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107話 『魔物を呼びよせるな』

 ちょっと長めにしました。というより、集中しすぎて長めに書いてしまいました。

 切る部分が無かったので、書いたの全部一話に入れました。

 歩き出して、凡そ三キロメートルは歩いたかな。このゲーム、シンボルエンカウントだから、魔物に物音で気づかれたり、見つけて行ったり、見つからなければ、戦闘にはならない。


「(あそこに魔物がいます。みなさん、気づかれないように歩きましょう)」


 シルエが小声でそう言い、靴の音をたてないように歩き始めた。

 私は、何処にも隠れもしない身を屈めて、なるべく音をたてないように歩いた。が、その措置はすぐに必要がなくなった。


「了解っす! ダンチョォー!」


 誰の爆大声かと思えば、エミさんだった。この声を聞いた周囲にいた魔物が、私たちの存在に気づき近づいてきた。体が小さく、尻尾が膨らんだドラゴンが数体、牙がマンモスやゾウよりも大きく、体もその分大きいサイのような緑色の生き物が二体、ドクロの上に乗った黒い鳥……いや、これはアウトでしょ。

 そして、あと一体は……ヘビ? こんな場所にヘビがいるんだ……? いるもんなの?


「エミさん……」


 シルエが、呆れた顔でエミさんの顔を見つめた。エミさんは、表情を一つも変えず、真顔でシエルを見返した。そして、周りの状況を見て、また大声を出した。


「申し訳ないっす! 次から気をつけます! 次から!」


 敬礼をし、シルエに頭を大きく何度も下げた。

 真面目なのか、ちょっと抜けてるのか……。


「エミねぇちゃん、いつもこれ言ってるんだ」


 双子のうちの一人が私の顔を見てそう言った。同じ服着ているし、似すぎてどっちかシェイクくんでもう片方がブラットくんなのかが分からない。もう少し分かりやすくしてくれればよかったのに……。

 男の子と女の子の双子だったら分かりやすかったのになぁ。


「魔物が来ます! ガイザーくん! ……はダメそうですね……。こういう時こそ、彼は適任なのですが……」


 ガイザーさんは荷台の後ろで、魔物に目をつけられないように身を守っていた。


「彼のタレントは、防御に役立つ『鉄筋』なのです」


 鉄筋……? 読んで字のごとく、鉄の筋肉、ということだろうか。つまり、普通であればタンク役となるであろう人物ということだ。


「あっちが声で敵を怯ませますぅ!」


 エミさんが前に出て、大きく息を吸い、今までにない声をあげた。

 耳を(つんざ)くような大声で、私たちは思わず耳を塞いだ。塞いでも、まだ鼓膜が破れそうになるほど煩い声だ。この人を引き連れて、旅を少しだけでもしていたと思うと、相当忍耐力の強い人なのだろう。シルエさんは。


「すっ、す……ません。魔……が現……時は、……もこうなるんです!」


 シルエさんが言いたいことは何となく伝わった気がする。それにしても、この声はあと何秒続ける気なんだろう……。頭がクラクラしてきた……。


「ふぅ」


 と思った瞬間に、エミさんのパワーヴォイスが終わった。周りにいた魔物は、少し衰弱していたものの、まだ動けるようで、地面から立ち上がって、エミさんを睨んでいた。


「あー、ダメっすね。『ハイ・セイ』じゃ、ここ辺りの魔物は倒しきれないっす。生き物が多ければ多いほど、ダメージ分散しちゃうので」


 ハイセイ……声に自信があるからこそのスキル、ということは、タレントに深く関係したスキルということだろう。


「ちなみに、彼女のタレントは『ラジヴォイス』です。大きい声量、という意味らしいですよ」


 なるほど……。だから声を活かしたスキルが、声を更に大きくして、敵味方関係なくダメージを与える技なのですね。分散が少なければ少ないほど威力は上昇する……特殊なスキルだ。


「ブラット、シェイク。君たちはガイザーくんの近くにいなさい」


 双子の男の子は、どちらもガイザーさんの傍に寄り、身を固めた。


「それでは次に私が……」


 シルエがエミさんの前に出て、魔法を唱えようとしたので、私は行動を起こす前に止めさせて、前に出た。

 マジッククリエイトで作成した魔法は、この場では使用できない。端から、一人で戦闘している時と、誰も見ていないときに使うと決めていた。

 ショックを使えば、手軽に一掃できなくもないが、周りから見れば、海賊と戦った時のような不自然な場面となることは間違いない。


「それでは……」


 私は目を閉じて、両手の掌に、赤色玉(ファイヤボール)ができるように念じた。だが、私の念は届かず、融合魔法のための、魔法玉を作り出すことはできなかった。

 ……できたらカッコよかったのに……仕方がない、普通に唱えよう。


「ファイヤ、もういっちょファイヤ!」


 掌の上にできた火の玉を握りしめ、五センチ程の小さい偶になるように丸めた。ちょっと熱かった。

その二つの魔法玉を捏ねるように両手で丸めて、少し大きくなり、玉の中身が燃えている魔法玉を作り出した。

 発動するまでは、融合魔法分のMPを消費はしない……。減るのは元のファイヤ二回分のMPだけのはず。融合魔法玉をポケットの中にしまい、また魔法を唱える準備をした。


「キュキュアァァァ!」


 数体のドラゴンが、私に向かって魔法を唱えてきた。

 炎を吐くんじゃないのか……


「なつめを守るぞ!」


 お兄ちゃんが剣を構えて、敵が放った魔法を剣で打ち消し、私を守った。

 それに続き、メルちゃんも杖を袋から取り出して前へ、セナさんは出てこないが、マミさんは、変な道具を私の服に取り付けた。


「これで、なつめさんの体に、もし攻撃が当たったとしても、三回だけは大きいダメージを無効にしてくれます。一つ気を付けてほしいのが、三回守った後、それ以降の攻撃は、誰が体に身に付けていたとしても、被ダメージが大幅に増えてしまうという点です。だから、使用後は服や体につけておくのはやめてくださいね。それと、料金は三〇〇〇ギフになります!」


 勝手につけてお金をとるんだ……。

 それは置いといて、もう一つ、融合魔法玉を作ろう。今思いついたばかりだけど、少しやてみたいことができてしまった。


「ウィンド、ウィンド」


 私はさっきと同じように、手の上にできた、小さい竜巻を握り潰し、丸めた。変な感覚だ……。

 掌でできた魔法玉を二つ捏ね合わせ、融合魔法玉を作った。先ほど作っておいた、ファイヤの融合魔法玉を取り出し、高鳴る鼓動を落ち着かせ、今作ったばかりの融合魔法玉と手で捏ね合わせた。

 合わせた二つの玉は、炎の赤と風の薄緑が合わさりまどろっこしくなっていて、大きさはおよそ十センチ程になり、私の片手では持てないくらいになった。球体とは言え、軽いが大きくてより投げづらい。


「皆下がって!」


 私は、前に出て敵の猛攻撃を受け止めていた皆を、魔法の影響が無い、私の傍まで寄らせ、ガイザーさんに荷物や子どもたちを傍に寄らせるように言った。


「弐段階融合魔法の恐ろしさを思い知ってもらおう! 紅蓮の微風ファイヤトルネード・弐!」


 私は球を真上に放り投げて、頭を手で守りながらしゃがんだ。上に放り投げた魔法球は、空中で弾けると、私たちを囲む、炎と竜巻の渦ができ、非現実的な、何とも幻想的な景色を作り出した。私たちのいる場所は、所謂『目』と言われる場所だろう。唯一影響のない場所だ。

 どのくらい経ったかは分からないが、やっと竜巻がなくなり、周りの景色がすっかり晴れた頃、さっきまで周りにいた魔物たちは跡形もなく消えてしまっていた。


「こ、これは……。ちょっとやりすぎたかな……」


 まさか、ここまで高火力になるとは思わなかった。巨大な竜巻に乗せると、威力も殲滅力も上がる。

にしても、凄かったなぁ……。命名してみたのはよかったものの、微風どころじゃなかった、これ。

それに、成功するとは思いもしなかったし、MPも完全に枯渇してしまったけど、これができるとなれば、まだまだできる事が増えるはず。マジッククリエイト含め、今後も色々と試してみることにしよう。


 不定期で申し訳ございませんの一言しかございません。

 毎日更新とか夢です。でも、毎日更新するのは時間的にキツイです。できても、月、火、金、土、日曜日の五日間更新ですね。(部の活動の方もあるので、確実にできるのは火、土、日になると思います)((平日更新、レッツチャレンジですね!))


 なんて……。


 次話もよろしくお願いいたします!

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