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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第2-1章 【締めつけられる】
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??? 『しあわせなわたし』

…………?


「……ハッ!」


私は誰にでも起こされた訳ではないが、唐突に目を覚ました。目覚ましもかけてない。ベッドの上で起き上がった私は、床に立ち、手探りで電気のスイッチを探した。

どこだ、どこだどこだどこだ……あった!

電気のスイッチを入れると、部屋が一気に明るくなった。さっきまで私が寝ていたベッドは、女の子用の可愛いピンク色のベッド。所々に白いハートが刺繍されている可愛い毛布があった。

な、何この可愛い部屋……。私は確かハーブ香るカフェテリアにいたはずでは……?

というか、なんか体が縮んだような……。

背低くなってない?

ちょっと待った。私は理解がまだできてないよ。ここは確か、十年以上前の私の部屋。そうそう、魔法少女プリピュアの蘭子ちゃんが好きだった頃の、幼少期の私の部屋。ほら、あの可愛いピンク色のタンスの上には、お父さんにお願いして何とか買ってもらった蘭子ちゃんフィギアが置いてあるし、日が暮れるまで遊んでたシルバニアファミリーの家だって、部屋の隅に置いてある。

私は自分の姿を確認するために、勉強机の引き出しの中を探った。

あった!

当時大切にしていた、いや今も大切にしまってるけど、先端部分が鏡にもなってるプリピュアの魔法のステッキを取り出し、自分の顔を見た。


(こ、これは……!)


紛う事なき六歳時の私! 肌がツヤツヤだった頃の私! とてもピュアだった頃の私の顔だ!

……だとしてもおかしい。これは夢か? 夢だとしたら、ほっぺ抓れば痛いか痛くないかで判断がつく。


「んー!」


私は今出すことのできる最大限の力を使い、頰を抓った。

痛い。すごく痛い。ということは、これは現実……? 成長した私の姿や、これまでの出来事は全部夢……? さすがにそんなことはないだろう。幼稚園児の私がこんな想像力を持つはずがない。ということは、これはあのゲーム自体が見せている幻想風景……? でも何故私がこんな光景を見せられているのか……。てか、さっきまで変な夢見てた気がする。

……気のせいか……。

窓の外は何も見えない。月の光が入ってきてるかも分からない。夜なのかな……? これだけ暗いとなると、真夜中なのかもしれない。この頃の私の部屋には、時計なんて置いてなかったから、時間が分からない。何故か今更、時計を部屋に置いていなかったことを後悔してる。

私はもう夜だと思い込み、ベッドの中に潜り込んだ。

夢なら早く覚めてほしい。またここからリスタートなんてとても嫌だ。折角、高校受験やら模試やら定期テストやら頑張ってやってきたのに。


「…………」


そういえば、この頃の家の雰囲気ってどんなものだったんだろう。昔のことって印象深いものでないとあまり思い出せない。この頃の思い出すことといえば、家庭の雰囲気云々ではなく、私がトランポリンで遊んでたら膝が変な方向に曲がって骨折したことだったり、お父さんが死んだ時に、私が「たまごっちも死んじゃう!」って言って、一人足早に病院から家に帰って行ったことだったり……。微妙に嫌な思い出しか残ってない。今考えれば、何故親戚や家族が総員で集まってる中、私はたまごっちなんて気にしてたんだろうと思う。

あの頃はまめっちとか、くちぱっちが好きだったなぁ……。今はそんなことどうでもいいんです。あぁ頭が支離滅裂で混乱してる。果たして私の身に何が起こっているのかが理解できない。

……みんなの寝室を覗いてみよう。もし、私がずっと夢を見ていたのであれば、少し若かりし頃のお母さんや、たぶんお父さんもいるし、ギリギリ正常だったお兄ちゃんもいるし、優しいお姉ちゃんもいる。

私は二階の廊下に出る扉を開けた。

と思ったら、何故か扉は照明の点いていないリビングに繋がっていた。

間違いない。ここは現実じゃない。夢の中だ。

ほっぺをもう一度抓り、私は確信した。

しかし、何故ここなんだろう。それに、何故感覚というものがあるのか。食感は分からないけれど、聴覚や嗅覚、また触覚もあれば視覚だってある。味覚は分からないけれども、唾を飲む感覚がある以上、ないと否定はしきれない。

暗いリビングを歩き回り、まず味覚を確かめるため、私は当時の感覚を絞り出し、冷蔵庫に向かい、冷蔵庫の扉を開けた。この頃はたぶん、プリンが常備されていたはず。お母さんの太る原因となったぷっつんプリンが置いてあるはず。

冷蔵庫を開けると、中の灯りが点いて、冷蔵庫の中は明るくなった。冷たい風が、私の肌に触れて、私は少し身震いした。ただでさえ少し寒いというのに。

私は手前に置いてある納得のパックや豆腐、それと鳥のモモ肉を手でどかし、奥に置いてあったプリンを取り出した。プリンのイメージ絵が描かれた蓋を開け、匂いを嗅いだ。

プリンの甘い香りが、鼻を抜けて口いっぱいに広がる。食器棚の中央くらいにある、スプーンやフォーク、ナイフなどの食器が入れられている引き出しを開き、私は小さいスプーンを取り出した。

さて食べよう。

スプーンを柔らかなプリンの身に差し込み、プリンのかけらを掬った。私は、その掬ったプリンのかけらを口元に運び、スプーンごと口にした。

あー甘い! うーん、もうよくわかんない!

五感が全て揃った夢の世界なんて聞いた事がない。もしこれが、ゲームが見せている幻想で、ゲーム自体が感覚を操作しているのであれば、納得ができなくもない。でも、何故私がこんな夢を……?

と、思った次の瞬間、真っ暗な部屋の奥から、一粒のポップコーンが弾けるような音がした。それが、幾つか鳴り、私は驚いて思わずスプーンとプリンを落とした。


「な——」


『誕生日おめでとう! なつ!』

『おめでとう!』

『おめー!』

『おめでとー』


懐かしい声が聞こえた。お父さんの声だ。少し低いけど、とても優しい声。お母さんの声に、お姉ちゃんの声、お兄ちゃんの声……。私は、音のした方を振り向いた。すると、部屋の明かりが一斉につき少し若い頃の皆んなが、私の顔を見ながら椅子に座っていた。


「そんなとこいないで、ここに座りなよ」


お姉ちゃんが笑顔で、自分の隣の席を指した。

私は少し足を止めて、みんなの顔をじっくりと見た。間違いなく本物で、何一つ偽りのない笑顔だった。

私はお姉ちゃんの隣に座り、目の前のケーキに刺さっている蝋燭の本数を数えた。


一、二、三、四、五、六……。やはり、私が幼稚園児の頃に見た光景とまるで同じだ。あの時も、お姉ちゃんの隣に座った。


「ほら、早く蝋燭消して!」


お母さんが、ケーキを食べたいがために私に蝋燭の火を消すように促した。

一体私は何を見せられているんだろう。

幼稚園の頃の私、誕生日の私、お父さんがまだ生きている頃の私……。

もしかして、本当に幸せな頃の私……?

次話もよろしくお願いいたします!

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