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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第1 - 4章 【剋殺・過去】
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93話 『別れ』

 私たちは街を見て回りながら、広場にいなかった人たちにも同じ話をした。すると、数人程、サンソン集落に行きたいという人が出てきた。出てきた大体の人が、完全な自立ができないとかで、サンソン集落に行きたいと言っていた。過度なホームシックにならなければいいけど……

 私とメルちゃんはその人たちを連れて酒場に向かった。むしろ酒場以外に行く場所がなかったというか。酒場に入ると、人が沢山集まっていた。お兄ちゃんに訊くと、どうやらこの中にいる人たちは全員集落に行きたい人たちらしい。私は連れてきた数人も希望者だと言って、後は皆に任せて一人で二階に上がり、自分の部屋に戻った。

 やっぱりここが落ち着く……何か月か住んでいたとなると、体と心が自然と馴染んでいる。

 私はベッドに横たわり、目を閉じた。

 最近よく考える。昔の事。思い出そうとしても、思い出せない記憶のはずなのに、思い出させようとする。私は『私』を思い出させようとする。生きてきた中で嫌な記憶ばかりだ。でも、思い出したい記憶もあるから、思い出したくない記憶まで蘇る。

 一体、思い出したい記憶って何なんだろう。それはこの性格を確立させた、中学一年生中期前の記憶だろうけど。

 どんな私だったかな……あの時は。もう今では思い出すことはできないかもしれない。


 『ねぇ? 私』


▽▲▽


 …………嫌な、扉を叩く音が聞こえた。

 また私は記憶に残らない感覚を負わなければいけない。何もしていないのに、動くこともままならなければ、逃げる手段だってないのに。

 誰が私をこの世に誕生させたの? 誰が私を育てようとしたの?

 誰が……?

 その誰って、誰……?

 傷つけられたの。その誰かに。複数の誰かさんたちに。私は暗い部屋の中で寝かされて、いつまでも怒られる夢を見た。何も食べさせてもらえなかった。食べさせてもらうとしても、一日一回くらいで、私はすぐにでも死んでしまいそうだった。

 こんな嫌な音、思い出したくなかったはずなのに……


▼△▼


 …………扉を叩く音が聞こえた。


「なーつーめー! 起―きーてー! そろそろ行くよ!」


 メルちゃんの声だ。何故か安心だ。


「はーい?」


 私は返事をして、ベッドから起き上がり部屋の扉を開けると、目の前には長い布袋に入った杖を背負っている。いつのまに身支度をしていたらしい。


「そろそろ行くよ! 村に移住する人は皆、イリアさんが連れて行ったよ。もう私達にはできることはないから、そろそろ行こうってことになったの。なつめが昨日の夜一回も下に降りてこなかったから心配だったけど、今見ると全然元気そうだし良かったよ」

「え? 昨日の夜……?」

「そうだよ? なつめずっと寝てたんだもん。今、朝だよ?」


 私はブックを取り出して時間を確認した。朝の七時……日付は十一月の二日。うーん、私ちょっと寝すぎかも?


「もう皆身支度出来て下で待ってるよ! なつめも早く来てね!」


 そう言って、メルちゃんは階段を降りて行った。

 そっか、これで大丈夫だよね。あとはカグラさんに任せても大丈夫かな。皆がいるんだから。

 私は部屋にある私物をポーチの中に入れて、ベットの下まで隅々確認して何も忘れ物がないことを確信して部屋を出た。今日で、カグラさんともお別れということになる。

 私は廊下を歩き、階段をゆっくりと降りた。


「みんなおはよう!」


 私がそう言うと、朝からはテンションが上げられないお兄ちゃんが低めの声で「おはよう」と言った。カグラさんはいつも通り「おはよう!」と元気に言った。ガイルさんはキッチンから顔を出し、「皆より二時間遅いぞ。おはよう」と無駄な情報を前に入れて言った。


「なつめも起きたことだし、そろそろ行くとするか」


 紅茶を飲み干して立ち上がったお兄ちゃんは、いつものパジャマでなく、冒険者らしい軽装をしていた。


「お兄ちゃん何その格好……それに武器も」


 腰のベルトに着けてあるシンプルな白銀の鞘には剣が入っていた。


「昨日買ってきたんだ。どうだ?」


 黒いぶかぶかのズボンに白いシャツ。それに首に巻くマフラーみたいな長い巻物がなんとも厨二っぽい。


「一言で言わせてもらうと、ちょっとダサい」

「えっ。これ動きやすさ完全重視の低レベル装備テンプレらしいのに」

「そうなんだ……」


 まぁ装備をやっと変えてくれたのはいいんだ。なんで今までパジャマのまま入れたのかが不思議なくらいだけど。


「さて行くか! 次に目指すは東のサン港町! 馬車なんてないから歩くしかない!」


 私とメルちゃんは軽く溜息を吐き、ガイルさんにお礼を言って酒場から出て行った。

 そして数分間皆無言のまま歩き、東の門に辿り着いた。


「さて、ここらで皆とはお別れなのだ」


 門を抜けると、カグラさんが後ろで少し寂し気に言った。


「そうだね。カグラさんにはサンソン集落のことがあるもんね」


 お兄ちゃんとメルちゃんは頷いた。


「それでは、達者でな!」

「またね! カグラさん!」


 私たちは手を振ってカグラさんと別れた。これからは三人旅になる。

 あれ? そういえば、誰か忘れてるような、そうでもないような……

 ……ま、いっか!

 私たちはサン町に向けて、地面を力強く踏みしめ、前に進んだ。


やっと大陸最後の港町に! この章はあと少し続きそうですね……

次話もよろしくお願いいたします!

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