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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第1 - 4章 【剋殺・過去】
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97話 『出航』

「私の美しさに声も出ない?」


 そういうことじゃないけれど、どうにもぬいぐるみと人間の状態との変化が激しすぎて……

 セナと名乗る女性はクルクルに巻いた髪を指ではじきながら得意げに笑った。


「この大陸にもう用はないよね?」

「あのー、セナさん?」

「何?」

「セナさんの家ってどうなってるの?」

「あーね、一種のトリックみたいなもんよ」


 トリック?


「幻影術……つまり幻を見せている。あの水晶玉でね」


 水晶玉が私たちに幻を見せているとか、一体どういう理屈で……それに、幻を見せる必要はあるの?


「それって意味ある?」

「こっちにも事情があるの。……今は中を誰にも見せるわけにはいかないわ」

「はぁ……」


 事情というのは一体何のことだろう。誰かに本物の館を見せないための工作……かな?


「次の大陸に行く?」


 私たちは顔を見合わせて頷いた。


「じゃあ切符買いに行こう!」


 セナさんは鼻歌交じりにスキップをしながら店を出て行ってしまった。相変わらずマイペースな人だ。私たちは代金を支払って店を出た。五メートル先にはスローペースでスキップをするセナさんの後ろ姿がある。クルクル巻きの白い髪の毛はスキップをする度に揺れ動く。町の人はそんなセナさんを見て少し笑顔になる。それに、殆どの人から挨拶もされていた。この町での信頼は割とある方らしい。

 私たちはセナさんに付いていき、港にある大きな施設にやってきた。

 中には作りかけの船があったり、将又港があったり……私たちはセナさんに連れてこられて切符売り場まで来た。セナさんは売り場の人に話をかけ、何かを話して右手の指を三本立てた。そして金貨を一枚自分の財布から取り出して、売り場の人に渡した。売り場の人は長方形の紙を三枚セナさんに差し出して、セナさんの耳元に小声で何かを言った。セナさんはそれを聞いて何回も頷いた。

 話し終えた後、セナさんは売り場の人に手を振った。三枚の紙を団扇のようにして仰ぎながら私たちの元へと近づいてきた。

 そして、私達に何かが書かれている三枚の紙を差し出した。


「これ切符なんだけど、欲しい?」


 私の真ん前で、その紙を上下に揺らした。


「そりゃあ欲しいですよ」

「なら、一つやってもらいたいことがある」


 え。


「それは一体……?」

「最近、海賊がルミーナ大陸行きの船を襲うという事件が多発しているらしいの。そこで君らには他の冒険者と協力をして襲いに来る海賊たちを懲らしめて、二度と海賊業をさせないくらいのトラウマを作ってあげてほしい。それをすると約束してくれるならこの乗船チケットをあげる」


 私が訊くとセナさんはそう答えた。


「本当……私の分の…………を……る為だけど……」


 セナさんが小声で何かを言ったようだがうまく聞き取ることができなかった。

 その日の一五時。私たちはその依頼を仕方なく承って、私たち含め、他の冒険者やお客を乗せ、ルミーナ大陸行きの船は出航した。セナさんはというと……


「風が気持ちいいわぁ!」


 本体ではなくウサギのぬいぐるみとして来ていた。「こっちでの仕事が一応あるから本体は行けない」と言っていた。確かに私達といる時も時々どっかに行ってたしなぁ。こればかりは仕方ないだろう。他にも理由はありそうだったけど。


「海賊はもう少し先に行くと出てくるはず……もう一度確認するけど、あなた達の役目は海賊の長を懲らしめる事。他の冒険者たちはお客さんや商人を守りながら戦うから、その間を潜って海賊のボスの元へ向かいなさい」

「はぁ……」


 なんで私達がボスに立ち向かわねばならならないかというと、簡単に言うと、この大陸での事変を解決したという実績があったから。面倒なことに、サン町にいる珍しい物を取り扱う有名な商人が、私たちが宿屋で泊まっている時に、ザトールでどこぞの元勇者と取引したとかで、その時にその元勇者が私たちの事を自慢したらしい。

っておいおいおーい。自慢してくれることは知名度的にはありがたい事なんだけど、何やってくれちゃってんのガイルさん。

その商人がガイルさんから聞いたことを世間話として色々話したせいで、私たちの事が広まり、変に信頼度が増して私たちが長を叩きのめすことになった。

ああ憂鬱。そもそも何で海賊っているの? 普通に平和に暮らすって事、人間ってできない生き物なの? 人を殺す生き物との戦闘はまだしも、人間と人間との争い程醜いものはないでしょう。海賊は浪漫とか本で読んだことがある気はする。その浪漫を他人に押し付けて人を襲う理由にするなと言いたいくらいだけど、話し合いを試みたって応じてはくれないだろう。

 その時、船が左右に激しく揺れた。

 船の所々から、頭にドクロマークが刺繍してある黒いバンダナを巻いた海賊たちが船に乗り込んできたのだ。


「くっ、いつの間に船に横づけを……! 皆さんこちらに!」


 この船の船員の一人がお客さんを安全な場所に誘導しながら言葉を吐いた。

 冒険者もお客さんを守りながら海賊と戦っている。

 そのうち、海賊の長と思われる、眼帯をつけ黒羽のついた羽根付き帽子をかぶった男が乗り込んできて、船の先端に立ち上がった。


「この船は完全に包囲させてもらったぁ! さぁ乗船者よ! 我々『クルイエ海賊団』に金品をよこせ! しないなら……皆殺しにする! あーっはっは!」


 海賊たちは歓喜の雄たけびを荒げた。

次話もよろしくお願いいたします!

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