115話 『タンク』
前に出て、戦闘に入った途端に、身体が軽くなり、自分の持っている武器が軽くなった気がした。素早さアップと筋力増強の補助……! ありがたい。
私は前線に出て、手始めに一匹の狼を背後から斬りこんだ。しかし、攻撃は堅い皮膚に弾かれ、ダメージをほんの少しのダメージしか与えることができなかった。
不意打ち四倍とかないのか……! 私の物理攻撃力が弱すぎるのか、それとも相手の物理防御力が高すぎるのか……。
「なつめ!」
狼が私に襲い掛かる瞬間に、お兄ちゃんが横から迫りくる狼を叩ききった。そのまま狼は吹き飛ばされて、地面に倒れて動かなくなった。
うわぁ、今のはポイント高いぞ。私じゃなければ、チョロい女の子はやられてただろうなぁ。
「おぉ、今まで人に散々苦労かけてきた人間に助けてもらう日が来るとは思わなかったよ
私がそう言うと、お兄ちゃんは力が抜けたかのように苦笑いして、「三人で固まった方がいい!」と提案して、私の手を掴んでメルちゃんのいる方に走っていき、三人で背を合わせて武器を構えた。
一体、そこまでする過程で、何故襲われなかったかが気になるところだけど、今は些細なことに気を取られている場合ではない。私なんて、物理じゃダメージすら与えられない。物理攻撃に関しては、武器を調達したお兄ちゃんと、物理使いのメルちゃんが優勢みたいだし、私は魔法で対処するしかない。謎のコマンドであるマジッククリエイトで作った魔法は、ステータス欄にも書かれてないし、使うとそれを見た周りの人が、セナさんが出てきたときに言ってしまうと厄介事になる。というかセナさんも引っ張りだした方がいいかな。
私は盾を構えつつ、ポーチの中からセナさんを引っ張り出した。
「ちょ、なになに!? 私の出る幕じゃないでしょ!?」
私の手を叩いて抵抗するセナさん。その攻撃で毎回一ダメージが入ってることにいつ気づいてくれるかな。
「今の私たちの構成は前衛二人に魔法使い兼僧侶の構成なんだから、タンク役がいないと安定しないでしょーが!」
「魔物に襲われるの怖いよー。トラウマになっちゃうよー」
「魔物が何を言うかと思えば! それが! 戦闘したくない! 理由! ですか!? 折角いい能力持っているのに、これじゃああの筋肉の人と同じですよ!」
「それは嫌ね。戦闘に参加するわ」
「よし」
意外と従順であった。セナさんは私の手から離れて、私の前で浮かび上がった。
「さぁ魔物ども! 狙いはこっちよ!」
セナさんの小さなぬいぐるみの体にはスポットライトが当てられ、魔物たちと私たちの注目の的となった。これがヘイトを集めるタンク役のスキル……! というか、本当にタンク役だったんだ……! ずっとメンタリストだと思ってた……!
すると、魔物たちはセナさんに向かって牙を向けて駆け抜けていった。闇夜の中で光輝くぬいぐるみを襲おうとする狼の姿は何ともシュールで可笑しくて仕方がない。飼い主に飛ばされたボールかなんかを追いかける犬ちゃんみたい。
次々と攻撃を仕掛ける狼たちは、セナさんのタレントの効力によって四方八方に弾き飛ばされてダメージを受けていった。
すると、学習したと思われる狼がセナさんを襲うのをやめ、私たちに向かって恥って来た。お兄ちゃんとメルちゃんが私の前に出てきて、私を守るようなポジションをとった。
「なつめは魔法で攻撃と回復をしてくれ! 俺とメルは物理行使でいく!」
そして、襲い掛かってきた狼をお兄ちゃんたちが叩ききったりぶったたいたりした。私も、魔法を融合させずに、少し体力が残ってまだ動く敵を倒した。セナさんも、私が前方の敵に気を取られている間、背後に回り込んできた敵からの攻撃を防いでくれた。
ああこの安定性、抜群……。
そして、受け身の戦闘をして、敵を掃討し、やっと落ち着くことができた。
「師匠方~! お怪我はありませんかー!?」
後ろでただ見守っていたシルエたちが、私たちに駆け寄ってきた。
「すみません、私のサポートが不十分で……」
エミさんが俯いて私に謝ってきた。
「いやいや、私の元の能力が低すぎたせいですから、エミさんが謝ることなんてないですよ」
「そう……ですか……」
やばい、すごく落ち込んでる。えっと、こういうときってどうやって対応したらいいんだろう。
「と、とりあえず、各自回復して向かいましょうか」
シルエがエミさんの前に出て、私たちにそう提案した。
ナイスフォローと言っていいかは分からないが、ちょっとありがたい。後でシルエに対処の仕方を教えてもらおう。
それから、私たちは各自で魔力回復薬や私の回復魔法でステータスを回復し、洞窟に向かって改めて歩みを進めた。
次話もよろしくお願いいたします!




