94話 『サン町』
道中、魔物はいたものの襲ってはこなかった。むしろ挨拶してきたくらいだった。
……この大陸でレベルを上げるのってもうできなくない!?
「平和だな」
「ね」
あ、スライムだ。光ってるプニプニをまんま緑色にした生物だ。
そのスライムの群れは私達を見るなり地面の上で跳ねていた。かわいいなぁ。抱っこしたいなぁ。
「またねー」
私はスライムの群れに手を振ってその場を去って行った。ゴブリンもいれば、今までに一度も見た事がない、草に擬態した魔物もいる。確かに、こうなれば食料になる生物以外は安心して生きることができる。本当はどの生物も食料にならなければいいんだけど、生きていく上は仕方がない。弱肉強食弱肉強食。
歩き歩きまくってようやく、サン町に辿り着いた。
「やっと着いたね! 何食べる?」
町に着いて最初にそれかぁメルちゃん……
メルちゃんはウキウキしながら私にそう言った。
「確かに歩いたからお腹減ったね」
メルちゃんは何度も頷いて目をキラキラさせた。
「何か食べるって言っても、来たばかりの町だからどこに飲食店があるかなんて分からないぞ」
お兄ちゃんの言う通り。
「うん……」
メルちゃんはしょんぼりしてため息を吐き近くにあるベンチに座った。
「あ、じゃあセナさんのとこ行かない?」
私がそう提案するとお兄ちゃんは私のポーチを指してきた。
ああそういや、本人いたか……
私はポーチの中を手で探ってウサギのぬいぐるみを引っ張り出した。ぬいぐるみはぐったりしていて、動く気配がなかった。
「全然動かないねー」
メルちゃんがウサギのぬいぐるみの耳を引っ張ったり、頬を抓ったりして反応が一切ないことを確かめた。
「どうする? もしかしたらまだ私たちがあの村にいて、戦いの準備をしているのだと思っているのかもよ?」
「それはありえる」
何処に行くのが正解なのか分からない私たちは、ベンチ座りながらボーっとしていた。
時は流れて午後の三時過ぎ。私たちは道行く人に不審な目で見られた。
「本当にどうするの? 私達変な目で見られてるよ?」
「思ったんだけどさ、町の人に占い師の館がどこにあるか教えてもらえばよくない?」
お兄ちゃんがそう言うと、ベンチから立ち上がって通りかかった人に話しかけに行った。
「なつめ?」
「なにメルちゃん」
「だったら町の人にご飯食べられるところ訊けばよくない?」
「そうだよ」
「何でそれ訊かないの?」
メルちゃんは首を傾げた。
「とりあえず、落ち着いていることができる場所が欲しいんじゃない?」
「ううん……?」
メルちゃんが分からないのも無理はない。おそらく元引きこもりニートにしか分からない心情だろうから。私は長期の休み期間中は大体引きこもるからよく分かる。
「おーい、あっちだってー」
お兄ちゃんが手を振ってベンチに座る私たちに声をかけてきた。
「あっちってどっちー?」
私がそう言うと、お兄ちゃんはマップで言う西を指した。
私たちはベンチから立ち上がってお兄ちゃんの所に行き、三人で並んで西に歩いた。
「西に行くと、とてつもなくボロい家があるからそこだってさ」
どんな生活環境なんだろう……
そのまま西に歩いて行き、数分ほどでボロボロの木の家の前で立ち止まった。
「本当に酷いわこれは……こんな家に住むなら狭いアパートの一室に住んだ方がマシだよ……」
木造の家は所々が腐っていて、窓もヒビが入っていたり、家の中を窓からのぞいても見てわかるくらい生活感の無い家だった。占い師の館とかじゃない。只のボロ屋だ……
占い師要素があるとしたら、部屋の中央に何故か地面に置いてある水晶玉と本が二冊しか入ってない謎の大きな本棚くらい。元々占い師が本業じゃなかったことは知っているけれど、これはこれで酷い。
私は誰もいないことを分かっていながら扉を叩いた。
「セナさーん! いませんかー?」
呼びかけても反応はない。だろうね。
一体何処に行ったのやら……
扉を開こうとしてもドアノブがない。押しても引いても横にやろうとしても開かない。
なんなんだこの家は……
「どうする?」
私は扉を一回一回強くたたきながらそう言い。お兄ちゃんの顔を見た。
「食事処探すか」
「……そうだね。お腹空いたもんね」
私たちはボロ家から離れて食事処を探しに行った。
次話もよろしくお願いいたします!




