8話 『森と探偵!』
☆7話のあらすじ☆
メルのすさまじい力を見た一向は、
ついになつめを攫ったオーガのいるフィレスの森へと入る。
今は大体何時くらいだろうか。もしかしたら酒場で働かなければいけない(なつめだけ)時間をとっくに過ぎているかもしれない。
そういやブックってステータス表示以外にどんな機能があるんだろう?
……地図、魔物図鑑、時計……あった! えー、今は十四時? あとバイトまで読ん時間か。
早く助けなければな……
行く所も分からないのに、俺たちは草木を手でわけて森の中を歩いて行く。
「ウサギ、オーガのいる方向は?」
「……わからない。イリアから星の便りもこないし……」
えぇ……どうするんだよ。そもそも星の便りってなんだ。あの星形をした紙か?
だとしたら、このままこのデカい森を探すと何時間……いや何日もかかるぞ? 一体どうしたら……?
「隠れて……!」
な、なんだ?
すぐに隠れ、草陰から覗いて見て見ると、手と足が短く、もうほぼ体がキノコだけのでかいキノコがずんずん歩き回っている。
「あれはおばキノ……?」
おばキノ!? まさかあの某有名ゲームのおば〇キノコってやつか!? これは色んな意味で期待できっ……
ん? な、何かおかしいぞ。顔が……
顔は完全におばさんであった。顔の化粧が濃い上、なぜかはえている前髪だけ何故かパーマをかけてクルクルにしている。
「お、おい。あれは?」
「あれはおばキノ……【おばさんキノコ】よ!」
お、おばさんキノコだとぉ!? 確かに、顔はおばさんっぽいが、どうしてそうなった!? しかも何か独り言言ってない?
「バーゲンが始まる! はよ行かんと! あぁあと化粧もちゃんと直していかな」
日本のおばちゃんを再現しているのか……?
絶対的な偏見の塊だと思うんだが……
それにそもそもこの世界にバーゲンの概念って有るのか?
「おばキノは口うるさくてめんどくさくてね……ってあれ? メルさんは……」
いつの間にかメルが自分たちの側から消えていた。
「ぶっとべー!」
メルは既におばキノの背後に回り込んでいて、
ゴブリンを倒した時の様に、大声をあげ、そして杖を思いっきりおばキノにぶつける。
もちろんおばキノに当たり、おばキノは悲鳴をあげながら遥か彼方に飛んで行った。
「んー、13.997キロメートルってとこかしらね~。」
「いや何でわかるんだよ」
「これくらいは普通わかるよ」
「いや分かるか! 普通の人はこの攻撃について普通でないのだから普通分かるか!」
「ふぅ、無事終わりました。」
まぁ一瞬の出来事だったが。
とりあえず道だ。この何も分からない空間で、一体何処をどう進めばいい? 分からないまま突き進んでいっても、たどり着けるところもたどり着けるはずが無い。
……行き場もなく、俺たちはただ奥へと歩き続ける。
すると、森の中に誰かがいるのが見えた。
ん? ……あれ、あの人は……この森で何をしているんだろう?
「あの、ここで何をしてるんですか?」
「?」
一度こちらを見るが、首をかしげるだけで話を聞いてくれない。
なんだこの人は? 探偵がよくアニメやドラマなどで被る茶色いデントンハットを被り、金髪ショートカットで、可愛らしいピンク色の虫眼鏡を片手に持ち、服装は結構暑いのにコートを着ている。まぁ下はさすがにスカートっぽいが……しかもスタイルも良く結構な美人。
というか、この世界に来てからというもの、酔っ払いと酒場のマスターとパン屋の店員さん以外女性としか会ってない気がするぞ。この大陸の女と男の比率どうなってんだ。
「あのー……」
「私、最近思うんです」
へ? こいつ、いきなり話し始めたぞ?
「何でこの世界には謎がいっぱいあるんだろうなあって」
手を合わせて木々の隙間から見える空を見上げている。
は、話が急すぎて付いていけない……一体何の話をしているんだ?
話かける前から相当な変人の雰囲気はしていたが、ここまで変とは……
「私はマミ。自称探偵やってます。今後お見知り置きを。ところでああた達は?」
「あ、あぁ、俺はカナタだ。そしてこっちの魔法使い(という名のアサシン)のメルだ」
とりあえず自己紹介ってのは確かに異世界モノではテンプレって感じだが、こうも話が急展開すぎるとなかなか付いていけない。
というか、どこに住んでいる探偵なんだろうか。なぜこんな森に来ている? 何か目的があるのだろうか。様々な疑問が頭の中を飛び交う。
「先ほどあちらの方で、ドタドタとオーガが走っていく音が聞こえました。そこにあなた達はオーガを追っているかの如く現れた。もしやあのオーガはあなた達のお仲間でも攫って行ったのではないですか?」
と、指をさした方角は南であった。
この自称探偵は何を言っている……というか察し良すぎるだろう。
何にも話していないのになぜ分かる?
「そうだけど、一体何で分かるんだ?」
「おぉ! 本当にあっているんですか! ふふっ、やったぜ」
「お、おい、話を……」
マミは嬉しそうに笑っている。ついでにガッツポーズも。自分の予想が的中したことがそんなに嬉しいのだろうか。
こちとら非常事態なんだ。どうせなら助けるのくらい手伝ってほしいくらいなんだが……
「さて、調査が終わった事ですし、私は帰ろうかな?」
そう言い、マミは荷物を自分の背負っているバッグの中に詰め、帰ろうとするそぶりを見せる。
ちょっと待てよ! そこまで言って終わりかよ!
「仲間を攫われた奴が目の前にいるというのに帰るのか」
「えーだって面倒くさいですし? 私だって忙しいんですよ。方角教えただけマシだと思ってほしいものです。まあ……お助けアイテムくらいならあげてもいいかなー……なんて……?」
マミがこちらをチラチラと見てくる。
お助けアイテム……? くれるとしても何をくれるのだろうか? 探偵だし、そこまで使えるもの持ってないんじゃないのか?
「とりあえず、人探しで必要になりそうなのはこれかな?」
そう言ってバッグから取り出し、差し出してくれたのは、虫眼鏡だった。虫眼鏡には上部に変な装飾品がついていて、何というか、まつげが長い人間の目のようなものが。
「ふふ、それは【マコトムシメガネ】。本来ならお金を30000ギフいただくんだけど、今回は特別。半額の一万五千ギフで!」
「いや、お金持ってないです」
「むー、じゃあツケってことで後々会った時にちゃんと払ってくださいね。とりあえず、使い方を説明します」
―マコトムシメガネの使い方について―
自分の見たいものを視る事が出来る虫眼鏡。自分の見たいものを想像すればその光景を空間を超越して視る事が出来ます。
『何でも3回まで』
—説明終了―
「では、私はこれで。またどこかでお会いしましょう。あ、その時はちゃんとお金持ってきてくださいよ? それでは!」
そう言い、探偵はスキップをしながら去って行ってしまった。
あ、木の根に引っかかってコケた。
赤面になりながら、それでも立ち上がり、無理にスキップをしながらマミは去って行く。
それより、商法が強引すぎて、日本だったら今頃警察に電話して突き出している頃だ。
あげると言ったのは何だったのだろうか。
無料であげるとは言ってない的なノリか?
俺らが金持ってないのは俺の見た目で一目瞭然だと思うけど。なんせパジャマに木の棒腰に付けた成人済みの引きニートお兄さんだからな!
まあとりあえず、教えてもらった方角を頼りにオーガを探すしかないか。確かずっと南の方だと言ってたな。
ここ南に行くとしたら獣道を通ることになる。それはそれで正解かもしれないが、モンスターが通った跡なら少々心配になる。
でも仕方ない。今は余計な事を考えずに、南に進むだけだ。