113話 『仮眠』
テントの中は、必要最低限な家具で埋め尽くされていた。
小さいテントの中でよく足の踏み場を残したものだ。整理が得意な人でもいるのかな?
シルエはテントの外で焚火をしていた。それもすごく古典的な方法で、円柱型の木材をくるくると手で回しながら火を起こそうとしている。ここには魔法が一応いるというのに、何故頼ろうとしないのか……。そのことについてシルエに訊いてみると、お兄ちゃんが「俺は火を起こすほどの火力がないから無理だよ」と言ったそう。他に魔法を使うことのできる人が誰一人いなかったから、何時間かかるか分からない方法をとったらしい。ちなみに、これまでに一回も成功したことはないとか。私に言ってくれれば、大火事起こすくらい簡単にできるほどの火を出せるのに。
私がやる、と言っても、「師匠に頼るわけにはいきません! これも修行です!」の一点張りで、まるで聞いてくれなかった。
そのまま夜が来て、全く付く様子がないので、結局私が火をつけて、町の市場で買ってきた野菜やら魚やらを炒めたり焼いたりして、夕食にした。
そして今、夕食を終えた私たちは、明日の予定について話をしているのである。
「明日は、チャンクさんたちのお手伝いをしに行きます!」
シルエのその一言から、話し合いは始まった。
「チャンクさん?」
メルちゃんは首をかしげながらそう言った。
「チャンクさんは、最近力をつけ始めて、若手の間では話題の的なんです」
そういう売れる人って、何かしらの絶対個性を持っているんだろうなぁ。才能の違いが出るこの世界ではみんな個性を持っているはずなんだけど、使い方次第か、持つタレントによっては大きくでたり小さく出てしまったりする。私みたいなのは、まるでタレントを使いこなせていないといえる。
シルエは話を続ける。
「今回は、チャンクさんが所属している団ではなく、チャンクさん個人のお手伝いになります」
「その内容は?」
お兄ちゃんが胡坐をしたまま、肘を太腿の上に置き頬杖をつきながら言った。
「ショーに必要な素材の調達です」
「素材?」
私がそう訊くと、シルエは一枚の絵が描いてある紙を取り出した。
「はい。この大陸でしか手に入らないもので、いつもは旅商人から調達してもらうのですが、今回に限って、旅商人との連絡が途絶えてしまい、調達できなかったそうです」
「連絡が途絶えた?」
「旅商人の方に何かがあったと考えるのが普通でしょう。それで、必要な素材は、この町から南に行くとある地下洞窟で、その中にいる【ジャック】という魔物を倒すと出てくる【ジャックジャック】が欲しいそうです」
私はマミさんの顔を見た。
「……私ですか? 素材の創生は専門外で、ジャックジャックは作り方が作り方がわからないので、無理ですね。それではおやすみなさい」
そういい、マミさんは後ろに倒れつつ、自分の枕と毛布を作って寝てしまった。本当にマイペースな人だ。
「出発は、深夜3時になります。その頃が一番多く出るらしいので」
「え、じゃあ今から3時まで待ってから行くってことですか?」
「いいえ、今から師匠さんたちは仮眠をとってください。私は起きてますので、3時前になったら起こします」
「そうですか……。それだと、シルエさんは仮眠が取れず大変じゃ……?」
「大丈夫ですよ。私は寝なくとも生きることができるようになったので」
それはむしろ危険信号なのでは……? いわゆる寝なくても幾らでも働くことのできる快楽社畜のような物言いじゃないの。
「うーん、腑に落ちないけれども、寝かせて頂きます」
「どうぞ、その間私ら全員で見張ってますので!」
そういい、この寒い中、子ども二人を置いて、シルエたちは外に出て行った。本当に見張るつもりなんだ。大丈夫かな……? まぁ、今はシルエたちに任せることにしよう。いざという時に力が出せなくても困るし……。
私たちは、テントの隅に積まれたぼろぼろの毛布を各々一枚ずつ持っていき、場所をとらないように、身体を丸めて眠りについた。
次話もよろしくお願いいたします!




