄になってる」
もうごちゃごちゃで訳分からなくなってきた……。この施設は地下を広げ過ぎなんじゃないか思うくらい広い。
何回か繰り返した後、また円形の部屋を描いたと思ったら、今度は部屋を分岐させずに円形の部屋の中心に丸を描いた。
「ここからこの監獄施設から出ることができる。警備員は他の丸部屋と違って二人いるけれど」
「(え、そこまででも普通にしんどいのに、もっときついじゃないですか)」
「そう……でも、一番問題なのはここから出てから……。ここから出たとしても、この監獄島を出られるわけじゃない。ただ、処刑施設を含む、シドモンの本拠地……つまり、協会の中の一室に出るだけ」
「(じゃあその先は……)」
「私が知ってるのは、処刑施設の行き方だけで、他は何も知らない」
その時、私は何かを不自然に感じた。
何故処刑施設までの道だけを知っているのか……。でも、それを聞く勇気が出ない。何故だろう……。何故だろう……。いつもなら平気で聞けるはずなんだけど……。
「(そう……ですか……。なら、とりあえずここから出るための作戦を相談しましょう)」
「そうね」
「(まず、円形の部屋の警備員の目をどう搔い潜っていくかです)」
「うん……私は魔力がないし、なつめは呪縛のせいで万全な状態とは言えないし、武器も道具を入れる袋もないし……ポケットとか、何か入ってない?」
私は言われて初めて、自分の服のポケットを触った。
「(あ)」
マミさんから結構前に買った海ぶどう味の魔力回復薬が数本入ってた。
「……それは?」
「(えー、これは魔力回復薬ですね)」
「それ私にくれない?」
「(……いいですけど)」
私は魔力回復薬を全て渡した。目を輝かせながら全て受け取ったシーゼルは、貰った分をすぐに飲み干した。
「あぁ美味しい。ここを出れたらこの魔力回復薬もっと頂戴?」
「(まぁ……ポーチに飲みきれないほど余っているので)」
「ポーチ……? そう。じゃあそれがなつめの手に戻ってきたら、もっと頂戴ね」
両肩を掴んで、舌を少し、口の端から出し、目をキラキラさせながらじっと見つめてくるシーゼルに対し、何とも言えない感情のまま苦笑して頷いた。
「(それはそうと、とりあえず自分たちのタレント能力くらいは知っておかないといけないですね)」
「……?」
シーゼルは首を傾げた。
「(……えーっと、私のタレント能力は『極☆ヒーラー』です)」
「……あの」
「(はい?)」
「タレント能力って、何……?」
そういって、シーゼルは瞬きをし、額に汗をにじませた。
なんとこのエルフ。タレント能力そのものを知らないらしいのだ。
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