5話 『友達』
☆4話のあらすじ☆
寝床を探している途中で、
おばさんが酔っ払い達に絡まれているところをカナタは助けようとする。
しかし、武器もなく、到底敵うはずがなかった。
そこに、ある1人の女魔法使いが現れる。
彼女の名前はメル。
メルはカナタとおばさんを物凄い力(物理)で助けてくれる。
その後、メルにマロンクリームパンとキューポイのビーフを食べさせてあげることになった。
※ちょっと妹視点入ります。今後はするところないと思うので安心してください。混乱させてしまったら申し訳ございません。
この店の名前は【おしゃれんてぃ】と言うらしい。見た目通りのまんまネームである。
店内に入ると「いらっしゃいませー」と、元気な声がいくつも聞こえる。
外装に負けないくらい内装もきちんとしているみたいで、何かに例えるとすると、ガストとかココスみたいなファミレス的な感じだろう。
一部ガラス張りの壁になっていて、町の様子を見ながら食事ができるようになっている。
結構な人がいて、男女の声がひしめき合っていたり、厨房からの様々な料理の良い匂いが食欲をそそる。
しかし、なぜにキューポイのビーフをメニュー表の上にドドンと大きく載せて、他のメニューを小さく載せるんだかな。そのせいでメルが気づいてしまい、食べさせる破目になってしまったのである。
いやー、それにしても、金が一気になくなるな。
メルのために使ってあげなさいと言われたが、キューポイのビーフというもののおかげで俺の所持金は六百ギフしか残ってない。
しかもここからまたマロンクリームパンを食べるとなるとどうなるか……
この店の、オレンジ色の制服を着た女性店員が笑顔で俺たちをテーブルに案内をしてくれる。
……結構奥のテーブルに案内してくれたな。出る時疲れそうである。
というかキューポイのビーフってなんだ?
そもそもキューポイなんての聞いたことないぞ。
「なぁ、メル。キューポイのビーフの『キューポイ』ってなんだ?」
「え、知らないのです? パミル大陸にのみ生息するレアな牛さんだよ?」
口をぽっかり開け、呆れた様子で、まじまじと見てくる。
なつめにも同じこと言ったら「お兄ちゃん、バカじゃない?」的なことを言うに違いないのだろうな。
「へぇ……レアなのか……でも、自分で捕まえて食べるということはできないのか?」
そんなことはお構いなしに質問を続ける。
「いやぁ、それがね……その牛さんは……」
メルはテーブルに頬杖をつき、口をとんがらせている。
すると奥の方から料理を持った店員がこちらに向かってくる。
「おまたせしました〜。 キューポイのビーフです」
「きたきた! はぁぁやっぱり美味しそう!」
運ばれてきたのは、脂がしっかりと乗った牛肉が乗っている熱そうな鉄板と、見たこともない野菜が入った皿。白米というものはこの世界にはないのか? それともアメリカみたいな、肉が主食の世界なのか?
こんなに大きい肉が出るのなら白米は欲しいところである。特にこしひかりが欲しい。
おそらく赤みが少し残っているので、焼き加減はミディアムくらいだろう。じゅーじゅーとアツアツの鉄板の上で音を出している。
見て聞いただけでジューシーとわかるような一品である。なつめに見せたら大喜びで食べるに違いない。
とは言え……これだけで三百グラムはあるのではないだろうか?
こんなものを女の子一人で食べれるものなのだろうか?
それにしても本当に美味しそうだ。
「まさかこれ、一人で食べるつもりか?」
「もちのろんです! それともカナタも食べたい?」
いつの間にもうフォークを左手に、ナイフを右手に持っている。
いやぁ、俺は別に欲しいとは言ってないんだが……
そういえば、店に入る前は上着が長くて気づかなかったが、ここにきて食べるためにまくっている姿を見ると、あんなにすごい風をおこせる割に、腕は細い。というか綺麗な腕だ。
それに脚も結構細くて綺麗だった様な……というか全体的にスタイルよかった覚えがある。
「というかそれ以前に太らないのか? メルは力がある割に細くは見えるが、実際は?」
「……それは聞かないでくださいます?」
笑顔で、こちらを見ているが、この笑顔の先には何か奥深くに怒りみたいなものがある気がした。
それに、ガチトーンだ。
「では、いただきまーす!」
気を取り直したかのように元気な声が出た。
メルが丁寧にナイフで肉を切ると、中から肉汁がたっぷり流れ出る。
一口サイズに切り取ったお肉にかぶりつく。
「はむはむはむ……やっぱりおいひぃですなぁ。口の中でもお肉から溢れ出る肉汁がまたお肉の美味しさを引き出して……」
俺が前にいるのを知っているくせに、嫌味ったらしく食レポをする。
そういやなつめもこんな風に、俺がたまたま下に降りてきた時だけ、自分だけファミマのチキンを食べて、美味しい美味しいって嫌味ったらしく言ってたな。
「はむはむはむはむ……カナヒャも食べたひ?」
口いっぱいにお肉を入れているので、もごもごしながら話している。
ただ、相当嬉しいのか、さっきから笑顔を絶やさずに食べている。
「また聞くなよ」
「じゃあいらないってこと?」
だから、そうは言ってないんだがな……
それにしても、まったく美味そうに食いやがる!
両肘をテーブルにつけ、頭を抱え改めて後悔をする。
あぁ! どうせなら自己負担の七百ギフ分の肉貰えばよかった!
「ふぅ、お腹いっぱい」
俺が頭を抱えている間に、いつの間にか鉄板にあった肉は消え、皿にあった野菜も跡形もなく消えていた。
いや、もう食べたのかよ! 早すぎかよ!
まだ料理運ばれてから十分も経ってないぞ!?
「ちょっと、食べるの早すぎないか? 詰まるぞ?」
「これが普通だよ」
幸せそうな顔をしながら、お腹をさすっている。
普通とは一体何なのだろうか。まぁ見た感じメルは普通じゃないから、普通じゃない中での普通と捉えて間違いはないだろう。
「そうだ。メルに聞きたいことがあったんだ」
「なあに?」
食べ終わったことに気付いた店員が、鉄板と皿を、「おさげしますね」といい持って行った。
メルはテーブルに寄りかかり、顔をテーブルにつけ、ぐたっとした姿勢をとりながら不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「あぁ、えっとな、三つくらいあるんだけど、一つ目は、メルのタレントについてだ」
「私のタレント……いいでしょう。教えてあげましょう」
ニコニコしながら答えてくれた。
ずっとお気になっていたんだ。あの広場でやったことについて、どんなタレント能力があり、そうできたのだろうかと。
「私のタレントは【必中】。要は敵に攻撃が必ず当たるというすんばらしいタレント。攻撃が全部当たるって爽快なんだよ」
ぐたっとしながら笑顔で答えているが、疑問しか残らない。なぜその様に物理攻撃に特化したようなタレントなのに、魔法使いをやっているのだろうか。
しかし、なぜあの広場ではおばさんだけを風が避けるように調整できたのか益々気になる。
「必中なのになんで、あの広場で酔っ払いだけに風を放つことができたんだ?」
メルは顔をテーブルから放し、不思議そうな顔をしている。
「あれは直接的な攻撃じゃないから、調整ができるんだよ」
なるほど。じゃあ必中は直接攻撃をしない限り効果が表れないって事か!
何となく分かった訳だし、二つ目の疑問を投げかけてみよう。
「ああ。で、2つ目なんだが、さっき言った、酔っ払いたちを吹き飛ばしたのって、あれはスキルか」
おそらく、あの場にいた誰しもがあの凄まじい風を起こす攻撃を、スキルだとは思ったのではないだろうか。そう思い質問する。
「まぁ正式に言うと、ただの通常攻撃かな」
コップの水を一口飲み、さらっと答えてくれたが、通常攻撃であそこまでの強風が出るのかよ!
「私が唱えているの聞いたかもしれないけど、攻撃前にたくさん自強化したからもあるんだよ」
メルの話によると、MPが尽きるまで、自分自身に強化スキルを唱えて、そこから最大限の力で殴ったり、吹き飛ばしたりするらしい。
なのでいきなり襲われたりすると、あたふたして強化することが出来なくなってしまい、すぐに対応が出来ず、逃げることしか出来なくなってしまうとか。
だからここに来るまでの道中魔物から逃げてばっかりだったらしい。
まさか自強化をするためだけに、最大MPの高い魔法使いに!?
なんだかもったいない気が……
「それじゃあ、その自強化のスキルって何なんだ?」
「【パワーアップ】っていうスキルだけです」
パワーアップ……いかにも物理攻撃に特化したような名前だ。
「なるほど……で、最後なんだが、その隣に置いてる袋に入っているモノって、どこで手に入れたんだ? 見た感じ武器っぽいけど」
正直一番気になっていたことである。あの広場の時は思いっきり振ったりして使用していたが、魔法使いということだし、長さ的におそらく杖だろうとは思うけど、とても変な形をしている。
「これは……その……も、もらったの!」
武器の事を聞くと、メルは俯いて、おどおどしている様に見えた。
もらった……? 一体誰にだろうか?
「誰に?」
「その……旅してる途中で違う旅人さんに!」
そう言うと、もじもじしながら黙り込んでしまった。
本当はもう少し聞きたいことができてしまったのだが、最後の一つにした。
それはメルの事を知るための、一番重要な質問だった。
「そもそもメルって何処から来たんだ?」
メルはまた驚き、顔を赤らめ、あたふたする。
「えぇと……」
メルはやはり、何か隠したい事があるのだろうか。
……まあ身元を聞いているわけだし、普通そうなるよな。
「えっと、とりあえず、この町の北東の方から来たってことだけ言っておくね」
一息つき、場所までは教えてくれなかったが方角だけど教えてくれた。
北東……何かあったか? まだこの大陸のことあまり知らないから何とも言えないけれど。
まぁ、まだ来たばかりだから何にも分からないけど……
「わかった。ありがとうな」
まぁ知れることは知れた訳だし、いいだろう。
「う、うん。次、パン買いに行こう?」
荷物を背負って席を立ち、下を向きながら、俺の服を引っ張り足早に店を出る。
そうだ、話に夢中で忘れていたが、パンを買わなければいけなかったんだ。
六百ギフしかないのだが、一体何個買わされるのだろうか……
お洒落な店の反対側にあるパン屋にメルを連れていく。
そういや、あの時はお腹空いてて、店名をあまり気にせず入ったが、【セリーゼ】っていうのか。
何か良い名前だな。
「ここ?」
「あぁ、そうだ」
「何かお店に入る前から良い香りがする……」
そうだろう。この良い匂いといい、雰囲気といい、俺のお気に入りの店だ。(※勝手に決めた)
そして店内に入る。すると、奥からパン屋の男性店員が出てきて話をかける。
「おや? また来たんですか? お次は彼女さんと?」
純粋な爽やかな笑顔で聞いてくる。なので俺も純粋に、真面目な顔で正直に答えよう。
「いいえ、違います」
といっても……何を勘違いしている。俺二十四歳だぞ。
こんな小っちゃい子と付き合ってるとしたら、相当なロリコンになってしまうじゃないか。
「まろんくりーむぱん六個ください!」
俺と店員が話している間、マロンクリームパンの入ったをカゴを見つけたみたいで勝手に注文してしまった。
いや六個も食べるのか。さっきあんだけ食っといて。
一体メルの胃はどういうつくりをしているのだか。まあどうせ、いっぱい食べても太りませんみたいな体質なんだろうな。
「はーい。六百ギフになりますね」
とはいえ六個でよかった。もし七個以上だったらどうなっていたことやら。
もし俺が七個以上無理だと言って、払えないから6個にしてくれなんて言ったら、おそらくメルは泣きわめいていたに違いないだろう。
安心した。
メルが無言で目をキラキラさせながら俺を見つめてくる。
「わかったよ……はい、店員さん。六百ギフです……」
一円玉くらいの大きさの銅貨を手渡す。
「はい、ちょうどですね~。ありがとうございました~。またのご来店をお待ちしております」
店員は手を振り、送ってくれた。そして、店から出る。
「買えてよかったな」
俺の金は全て消えてしまったけど。
「うん! こんなにいっぱい嬉しい!」
セリーゼ特製の茶色い紙袋に入ったマロンクリームパンを嬉しそうに抱える。
まぁ喜んで貰えているならよかった。
それとメルが勝手に作った『2つ目のパンを食べた罪』が無くなってくれるなら尚更いい。
「う~ん、美味しい! やっぱマロンは最高ですっ!」
マロンクリームパンを袋から一つ取り出し、パクっと食べた。
「これで俺の罪も無くなったな」
俺はどっちかと言うと、罪滅ぼしにマロンクリームパンを六個買ったという感覚なんだ。きっと許してくれることだろう。
「そんなことはないよ?」
え……真顔で答えられたって事は、全く許す気が無いという事だろうか。
せっかく六個も買ってあげたのに。それにキューポイのビーフまで食べさせてあげたんだぞ! ? なのに何で許してくれないんだ……?
「……カナタさん! ……カナタさん!」
すると、南の方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。その声の主はどんどん近づいてくる。
でも何か聞き覚えのある声なんだよなぁ……
「はぁはぁ……やっと会えた……」
慌てた様子で現れたのは、なつめと一緒にいたはずのくそウサギのぬいぐるみ。
わざわざ俺を探しにこの町に戻ってきたらしい。
……って、なつめは……?
どこを見てもなつめの姿が見当たらない。
「なつめはどうしたんだ? 一緒にいたはずだろう?」
「それが……カナタさんがザトールで悠長に寝床探しをしてる間に、なつめさんとイリアと私の三人で南の方にある『英雄の滝』って所に行ったんだけど、帰り際に、ゴブリンの集団に出くわしちゃって……」
▽ ▲ ▽
「へっへっへ……女が何人でかかってこようと、俺らにゃ敵わねぇぜ……たぶん」
確かに、イリアさんがいても、ウサギさんが呼んだ二人がいてもこの数を相手にするのは相当ハードだ。
それに私は戦闘未経験者で、何もできない……
逆に迷惑をかけてしまうに違いない。
それでも……
「私に何かできることはありませんか……?」
そう言った、けど……
「なつめは下がってて! ここは私たちがなんとかする!」
似合わない真剣な顔をして、イリアさんは私にそう返事をした。
仕方がないことなのは確かだけど……
こんなものでこれから……生きていく事が出来るのかな。
「ルナ! サン! いくよ!」
『はーい』
二人は元気よく返事をする。
「狂化術【ルナティック】!」
ウサギが手を前で合わせそう唱えると、鮮やかな青色をした彼女たちの目の色が、狂気の赤色に変わる。
「さぁ! こんな雑魚共、1秒以内で決着をつけなさい!」
そう言われた次の瞬間、二人は一瞬で消えてしまい、私は瞬きをする。
一瞬過ぎて何が起きたか分からなかった。
瞬きを一回した一瞬で、目の前にいたゴブリンの集団はみな倒れていて、イリアさんも何が起きたか分からなかったらしく、唖然とし、口をぽかんと開けていた。
瞬きをした間に一体何が起こったのだろうか。
『つかれたぁ』
『休ませてぇ』
あの二人の声だ。完全に疲れ切っているのだろうか。ウサギの隣で、二人は互いを支えあう様に身を寄せ合いぐったりとし、地面に座っている。
「いいよ、ゆっくり休んで。」
ウサギは長い耳を耳をハート型にして、OKサインらしいものを出す。すると二人は静かに消えていった。
一体あの二人は何だったの……?
「ぐっ……へへ……へ……まだ終わりじゃねぇぜ……」
地面に倒れこんでいる、傷で血だらけのゴブリンが、顔をあげ辛そうに言った。
「……なんですって?」
ウサギはちょっと驚いた様子身構える。
「オーガの兄貴! やってくれ!」
倒れているゴブリンが、大声で叫んだ。すると、ドシっという鈍い音で地鳴りがした。
オーガ……? それは一体どこに……?
「きゃっ……」
いきなり体が宙に浮いたと思ったら、後ろから体を手で掴まれていた。
私を片手で掴めるほど大きい手なんて……別に私が大きい小さいって訳じゃなくて、それだとしても大きいってことね。
体はどれだけ大きいのかな。
「なつめ!」
イリアさんの呼びかける声が聞こえる。下からだ。
あれ……?
オーガが動き始めた。というか走り始めた!? 何処へ行くというの?
って、あれ……なんだか眠く……なって—
「っ——! ……普段は温厚なオーガがこんなことをするはずがない……何か理由が……? とにかく今は考えてる必要はない! ウサギ! この事をカナタに伝えてきて! 私はオーガの後を追う! 居場所がわかったら【星の便り】で伝えるから!」
……意識が朦朧としていく中、イリアさんの声が少し聞こえる。
一体私、これからどうなるんだろう……
▽ ▲ ▽
「で、ここに来たって訳」
「なつめがぁぁ!? 誘拐されただとぉぉ!?」
顔が真っ青になった。
妹がオーガっていうよくゲームに出てくるような大体強キャラのやつに誘拐されたなんて!
「というか……さっきから同じパンを貪ってる彼女は?」
くそウサギはメルの方を指したので、
「あぁ、こいつはな……」
「あ~、メルっていいます~。ウサギさんかわひいねぇ」
何個目か分からないが、パンを食べながら幸せそうな笑みをこぼしている。
自分から自己紹介をしてもらえたので面倒が省けた。
「まさかもう彼女を!? まじか!」
くそウサギが両手をあげびっくりした時のポーズをとる。
その後、口に手をあて、ニヤニヤしていた。
いや、だからパン屋の店員といい、このウサギといい、何で間違えるんだよ。
……いや、もしや二人とも俺がロリコンなのではないかと思ってるのでは?
偏見は勘弁してくれよ。
「違う、メルは町を歩いてる時に会った魔法使いだ」
簡単に説明をしたが、くそウサギのニヤニヤは止まらなかった。
「はぁん、よくこんな可愛い子ナンパしたね」
是が非でも俺を弄るつもりなのだろうか。それにメルも何の反応も示してくれないため、ますます説得に困る。
「だから違うんだってば。メルに助けてもらったからお礼にご飯とこのパンを食べさせてやったんだ」
メルはそうそうと言う様に頷き、また紙袋からパンを取り出しかぶりつく。
「ほうほう。なるほどね」
どうやら納得してくれたみたいでよかった。
さて、本当は聞きたいことが山ほどあるのだが、とりあえずそんなことは後々だ。
今はなつめを取り戻さなければならない。
「で、オーガはどこに?」
「確かさっき星の便りが届いてたはず……あった。ザトールの南東の【フィレスの森】にオーガが入っていったらしい。一応その森の中でオーガに動きがないか、観察してるみたい」
くそウサギは星型の便せんをどこかから取り出し、そこに書いてあった内容を分かりやすく説明してくれた。
「なるほど! じゃあ行くか! その森に! もちろんメルはここでお別れだ。そこまでの力があるなら依頼なども容易に熟せるだろうし、人助けも出来て旅も充実するだろう」
「えぇ~! せっかく人生で初めて友達ができたと思ったのに!」
パンを食べるのをやめて、悲しそうな顔をする。それに人生で初めての友達とは。一体メルはどこ出身なんだ?
「とりあえず、ここでおさらばだ。またな」
メルの瞳からは少しばかりであるが、涙が出ている様に見えた。
……女の子を泣かせるなんて、男として最低だ。
しかし、俺の妹の事で他人に迷惑はかけたくない。くそウサギは最初から関わっているため例外だが。
だから……ごめんな。
メルはパンの入った紙袋を地面に落とした。そしてメルを措いて、南に早々に歩いていく。
そして町の南門を潜り抜ける一歩手前で、くそウサギが俺に話しかけた。
「あのー、カナタさん? 武器は?」
「あっ……」
そうだ、メルに全財産を使ってしまったから、もう所持金ゼロで何も武器を買っていなかった。
どうしよう。武器が無ければ戦える手段が無くなってしまう。
「私の力が必要になりそうですね」
すると、後ろからメルの声が聞こえた。
さっき別れたはずなのに……ついて来ていたのか……?
「メル……?」
手にはさっきまで持っていた紙袋も、片手に持っていた食べかけのパンも手から消えていた。
そして、メルは涙声で、俯いたまま話を続ける。
「私はずっと1人でした。この町に来る前も、来た後の少しの間も。でもそこにカナタがいた。
ベンチで美味しそうにパンを食べている姿を見た。もちろんそれを食べたくて助けたのは事実だけど、まさか私が勝手にお願いしたにも関わらず、他のお店でも違うの食べさせてくれるとは思わなかったし、しかも私みたいな変人でも、普通に話してくれた。やっと友達ができた。そう思ってたのに……もう1人になるのは嫌なんです。それにさっきカナタ言ったよね? 『そこまでの力があるなら依頼も容易に熟せる。人の助けにもなる』って。私は今こそ助けになりたい。だから……」
話している途中、ポーチから黒いとんがり帽子を取り出し、それをしっかり被ると、涙を振るって、正面を向き俺に言った。
「私に、依頼してください。『カナタの妹の救出』そして……私からも依頼をさせてください。『カナタ達の旅の仲間になること』を」
涙をこらえながら喋っているように見えた。
何を……本当に迷惑をかけたくないというのに……
そんな事を言われたら……
そんな泣きそうな顔で言われたら……
——ダメだなんて言えないじゃないか。
少し考えた。でもなぜか答えはすぐに出た。
「わかった。妹の救出を依頼する。もちろんメルからの依頼も受ける。でももしかしたら、道中辛い事とかがあるかもしれない。それでも、付いてこれるか?」
俺が何を偉そうな口を叩いて言っているのか。
自分で言っている事なのに……自分で言っていないようだ。
「うん……!」
メルは喜色満面の笑みで頷いた。
本当は、メルにはまだ聞きたいことがあった。
俺と会う前、友達もいず一人だったこと。
もちろんどこにいたかなど……
でも今はそんな事を聞いている余地はない。何となく、メルを1人にしてはいけない。
そんな気がしたのである。
そして、俺たちは一歩を踏み出し、町の門を抜ける。
「さぁ、行こう。なつめを助けに!」
新たな仲間と共に——!




