表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第2-1章 【締めつけられる】
122/232

??? 『しどろもどろ』

「私の話……? な、何を話せばいいの?」

「何でもいいの! 楽しいこと、話して!」


楽しいことと言われても、何も思い出せないし何も思いつかない。私の人生に楽しいという文字があったのかも分からないし、悲しいことだって何も思い出すことができない。


「ごめんね、私、何も思い出せなくて。知らない間にここにいたし、どこからきたかも覚えてないの」

「えー、お姉ちゃんのお話聞きたかったのになぁ」

「ごめんね」

「うーん、いいよ! じゃあ、私のお話を——」


少女は目を見開き、物凄い目力で扉の方を見た。途端に、少女の手が震え始めた。よく見ると、手には火傷の跡のようなものや、その他にも、腕に痣が数カ所できていた。


「お姉ちゃん、ごめん。今日はもうもうお話できないよ。お姉ちゃんはそこに隠れてて。私、もう今日はお話できないから、明日また、お話しよう。後で、ご飯も持ってくるからね」


少女は私の手を取り、クローゼットまで誘導した。一体どうしたのだろうか。何かが来た……? と言っても、何かが入ってきた音はしなかった。

何かを感づいた……? この少女が……?

すると、別の部屋から罵声が聞こえた。私は、クローゼットの中で蹲った。


「……っそ、あいつ、俺を騙しやがって! 今度見かけたらぶっ殺してやる! くそ、酒飲まねぇとやってらんねぇ……。くそ!」


男性の声だ。それも、とても低い声で、風邪を引いてるのではないかと思えるほど、ガサついている。


「……おーい、キョウカちゃーん? お父さんと一緒にあそぼーや? なぁ?」


クローゼットからは見ることができないが、少女の部屋の扉を開ける音がした。


「お、お帰りなさい……お父さん……」

「キョウカちゃん、いいなぁお前は、この部屋にいれば飯は食えるし、何も辛いことねぇもんなぁ……なぁ!」


……肌を叩く音が聞こえた。


「いっ……お父さん、やめて……」

「うるせぇ! 口答えをするんじゃねぇよ!」


また、引っ叩く音が聞こえた。


「……もう、許して……」


カチッという音が聞こえ、煙がクローゼットの中に入ってきた。おそらく、タバコの煙だろう。タバコの臭いがクローゼットの中に充満した。私は鼻を押さえて、自分の周りの臭いを少しでも消そうと、顔の前だけを手で仰いだ。


「あついよ、やめて……」


少女の痛々しい声がした。男性が、少女にタバコの熱を帯びた部分を押し付けたのだろう。さっき見た手の丸い火傷跡は、このせいなのだろう。


「これはお前のためにやってるんだ。嫌がるんじゃない」


少女が咳き込んだ。タバコの臭いが部屋にも充満してるのだろう。さっきまで空いていた窓は、閉められたのだろうか。それとも、少女が自ら閉めた……? でも何故? こうなることが分かっていたのなら、窓を開けておけばよかったのに。


「チッ……つまんねぇな。ほら飯だ。勝手に食っとけ」


そう言って、男性は部屋から出て行ってしまった。頃合いを見計らい、私がクローゼットの中から出ると、少女は啜り泣いていた。私はそっと近づき、少女の前で起坐をした。


「……キョウカちゃん、大丈夫?」


少女は私に抱きついてきた。


「お姉ちゃん、怖いよ。お父さん、気分が良い時は何もしないのだけど、気分が悪いといっつもこうして私を虐めてくるの。『お前のためだ』って言って」


私は自然と少女を抱き返した。


「……私が終わらせてあげる。この負の連鎖を全部、断ち切ってあげるから」


少女は首を傾げて、私の目をじっと見つめた。私は笑顔で返し、床に転がっていた鉄パイプを拾い上げた。


「どうするの……?」


少女は、私が持つ鉄パイプを見てそう言った。


「キョウカちゃんは何も気にしなくて良い。これから幸せになる道を歩むだけ、そう思っていればそれだけでいい。だから、ほんの少しの間、この部屋から出ないでいてね」


私は息を呑み立ち上がって、少女を置いて、部屋から出て行った。

次話もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ