101話 『上陸』
船はゆっくり港に近づいた。
「おーらーい、おーらーい、船が港におうらーい! なんつって!」
うわ、つまんな。
船が大きいためか、ただふざけているだけなのかは分からないが、白旗や赤旗を振って船を誘導しようとしている人がいた。この船の船員と同じ格好をしているということは、ここの港の役員の様なものだろう。
船の操船者はその人の指示を全く聞かずに、桟橋に船をつけ、錨を下した。
船の中にいる船員が扉を開けて、桟橋に渡るための長い丈夫そうな木の板を桟橋に架けた。そして、その板が落ちないように船と橋でそれぞれ紐を結んで動かないよう固定した。その船員は板の橋が動かないことを確認して、デッキにいる船員に手を振った。デッキにいる船員は頷いて、デッキに出ていた乗客皆に船の中から外に出るように言った。
私たちは一度階段を降り、先ほど見た出口の方に向かった。
「やっと新大陸か……一体何が待ち受けているのやらな」
お兄ちゃんがそう言った。
「大陸の地図、船から出たら見てみよっか」
私がそう提案するとお兄ちゃんは頷いた。
そういえば、この港町には、家があるというよりも、テントが幾つも幾つも連なって張られていた。今までの光景と比べたら異様と言っちゃ異様だ。
もう一つ思い出したけど、この大陸のシステムって何だろう。セナさんが大陸に着く前に説明すると言っていた。『ルミーナのシステム忘れたから説明書取ってくるね!』って言ってたっけかな。一応案内する側なんだから覚えておきなさいよって感じだけど、セナさんだって一応人間だものね。月日が経てば忘れる。
私たちは降りる人たちの列に並び、板を慎重に渡って桟橋に足をつけた。人混みがあまり好きじゃない私は桟橋をもう少し奥に行った場所で立ち止まり、人が上陸していくのを見ていた。お兄ちゃんとメルちゃんは先に行って待っていた。
私は一度、水平線を見た。
ここまで色々あったけれど、やっと新しい物語を経験することができる。また、経験値が上がるんだ。人生の。
……今日は快晴だ。まさに散歩日和。
私は振り返ってお兄ちゃんたちの所へ歩いて行った。
「さて、とりあえず、上陸!」
私は石造りの地面に踏み入れた。これで大陸の地図を見ることができる。
ポーチからブックを取り外してマップのアイコンをタッチした。大陸の地図が目の前に現れた。
「丸いね」
丸い。
「これ正円か?」
これは正円じゃない。
「変な形だよね。パミル大陸といい」
「確かにな。人工物館丸出しだよな」
「デフォルトがこの形で、潮の流れによって変わってたのかもね。この大陸だけ丁度潮がぶつかってこなかっただけみたいな」
「そんなことあるか?」
「まずないね」
起承転結もくそもない話を聞いているメルちゃんは何の事か全く理解できていないからか、目を丸くして首を傾げた。
「何の話してるのー?」
「これはド低度な話だからメルちゃんは理解しなくてもいいよ」
「そっか……」
何故か残念そうな顔をされた。
沈黙が数秒間続いた後、ポーチから薄い紙きれを持ったウサギのぬいぐるみが飛び出してきた。
「やっと見つけてきたわ! 説明書!」
ポーチからはセナさんと同時に強化薬が一個だけぽろっと飛び出してきた。私はブックの電源を切って、ポーチの中にしまった。
強化薬の入ってる瓶そこまで大きくないしブックが入れられていたポーチ横のスペースに強化薬を一本入れた。
「じゃあ説明をしま――」
セナさんが喋ろうとした時、後方から声が聞こえた。
「ちょ、まだ板下げないでくださいー! 私が降りてません! 私が降りてません!」
一人の女性――マミさんが板を急ぎ足で掛けてきた。と、目を瞑って懸命に走って来たからなのか、桟橋に入っても止まることなく走り続けて……案の定海に落ちた。
「た、助けてくださいー! 能力者は呪われてるから海に嫌われて溺れるんですー!」
一体その情報はどこから絞り出したのかのやら……
女子力のあるメルちゃんが一番手に走って行って溺れかけているマミさんを助けた。
マミさんが桟橋に上げられてから数分……私たちは一つの決断に至った。
「よし、システム説明する前に宿屋を探そう」
次話もよろしくお願いいたします!




