表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第2-2章 【テイシング監獄島 ~なつめと訳ありエルフの脱出大作戦~】
132/232

118話 『なんということでしょう』

 体の彼方此方あちこちが痛む。全ての骨を、髄から金槌で繰り返し叩かれているよう。痛みはあるからまだ死んでいないのだろうな。死んでいたら痛みなんてもう感じないだろう。変な夢を見ていたような……内容は思い出すことができないけど。まぁ、それが『夢』である確実な証拠だろう。ただ、最後に言われた女性の話は何一つ忘れることなく覚えている。最後の『ナントカ様』というのはうまく聞き取ることはできなかったけれど。恐らく、私が今まで創生した魔法は全て『デリート』という言葉によって、それぞれ完全な消滅をした。同じような魔法を創っても、恐らく否定されてしまうのだろう。


『うーん、面倒な仕様』


 その一言に尽きる。

 しかし、身体も痛ければ、目も針を刺されているように痛むし、喉も風邪引いてる時以上に痛む。本当に死にそう。それだけ。そうだね、あと一発くらい叩かれれば死ぬかもしれない。セナさんのクソ雑魚パンチでも、今の状態の私ならば倒されて昇天する未来が見える。いや明らかにそうだろうね。


 とてつもなく嫌な予感がする。

 それに、嫌って程に床が冷たい。いやそりゃそうか。肌寒い時期の洞窟の中なんだものね…………洞窟……? 洞窟と言っては、床が平らで、感触的には、一定の間隔で窪みができていて、身体に当たってる部分は四角の凸ができていて……。


「……ねぇ」


 ん!? 誰!? 私に話しかけたのかな!? 可愛い系女子の声がしたのだけど!


「……本当に聞いてるの?」


 体中が痛くて、話したら死んでしまうくらいなのに、話す余裕なんて一つもない。


「……本当に話せないの? まさか、“あいつら”に喉を潰されたの?」


 目も針を刺されたかのように痛いし、身体も常に叩きつけられているかのように痛い。今この状況に対して、彼女にどういう反応を示すかが今一番重要な筈なのに、伝えられる手段がない!


「……もしかして、本当に死んでる?」


 いや、私はまだ死んでない。

 呼吸だってしてるし、そもそも心臓が動いているのが自分でもわかる。ここだけは否定しておかないと……痛みは少しくらい我慢しなさい、自分!

 私は痛みを承知に、手をピクリとほんの少しだけ動かした。


「……死にそうなのね」


 私の決死の意思表明が彼女に通じたようだ。……だからといって何の進展もない。私が生きていることで、彼女が回復魔法でも使ってくれたら嬉しいのだけど――

 そんなことを考えていると、コツ、コツ、と、何者かが階段を降りてくる音が、この冷たい空間で鳴り響いた。そして、その足音の主は、私がいるであろう空間で、私に怒鳴りつけるかのように話を始めた。


「おい! 罪人B! 悠長に寝ている時間ではない! これから刑罰執行の時間だ!」


 カチャ、カチャ、と、何かを弄る音がする。

 まさかここは牢獄……? 罪人Bとか酷い物言いだし。というか、私が罪人ってどういうこと……?

 罪を犯した記憶は一つもない。むしろ、突然襲ってきた三人組に対して、正当防衛をした記憶しかない。

 そして、髪を何者かに掴まれ、そのまま引きずられた。

 これは、たぶん道中で死ぬかな――


「――ちょっと待って!」


 先ほどの女の子の声が、私の髪を引っ張っている奴の足を止めた。


「その人は、もう死にそうなの。刑罰なんて可哀そう。どうせここにいてもいずれ――いいえ、呪いがかけられているんだもの、すぐ死ぬでしょうから」


 なんということでしょう。ビフォーからのアフターが酷すぎる。私は呪われていた……。うん、初めて背筋が凍りつくという体験をした。


「いいや、ダメだ。これは協会の罰則規約に乗っ取って……」

「…………はぁ」

「罪人A、何を……」


 え? なになに? 一体何をしてるの?

 特に何も聞こえないけれど、まさか脱ぎ脱ぎとかじゃないよね? もしそうなら、それやばいから、たぶん色々と問題あるから!


「あとで、私の……全部あげるから、ね?」


 私の全部――――!?


「いや……それは……」


 でしょうね。


「……ね? いいでしょう? お兄さん」

「……い、いいだろう。こいつは既に死んだと伝えよう。それで解決だろう。で、では、また、後程な」


 え……いいのか! それでいいのか!


「……これはあなたと私だけの秘密だから、誰にも言わないでね……?」

「……あ、あぁ――当たり前だ」


 男性かと思われる、私の髪の毛を引っ張っていた奴は、少し雑に、まるでゴミを捨てるかの如く、牢獄の中へと投げ捨て、私は仰向けに倒れた。

 うぅ、イタイ。

本当に死にそうだからやめてほしい。というか、呪いって何なのよ。全然身に覚えがないんだけど……。

 先ほどの男性は、今階段を上っている途中だろう。先ほどとは違い、少し軽い足取りで進んでいるような気がする。階段の上り方が、言ってしまえば軽快。コツ、コツ、じゃない。カタッ、カタッだ。


「……行ってしまったみたい。よかったね」


 彼女が耳元で静かにそう呟いた。偶に来る吐息で耳を擽られているようで、くすぐったくて痒くなってくる。


「……大丈夫、あなたの呪いは私が解いてあげる。それで少しは動けるようにも話せるようにもなるでしょ?」


 彼女は小声で呪文を唱え始めた。


「ルイン……この慈悲無き制裁を、今、彼女に宿りついた呪縛を解き掃い給え……レーエストリア!」


 彼女はそのように唱え、私の頬を両手でやさしく擦り始めた。

 とても柔らかくて温かい手……この日得た空気の中の手とはとても思えない。それに、段々痛みが引いてきた気がする。具体的に言うと、目に刺された針が、一本ずつ丁寧に抜かれていき、身体中を叩いている、金槌の振り下ろす速度が少しずつ遅くなっていくのを感じる。針を抜かれるような感覚は気持ち悪いけど。

 少し時間が経ち、彼女が私の頬から手を離した。


「はい、これで呪いは解けた。少しずつ痛みは引いてくるはず。あと、これでもう動けるし、声も出るはずだよ」

「……ぁ……」


 確かに少しだけ声が出る。


「なに?」

「え……ゴホッ……た……し……」

「そう、ならずっと発声の練習をしていてね。ただ、あまり声は大きくしないように。もうすぐ、さっきの兵士さんがくるはずだから、その時は是が非でも死んだふりをしていてね。あ、そうそう、それと、私が行った後、心の中で一分間数えた後、発声の練習を只管していること。わかった? そうでなければ、あなたは『話すこと』が不可能になってしまうからね。あ、身体を動かす練習も一応しておいてね」

「…………ん」


 何故かは分からないが、彼女が微かに笑みを浮かべたような気がした。針が完全に取り除けていない今、目を開けたくはない。でも、彼女の姿を一度でもいいから見ておきたい。

 そして、彼女の言った通り、すぐに先ほどの男性の声と同じ兵士がやってきた。彼女が兵士というのであれば、それは兵士であると信じるしかない。


「……人間の……『罪人B』はもう死んだよ」

「そうか。当然の報いであろう」


 私が何をしたってのよ。


「じゃあ行こう。誰かに見られちゃうといけないから、あなたと私だけの秘密の空間に。あなたと私以外誰も存在しない世界へ。幻影の楽園、『異空間庭園ルイン』に……ね?」

「な――!」


 彼女がそう言った瞬間、眩い光が、目を閉じていても感じることができる程の白光が発生し、途端に兵士の声が途絶えた。さっきまであった人の気配がまるで消失した。

私は、その現象を考えることを一先ず止め、言われた通り、心の中で一分間数え、発声練習と、身体の各部を動かす練習を只管にし続けた。


次話もよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ