116話 『刺客』
そして、歩き続けて数十分。
私たちは目的の場所と思われる洞窟に辿り着いた。
「何とも言えない静けさですね……」
シルエが額に汗を流しながらそう言った。
「幽霊とかでないよね……シルエくん」
ガイザーさんみたいな筋肉もりもりの人が怖がっているのを見るのは、なんとも不思議な光景だ。
「大丈夫大丈夫。たぶん大丈夫」
大丈夫じゃなさそう。
私たちは洞窟の中に、恐る恐る足を踏み入れた。洞窟内部は暗く、ライトを使わないと何も見えやしない。
「ライト、使いますね」
私はライトを使って、光るスライムを作り出した。
「おぉ、なんですかそれは?」
「え、これライトですけど」
「ライトってこんななんですね……」
「夜はこうなるみたいですよ」
「なるほど……誰もライトを使える人がいなかったので、ありがたいです」
シルエは私の頭の上に乗っているスライムを触ろうとしたが、避けられていた。私は悪くないぞ。
「明るくなりましたけど、全然敵が見当たらないですね」
「おかしいなぁ……確かにこの洞窟のはずなんだけども……」
シルエは一枚のメモ紙をポケットから取り出して、じっくりと眺めた。
「それは?」
「これはチャンクさんから戴いた、洞窟への行き方の地図です」
私はその紙を見せてもらい、地図に書かれていることを全て確認した。
確かに、町からこの洞窟までの道のりは合っている。そもそも、ここは地下洞窟だし、他にここみたいな洞窟の入り口はなかったから、この洞窟で間違いはないだろう。
「もう少し奥に行ってみましょう」
シルエがそう言い、私たちは洞窟の奥へと進んでいった。すると、ひとつの大きな空洞に出た。
「うわぁ、すごい空洞。声もよく響きますね」
魔物の気配は一つもない。それどころか、まるで私たち以外の生き物の気配すらない。アリ一匹くらいはいるだろう思ったけど、何一ついない。
「まだ時間になっていないのかもしれません。もう少し待ってみま――」
突然、シルエが意識を失いかの如くゆっくりと地面に倒れこんだ。お兄ちゃんやメルちゃんやエミさん、それに続いてガイザーさんも倒れて、鼾をかいて眠りについてしまった。
これは一体……?」
「ちっ、一人かからなかったか。姉ちゃんも運がわりぃな。楽に死ねなくなるからな!」
空洞の中で響く声の先には、三人組の黒ずくめが姿を現した。
「俺らはカイシェル盗賊三兄弟! チャンクとやらがこの洞窟にあるジャックジャックっていうアイテムを使うってことを聞いてな。奪ってあいつの株を落とせって言わ……」
「それ以上言うなジェイン! 俺たちの任務は秘密裏に行われているんだぞ! 今この場所でも!」
「そうだぜ弟共! これは俺らの評価をあげるための任務なんだ! ばれたらどうしようもないだろう!?」
トリオ漫才を見ている気分。
「えーと、その、だから何?」
私はその男たちに訊いた。
「チャンクの道具を盗んだのは俺ら! それで誰かに調達を依頼すると思って、ここに潜んでいたのさ! まんまと引っかかったな、馬鹿め!」
……この話には色々と裏がありそうだ。どうやって探ろうか……。
「それじゃあ、これから私たちに何を?」
「俺らの事を漏らさないように、痛めつけて監禁して閉じ込めておくのさ! 永遠にな!」
言っていることは怖いんだけど、格好が格好で、なんか忍者みたいだし、何より……。
小さい。すごく小さい。声は低いんだけど、大体私の頭を同じくらいのサイズ……? 一体体の構造どうなってるのって言いたいくらい小さくて、どう考えてもぼこぼこに叩きのめされる気がしない。
「さぁ、いくぜ姉ちゃん! 行くぜ兄弟! 分身の術・散!」
すると、黒ずくめの三人は空洞の中を縦横無尽に動き回り、自分たちの残像をいくつも作り出した。
「ハッハーッハ! どうだ、誰が誰だか判別できないだろう!」
それは元からそうなんだけども……。
「――っ!」
頬に微かな痛みが走った。ひりひりと痛む個所を触ると、赤い液体が指先についていた。
血……だ。
今の、あの三人のうちの一人からの攻撃……? ダメージ自体は二ダメージしか入っていないのだけど、これを何回もやられると非常に厄介であることは間違いない。少しずつ傷つけられてやられるのは、ちょっと嫌なやられかただ。
「へへ……少しずつ痛めつけてぼろぼろになったところを素早い移動で拘束……最高の作戦だぜ」
作戦を敵にバラしちゃってますけど……。
……今持てるもので、対応できるとは思えない。作った魔法も、必中効果なんてないし…………。
――なら、作ればいいのか。
「マジッククリエイト」
そして、機械音声が頭の中に流れ始めた。
〈魔法創造魔法陣オン。属性、位設定、魔力消費量、効果・威力の設定、名称、の順にお決めください〉
次話もよろしくお願いいたします!




