見よ、私を!聞け、私の歌を!
「おはようございます。」
「おー、おー、化け物のお出ましだぞ。」
5階、従業員専用の扉をくぐると、いきなりそんな言葉を投げかけられる。信二にアイドルになれと言われて、1週間が経とうとしていた。私と信二は、未だここで過ごしていた。
私はなんの決断も出せてない。
信二はいつも通り、あのことはなかった事のように接してくれる。まだ、しばらく時間があるはずだった。
「そんな言い方はないんじゃないですか?今井さん。」
元主婦さんが庇ってくれるがスマホを出されて怯む。
「んじゃあ、あんたはこれ証明できんのか?仁志の前にこいつがいた。なのに、まるで、避けるようにして仁志の方を襲ってるこの画像をよ!」
今井和人。32歳元工場労働者。商品を棚卸しに来たところでパンデミックに巻き込まれる。私たちが、ララポットに来ていた時、見張りをしていた人物。そして、動画を取られていた。
「それは…。」
主婦さんも言いよどむ。分かっているのだ。この画像がおかしい事に。私はあれから毎日、問い詰められている。分からないと答えているがいつまで持つか。
「2人とも、そこまでにしとけ。」
いつもの通り、暁さんが現れ、今井さんをなだめる。本当に暁さんには世話になっている。なんにも出来ない私を救ってくれる。
「今からトレーニングするが、玲奈もくるか?」
「うん。行く。」
私は立ち上がり、走る。トレーニングいつかはここから出ていかなくてはいけないと言っていた。暁さんは、いずれは森で住むと言っていた。
「あの、森で住むって本当なんですか?」
「ああ。それと、玲奈には言っておくが、食料にそんなに余裕が無い…。持って2ヵ月。仁志、美礼を中心として外で食料調達しようと思っているが…。それも長くは持たない。森に移り、自給自足の生活をしなければ。」
パンデミックが起こってから1週間と3日が経ったが、ライフラインとネットはまだ無事。おそらく自衛隊が必死で守っている。でも。
「いつ、ライフラインが切れるか分からない。今のうちにサバイバルの知識を身につけないと…死ぬ。」
暁さんがため息をついた瞬間に、それは起こった。いきなり腕を掴まれ、首にガラスの破片を当てられる。
「い、今井さん…。」
私の後ろにいたのは、今井和人だった。
「椿玲奈。吐け。さもなくば、このまま首をきるぞ。」
「吐くって何を?」
「どうやってゾンビに襲われない能力を手に入れた?俺はあと1ヶ月で子どもができる。死ぬわけにはいかない。だが、妻が助けを待ってる。チンタラしてる場合じゃないんだ!ゾンビに襲われない能力があれば、助けにいける。」
頼むよと今井は言った。泣きそうな声で。教えてあげられたら…どんなにいいか。
「アカツキさん!大変です!正面ゲートが!バリケードが壊されそうです!」
「どういうことだ。」
暁さん、私、今井さんは連なって、屋上へ急ぐ。
「そんな。まさか…。」
ゾンビが大軍で、バリケードを壊そうとしていた。
「搬入口と従業員専用出口から出るぞ!」
「それが、そっちも…。」
「嘘だろ。」
暁が見た先にはそれぞれ10匹ほどのゾンビ達がいた。
「そんな…まさか。これじゃあまるで…。」
「人間みたいじゃないか?」
暁さんの言葉を続けたのは、信二だった。
「信二、何か知ってるのか!?」
「メダカと同じですよ。黒メダカから白メダカが産まれるように…。知性のあるゾンビが発生してもおかしくない。突然変異ですよ。」
信二の言葉を聞いて、暁さんは頭を抱える。正面ゲートが突破されたら、全員死ぬ。かといって、10匹ほどのゾンビを全員守りながら相手できるのか?
「くっ。とりあえず荷物を最低限持って出る準備をしよと伝えろ。いずれにしろここはもう終わりだ。」
私は悩んでいた。でも、もう悩んでいる暇はない。ここにいるみんなは私を優しく迎えてくれた。今度はその恩を私が返す時だ!
「信二、準備お願い。」
「もう、このコンピューターと、あの屋根の上にあるスピーカーなら繋いだけど?」
私は一つうなづく。
「おい、何をする気だ。言っただろう。音楽は引きつけるが…。」
「それは、ただの音楽の場合だろ?玲奈、持っていけ。」
信二が渡したのはマイク。行きます。私は正面ゲートの方に走る。
バリケードは今にも壊れようとしていた。
「玲奈、待て!」
暁さんが、叫ぶが内側にかかっているハシゴに上り、おりた…
途端に音楽が流れ出す。作詞なんてしたことない。でも、
「見よ、私を!聞け、私の歌を!」
音が聞こえる。勇気を出せ、私!歌で届けたいことがあるんだろ?私は一つ深呼吸して、目を開けた。
「これ以上は ダメだと 何度も諦めようとして、私はいつも逃げてた。でも、もう逃げない。私の歌を届けたい誰かがいるから。そう今私は変わるー。3、2、1」
私は変わった。最初は、私には何も無いと思ってた。でも、私は今、守りたいものがある!
「そう、sing sing singいつまでも
そうdance dance dance きみのため
私は進み続ける オーイェイ」
よし、ついてこい。ゾンビ共!
私に見惚れろ!
「れなー!」
暁さんの声が聞こえた
玲奈ちゃんのアイドルデビュー曲は、
『S&D』という名前です。sing&danceの略。
歌うことで人を救いたいと思う玲奈ちゃんの心の声。




