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私の能力は…

「知らない天井だ。」

朝起きて、まず思ったことは、腰が痛いってこと。いくら寝袋があっても、毎日ベッドで寝ていた私にとって、床は硬すぎた。そうしてあたりを見渡し、理解する。夢ではなかったのだと。相変わらずの段ボールが8割を占めるこの部屋。奥には簡素なトイレと洗面台。そして、私の横には…。

「おはよう、玲奈。」

黒縁メガネをかけ、ノートパソコンをカチャカチャしている、天才少年、小倉信二。

「おはよう…。」

よく考えてみれば、私は今日ほぼ初対面の男と一夜を共にしたのだ。私は、はっとして服装の乱れを確認する。…うん。大丈夫そうだ。その様子を、信二は面倒くさそうに一瞥し、話す。

「何バカなことを考えているか知らないが、作戦会議だ。」

「バカってなにさ…。」

「一晩考えたが、おそらく玲奈の能力は不可視能力だ。ゾンビに見えないから襲われない。そう考えるとしっくりくる。なぜかは分からないが、金持ちが全財産はたいてでも欲しがる物であるのは間違いない。」

不可視能力か。

「玲奈はこれからどうするつもりだ?ここには災害用の食料がたくさんある。二人で立てこもっても、3年はもつだろう。」

「そんな…。3年なんて。」

こんなところで、3年も過ごすのは耐えられない。

「じゃあ、出ていくか?玲奈の能力がいつまで続くかは分からないが、この世の中で、不可視能力は無敵だ。食料は…いずれにしろなくなるがな。作る人がいないのだから。」

「……。」

私はすぐに答えられなかった。私の能力があれば、自由に外に行ける。だからといって、一人になるのは精神的に不安なのだ。

「…まあ、焦らなくてもいい。いずれ、決断しなければいけない時が来る。」

フッと彼は肩をすくめる。まだ一日しか経ってはいないとはいえ、インフエンス及びゾンビ化は急速に進んでいっている。今はまだ、ネットがつながり、電気や水道も大丈夫だが、いつまでもつか…。ニュースではひたすらに屋内への避難を呼びかけているが、いまさらあまり意味はないだろう。むしろ、噛まれた=ゾンビ化すると知らずに屋内へ入ると、家族や他人を襲うことになるだろう。2chや、掲示板、その他SNSは荒れていて、その多くは救助を求めるものだ。

「自衛隊は何をやっている…か。」

信二が見ている先には、自衛隊や警察に対する批判がつらつらと書かれていた。何のために税金を払っているのかという怒りの声もあった。きっとそういう形でしか不安を解消できないのだろう。

「私は…どうすれば。ねえ、信二。自衛隊の救助は来ると思う?」

「推測でいいのであれば。」

私はこくりとうなずく。

「3日以内に来る確率は0.1%、一週間以内に来る確率は、1%、1年以内に来る確率は10%、一生来ない可能性は…、89%」

89%。彼は、来ないという選択肢に9割をかけた。つまり、救助は進んでいないということなのだろう。

「理由…きくか?」

「教えて。」

「まず、感染が早すぎる。噛むだけで感染するなんて終わっている。インフエンスが空気感染ではなかったのは、幸いだが、昨日も言った通り、銃はゾンビを呼び寄せる。じゃあ、接近戦で頭を殴るしかない。でもそれは相手との距離が近くなるということ。おそらく、自衛隊内部でも感染者が出てきていると思う。」

それはなんとなく分かっていた。昨日だって、警官が噛まれていた。いくら、自衛隊だ、警官だといったって、人間相手の練習しかしていないだろう。

「次に、自衛隊がこの絶望的状況で最優先するのは…、ライフラインの死守と天皇や政治家の保護だ。俺たち、一般人が相手されるのは、良くて一年後。」

残酷な話だと思う。市民がいてこその、政治家だというのに。そちらのほうが優先されるとは。だが、心の中で仕方ないとは思っている自分もいるのだ。

「最後に、救助しても意味がないからだ。」

「意味がないって…。どういう。」

「そのままの意味だ。救助したとして、保護する場所は?食料は?衣服だってたりない。仮設住宅も建てられるのか?こんな状況で?争いが起きてはいけないから体制も整えないといけないな。その場所を警護するものも必要だ。ひとつ言っておこう。まず無理だ。だから、やっても意味がない。」

彼の言葉がガツンと心にささる。救助は来ない。そう思って生きていかなくてはいけないのだ。私は、一つ深呼吸して、信二に向きなおる。

「小倉信二さん、しばらく一緒にいさせてください。」

これが今の私の答え。彼がいなければ、私は狂ってしまうだろう。不可視能力があるのをいいことに、見境なく襲ってしまう。たとえ、それが人間相手だったとしても。そんな覚悟を、受け取ったのか、信二はにやりと笑い、言った。

「改めてよろしく。ゾンビ世界で不可視能力なんてものを持つチーターさん。」

チーター。確かに、この能力はズルなのかもしれない。でも、

「一人でも多くの人を救いたい!」

「じゃあ、作戦会議続行だな。」

それから、私たちは段ボール内の内容確認をした。

「さすが、大学の災害用備蓄となれば大量だな。」

「本当、段ボールをあけるだけでも一苦労ね。」

上にまで高く積み上げられた段ボールに、紙を張って、わかりやすく文字を書く。

「ここは、毛布で、あっちが果物の缶詰で…。」

食料は、やはり乾パンなどが多かった。他に色んな缶詰や、日持ちのするお菓子などが置いてあった。

「だが、やはり…。」

信二は段ボールを開封しながら、ため息をつく。

「武器はないな。まあ、当たり前か。どこの科学者がゾンビ社会になるなんて予想するか。はあ、金属バットでもあれば。やっぱり取りに行かないとか。」

「……。」

私はあることに気づき、絶望する。

「ねえ、信二。うちの学校でやっている体育の競技って。」

「いきなりどうした。水泳、ヨガ、軽スポーツ、サッカー、テニス、バレー、バドミントンの7種類…あ。」

「この学校に野球部はないし、授業でも存在しない。つまりバッドはこの学校にはない。」

信二は一瞬動揺するが、すぐに次の手を考えようとする。金属バットというのも彼の得意なネットで仕入れた知識なのだろう。

「くわなんてないし、竹刀なんかじゃ頭はつぶせない。となると…。」

信二はいろいろ考えて結論を出す。

「ここには、この大学に武器はなさそうだ…。牽制として、このモップがつかえるくらいか。外部に行けば、手に入るのだが…。」

ここに、立てこもるといっても、武器はないと心もとない。なんといってもここは一教室でしかない。服だってほしいし、お風呂にだって入りたい。一週間もしないうちに、一度はここを出ていかなくてはならないだろう。

「家に帰る…?」

私は1つの提案をしてみた。私の両親は、あのパンデミックが起きたとき、両方とも会社に行っている。これだけ、屋内への退避を命じているのだ。戻っている可能性は少ないだろう。家になら、たいていの物は揃っている。武器になるかわからないが、ゴルフクラブとかなら家にもあったはずだ。

「玲奈の家は近いのか?」

「ううん。電車と自転車で1時間半くらい…あ。」

そういって、口をつぐむ。今まで1時間半なんていうと遠いと思っていた。でも、今は。

「電車はもう、走っていないぞ。」

今は当たり前の生活はできない。車は、音を出すからダメ。行くなら、徒歩しかないが、これだけの道のりを歩くのは、不可視能力があっても疲れるだろう。まして、信二と一緒に歩くことなんて…。

「信二の家は…?」

「玲奈と同じくらいだ。」

はあとため息をつく。このまま何もしないわけにもいかない。この部屋だっていつゾンビに見つかってしまうかもわからないのだ。

「だが、希望はある。」

「え!」

天才少年が言うのだ。きっと、そこには助かる道が。信二は、MAPをひらいて一つのところを指さす。徒歩十五分。この大学を含む町の中心にそれはある。

「ララポットにいく。」

ララポット。有名な大型ショッピングモールだ。そこにいけば、たいていのものはそろう。東京なんかと違って、面積が広いので、びっくりするほどに品ぞろえがいい。食料品から、服屋。電気屋から家具屋まで。ありとあらゆるものがそこにはある。映画館も併設しており、そのララポットの近くには、温水プールもある超巨大施設。

「ララポットか。いいかも。」

考えていなかったが、なかなかいいアイデアだと思った。ララポットには友達と何回か行ったことがあるが、確か小さいホームセンターらしきものもあったはずだ。

「だがな…。」

「うん?ゾンビなら、とりあえず1部屋安全な部屋を見つけたら、私が武器になりそうなものを選んで来ればいいんでしょ?そこでまたしばらく暮らしていやならまたここに戻ってくればいいじゃん。」

私は、声を弾ませる。狙うはララポットの横にあるプール施設。あそこは、確か温泉もあったはずだ。温泉に入って、体を休ませたい。そう思うのは、日本人だからだろうか?

「ゾンビ相手ならいい。だが、恐れるべきは人間だ。」

「人間?大丈夫でしょ。仲間なんだし。」

「だといいがな。まあいい。明日の朝、最低限の荷物だけ持って、ララポットに向かう。」

「はーい。」

その日は、1日ぐだぐだして、過ごした。


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