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弱肉強食は基本中の基本

 ブラウヴァルトの戦闘から一時間後のこと。盗賊団・「スカーレットレオ」の対策が、避難地区で行われた。アンナ拉致の際に集まった孤児院が、そのまま対策本部として使われることになった。指揮はアンドレイが執ることになった。

「ここにいる連中はみんな知っていることだろうが、アールトには兄がいる。スカーレットレオは弟のアールトが先遣隊として動き、兄・ヘールコ・マライヤが本隊としてトドメを刺すという手口だ」

 ホワイトボードにはバッテンが付けられたアールトの写真が貼られ、隣に髭の濃い赤髪のエルフの写真が貼られていた。

「今のアルフへイムにおいて、奴らは治安安定における重要な懸念材料となる。なんとしても、本隊のアジトを突き止め、先遣隊が壊滅したこの機を逃さずに、徹底的に殲滅する必要がある」

「どうやって探すんです? こっちにはろくな偵察要員も機材も無いんですよ?」

「お嬢が持ってきてくれた輸送機が偵察機として使えるだろう。重武装故に、ある程度の威力偵察も望める」

「ああ、第一偵察大隊の連中がいればなあ……」

「おい、その『誰かがいれば』って言うのやめろ。そんな依存体質だからこそ、前の大戦だって」

「は、はい!!」

 アンドレイに睨まれ、兵士は固く口を閉ざした。


 一方でリリスは、孤児院の一室で着替えていた。救出作戦での戦闘で、服が穴だらけになってしまっていた。それ以前に、過酷なサバイバル生活の中でかなり痛んでいたのだ。

「あーあ、お高いのに台無しになっちゃいましたね」

「気にするな、元々この服あんまり好きじゃないんだ」

「そうですか?」

「スカートの丈は長いし、袖は引っかかりやすいし、気密性は悪くて寒いし」

「まあ、礼服みたいなものですし、機能性は皆無ですから仕方ないですね」

「こんな格好で避難しなきゃならなかったのはホント災難だったわ……」

 リリスの両親が亡くなったのは、建国二十周年記念式典の時だった。連合軍の特殊部隊が突如乱入し、ルシフェルを殺害。そして唯一都外へ逃れた一人を追ったリリスの母親であるレイミアも、そのまま消息を絶った。

 レイミアの遺体は確認されなかったものの、大量に残された血痕から死亡したものと判断され、二人の君主の死に指揮系統は混乱、士気も低下し、後日連合軍の襲撃を受けることになる。それもルシフェルの葬式の真っ只中である。

 幸い首都は、ルシフェルが死に際に起動させた大量報復無人兵器、UVV1及びUVV2によって占領は免れ、本土からも連合軍を撤退に追い込むことが出来た。

「これなんかどうでしょうか?」

 カミーラが用意したのは、高級将校の制服。黒い生地に、袖と襟の縁に赤いラインが入っている。

「そういうお高く止まったようなのはちょっとね……」

「ではどのような物がよろしいでしょうか?」

「これだ」

 リリスが掴んだのは、白と灰色の迷彩服と防弾着だった。

「どんだけ血に飢えているんですか?」

「それ、吸血鬼(アンタ)が言えた台詞か?」

「いやそうじゃなくてですね……」

「とにかく、そんな汚しちゃマズそうな服は私のスタイルに合わん。私が欲しいのはね……」

「いっそ、戦車のスクラップリサイクルして、特注の衣装仕立てましょうか?」

 無論冗談だが、リリスは真面目そうな顔をして

「それ良いな」

 と言った。

「本気にしないで下さい」

「ついでに各部にミサイルや機関銃も仕込んでくれると助かる」

「どうやって撃つつもりですか? 神経にでも繋げと?」

「いや、それは止めとく」

「でしょうね」

「せめて重量物を扱いやすいように、何らかの機能が欲しいかな」

「要するにパワードスーツ的な物が欲しいと?」

「それ以外に何が要るよ?」

「お嬢は肉体がパワードスーツみたいなものでしょうが」

「そう鍛えたのは誰? まあ苦労は無いけど」

 他愛の無い会話をしながらリリスは着替えを終えた。しかし、それは迷彩服の方だ。

「サイズは、合っているな。にしても、この服はⅠ型か」

「一番旧式の服ですね。まあ、最新のⅢ型と比べ劣っているわけでも無いですが」

「隠密性はね。ただし着心地が若干な……」

 リリスが着用している迷彩服Ⅰ型は、硬質の繊維を使用しているせいで着心地はお世辞にも良い物ではなかった。しかし、帝国で作られる繊維で最も多く流通しており、尚且つ頑丈で切れにくく劣化も起きにくいため、軍服に採用された。

 Ⅱ型、Ⅲ型と進んで着心地は改善されていったが、改良のためにコストが掛かりあまり配備が進んでいない。

「やはり制服を……」

「却下」

「あらそう……」

「失礼するよ。おっと、着替え中だったか……」

 マーリンが入ってきたが、服のボタンを留めている姿を見て後ずさりしようとしていた。

「そんなことするなら、ノックして下さいよ」

 カミーラは呆れたように睨み付けたが、マーリンは苦笑した。

「ドアが無い」

「ああ、そうですか……」

「気にするな、下着姿だろうが全裸だろうが見ても構わんぞ」

「いや、そりゃレディとしてマズいだろ……」

「ホントに!?」

 マーリンは目を伏せ気味に言ったが、カミーラは食い入るように詰め寄った。

「冗談に決まってん……」

「いやもう今すぐに!! さあ! さあ! さあ!」

――パン!!

「ひっ!!」

「落ち着け変態、次はアンタの腹の中がこうなるぞ」

 リリスの右手には銃剣の付いた拳銃が、そして左手には赤い液体が滴るピンクの風船が割れていた。

「えーっと、それはどういう意味が?」

 理解が難しいと、マーリンは首を傾げた。

「つまりこういうことさ」

 リリスはテーブルに転がっていたビー玉を二つ拾い、握り潰した。それを見たマーリンは、股を押さえ怯んだ。

「ああ、そういうことね、はいはい」

「解って頂いて結構。てか痛っ!!」

 リリスの手は、ビー玉の破片が刺さって血だらけになってしまった。

「し、締まらねえ……」

「何を言う!! お嬢のは締まりの良いめ……ぐはぁ!!」

「下ネタじゃねえか、自重しろこの変態コウモリ!!」

 カミーラが何か言い終える前に、マーリンの杖による激しいツッコミが綺麗に決まった。

「お嬢、盗賊の残党についてですが……」

 アンドレイが部屋に入ってきたが、マーリンに殴り飛ばされて白目を剥いているカミーラと、痛そうに手からガラス片を振り払おうとするリリス達を見て一瞬言葉を失った。

「とりあえず、来て下さい……」


「では、スカーレットレオの殲滅作戦についてだが、えーっと……」

 アンドレイはカミーラに視線を向ける。

「続けても良いよな?」

「ええ、どうじょお構いにゃく……」

 マーリンに殴られたせいか、カミーラの顔は見るも無惨に腫れ上がっていた。

「では始めるぞ……」

 なるべくカミーラの崩れた顔を見ないように、アンドレイはテーブルに広げられた地図に視線を向け、ブラウヴァルトの場所に付けられた印を指さした。

「先遣部隊はここで倒したが、本隊はまだだ。俺たちは急ぎそいつらを駆逐しなきゃならん。従って、奴らの拠点を見つけ出さなきゃならん」

「しかし、こちらの手駒には限りがある。あまり敵拠点襲撃に人員を割きすぎると、守りがどうしても手薄になってしまう」

「しかも今回は敵本隊の位置は全く不明、そして先遣隊のせいでこちらの位置はバレバレだ。時間はあまりかけられないが、人員も割けられない」

「私に案がある」

 リリスは手を挙げた。

「本隊は恐らく先遣隊からの連絡が途絶え、不審に思っているはずよ。恐らく確認に来る、あるいはブラウヴァルトを駐屯地にして再び襲撃の準備を始めるでしょう。そこを突くのよ」

「突くと言いますと?」

「移動にヘリとか車使うでしょう。発信器を取り付ける。あるでしょう?」

「ええ、しかしあまり精度は高くありません。受信機も、追跡可能な距離が三キロにも満たない」

「十分な性能だ。よし、私とカミーラ、そして今回は新しくシヴィも連れて行きたい。それで編成は良いわね」

「またお嬢が行くんですかい……」

「シヴィ、良いわね?」

 リリスが目配せすると、シヴィは黙って頷いた。

「よし早速開始よ」

「今からか!?」

「シヴィも異論は無いわね?」

 またもシヴィは無言で頷いた。

「だそうだ」

「お嬢、私もですか?」

「当たり前だ。てかどうせこの程度でへばるタマじゃないっしょ」

「はあ、月月火水木金金ってか」

「どこで覚えたのそんな言葉。てか人聞き悪いわね、ブラック企業か私は」

 リリス達は武器の整備を行い、任務に必要な備品を倉庫から取り出し、ジェイブに搭乗する。

「よし、出発よ。ジェイブ、テイクオフだ!」

「了解」

 リリスが言うと、ジェイブはエンジンを噴かし、離陸した。

「お嬢、お気を付けてー!!」

 アンドレイが叫ぶと、リリスは笑って手を振った。そして奥へ引っ込むと同時に、側面のハッチが閉じ、発進した。


「間もなくブラウヴァルト上空です。ハッチオープン」

 ジェイブが目的地到着を告げると、側面のハッチを開けた。

「よし、降下後ジェイブは当空域を離脱。こちらの連絡を待て」

「了解」

 リリス達はファストロープを垂らし降下した。

「どこで習ったんです?」

 シヴィはリリスの降下が予想より上手かったため、質問した。

「アスレチックで真似事してた」

「そんな重量物背負って?」

 しかもリリスは野営地設営のための機材が一式入ったリュックサックを背負った状態で行った。正規の軍人では無いリリスが行えることは、正規軍のシヴィにとって不思議でならなかった。

「今の状況、何が起こるか解りませんからね、一通りの技術持ってても損は無いですよ」

「そういうものですか……」

 微妙に納得出来ないシヴィだったが、足を引っ張られるよりはマシだと割り切ることにした。

「ところで、監視はどこで行いますか?」

「見晴らしが良いのは当然として、発信器を取り付けるのにすぐ動けることが出来るのが好ましいわよね」

 リリスは崖の上を見た。

「あそこは、高すぎるわね……」

「あそこに通じる坂道ならちょうど良いのでは。ある程度の林もありますし」

「敵がこっちの意図を読んでいたら、それはそれで危ないんだけどね。下と上を両方対処しやすいポイントを、見過ごすわけが無い」

「トーシロがそんなピンポイントで物事考えるとは思いませんが、まあ警戒しておきましょう」

 リリス達は崖へ続く坂道の林の中に監視所を設けた。

「後は、待つだけ。まあ来るかも解らないけど……」


 監視所設営から三時間が経過した。日が傾き掛けた頃、複数のトラックが停車し、武器を持った男達が降りてきた。

「ひでえやられぶりだ」

「最後の報告によれば、最初に襲撃してきたのは二人の女に手酷くやられたとか。一方は18にも満たないガキとか」

「バカな、あり得ん」

「しかし、もう一方は戦い慣れしたようなボディガードみたいな奴だそうだ」

「それでもおかしいだろう、この有様は……。まあ、やられちまったものは仕方ねえ」

 男の一人が周辺を忙しなく見回していた。

「どうした?」

「いや、なんか見られている気がしてな……」

 何気なく崖に繋がる坂道を凝視する。

「どうした?」

「……」

 凝視していた男は、双眼鏡を覗き込む。暗くなり掛かっていたため、暗視モードにして見る。

「ん!?」

「どうした?」

「テントみてえのがあるぞ!!」

「何っ!? 確認するぞ!」

 男達は坂道を駆け上がり確認する。木陰に隠れながらジリジリと距離を詰めていく。

「俺らのじゃねえな……」

「ああ、設置されて新しい」

「よし、撃てえ!!」

 男の一人が号令を出し、テントを蜂の巣にする。

「撃ち方やめえ!! さあ出てこい、面見せな」

 穴だらけになったテントを破くと、中は空っぽだった。

「ん!? いねえぞ!!」

「なんだ、入れ違いになったのか?」

「バカ言え、捜すんだ」

 男達はテント周辺を捜し始めるが、リリス達を見つけ出すことはついに出来なかった。

「くそ、やっぱりただの空き家だったのか?」

「さあな、とにかくもう出よう。上に報告しなきゃならんしな」

 諦めた男達はトラックの元に戻ると、集まった人数が異様に少ないことに気付く。

「こんな少なかったか?」

「まさか……」

「おーいっ!!」

 遠くから呼ぶ声がした。麓の森から仲間の男が十数人駆け寄ってきた。

「お前らどこにいたんだよ?」

「すまねえ、森の中になんか光る物が見えてな」

「なんだ敵か?」

「いや、潰れた車があっただけだ。どうやら割れたヘッドライトかフロントガラスになんかの光が反射したんだろう」

「なんかってなんだよ?」

「夕日とかだろう」

「はあ、まあ良い……。とにかく上に報告だ、しばらく帝国軍残党狙うのはやめた方が良いって進言してみよう」

 男達はトラックに乗り込み去ってしまった。後ろからほくそ笑む者の影に気付かず。

「ふう、我ながら随分と回りくどい手を使ったものね」

 洞窟の岩陰から、リリスが顔を覗かせる。

「お嬢、首尾はどうです?」

「大丈夫だ。咄嗟に変更して正解だったね」

 リリスは監視所を設置してから敵が来るまでの間、シミュレートしてみた。その結果、時間がかかりすぎた上に麓に到着するまでの道のりに身を隠す物が無いことが発覚。

 そのため監視所をわざと、しかしはっきりとではなくよく見れば分かる程度に偽装を緩くし、発見されやすいようにした。それでもトラックから離れない敵の注意を引きつけるために、森の中で潰れていた車のガラス部分にレーザーポインターを当てて反射させた。

 レーザーポインターでの陽動はカミーラが、発信機の設置はリリスが行い、シヴィは万一のためのバックアップとして崖の上で監視を行った。

「よし、受信機は正常に作動。早速追尾開始よ」

「ジェイブを呼び戻しますか?」

「そうね、寄越して頂戴」

 三十分足らずでジェイブが到着した。乗り込んだリリスは、受信機を確認する。

「現在移動中。でもまだ遠くへ行ってないわね」

「というより、こっちの行動が早いという方が良いのでは?」

「まあ車よりジェット機の方が速いからね。ジェイブ、受信機の画像をダウロードする。目標との距離は1キロ以上、3キロ以内を維持。近すぎては勘付かれるし、離れすぎては受信できない」

「了解しました」

 リリスはコクピットに乗り込み、受信機から端子を伸ばして接続した。

「ターゲット捕捉。追跡します」

 ジェイブが受信機からの情報を頼りに追跡する一方、リリス達は地上からの攻撃を警戒する。

 飛行を続けていると、広葉樹が減り針葉樹が増え、積雪が多く見られるようになった。

「雪が目立ってきましたね」

「かなり北の方に本拠地を構えているみたいね。ブラウヴァルトより北にあって、盗賊が拠点に使えそうな場所といったら、何があったかしら……」

 リリス達が考え込んでいると、シヴィがポツリと呟いた。

「……シャウマン要塞」

「え?」

「昔、私らの祖先が建築した、七百年以上の歴史を持つ軍事拠点だ。私達の縄張りには、オークやオーガと言った余所者がよく入ってくるのでな、その対策だ」

 エルフとオークの間には、幾度にも渡り武力衝突した歴史があった。帝国の建国の際に関係はある程度良くなったが、それでもまだ互いに、特にエルフ側には未だ根強い敵対心を持つ者が多い。

 そのためブラウヴァルトより北方には、対立していた頃の名残からエルフにより建設された軍事拠点が多く見られる。その一つがシャウマン要塞だった。

「まあ、要塞はこの辺りには腐るほどある。確実にそこだという確証は無い。だがここから一番近く、尚且つ大きな拠点だ」

「可能性は大きい、と言う訳ね?」

「ああそうだ」

 追跡するうちに、開けた場所に出た。

「遠くに建物が見えるわね。あれかしら?」

「画像を出します」

 コクピットに備え付けられたディスプレイに、石造りの建物が拡大されて表示された。そしてそこに移動する車列も確認された。

「あれがどうやら、敵の拠点らしいわね」

「あのトラックが確認された時点で、確定ね」

「よし、じゃあ大佐に報告を……」

 リリスが無線機に手を伸ばした時だった。

――ピーピー!

「警報!? しまった、ジェイブ離脱しろ!!」

「了解!!」

 ジェイブは回避機動を取る。しかし、横をすり抜けようとした地対空ミサイル(SAM)の近接信管による自爆で、破片が側面ハッチに突き刺さってしまった。

「くっ、ジェイブ緊急着陸だ!! なるべく要塞から離れて!!」

 ジェイブは低空を飛行しながら要塞から離れ、森の中の比較的開けた土地に着陸した。その間、リリスは再び、アンドレイに無線を繋ぐ。

「大佐、こちらリリス。シャウマン要塞に敵本隊を確認した。だがSAMにやられた!!」

「了解、しかし色々マズいことになったな。恐らく敵は拠点を移すかもしれんぞ」

「分かった、応援を早めに頼む」

「応援? おいまさか!!」

「奴らが逃げないよう足止めをする。離脱しようにも、この状態じゃねえ……」

 ディスプレイは、右エンジンの異常を訴えていた。破片をファンが吸い込んでしまったらしい。しかも運悪く、リリス達の生死を確認しにスカーレットレオの車両とヘリコプターがやってきた。

「とにかく、そっちに戻れん。まあなるべく頼むわ」

「お、おい!!」

 無線を一方的に切ると、リリスは機内から外に出る。

「さて、どうしてくれようか……」


「ここだ、見つけたぞ!!」

 ジェイブの近くに、複数のトラックとヘリコプターが停まった。

「機内を調べろ」

「へい」

 男の一人がジェイブの中を調べた。

「中に誰もいません。カーゴスペースも空だ」

「くそ、逃げたか!」

 指揮官と思しき黒いキャップ帽を被った男が地団駄を踏んだ直後、後ろ向きに倒れた。

「え?」

 それを皮切りに森の奥から次々と鉛玉が飛び込み、男達は倒されていく。

「ぐわあああ!!」

「待ち伏せだーっ!!」

 男達は慌てふためき、トラックやヘリコプターに我先に乗り込むが、トラックはエンジンと燃料タンクを撃ち抜かれて爆発し、ヘリコプターはある程度高度を上げた所でコクピットを撃ち抜かれて撃墜された。

「シヴィ、貴女って随分と過激な物持ってきましたね」

「ただの対物ライフルです」

「そのただのライフルがヤバいんですがね……」

 シヴィが持ち込んだライフルは7.7ミリの狙撃銃以外に、13.5×99ミリの対物ライフルも持ち込んでいた。長距離射撃や軽装甲を施した乗り物を攻撃するのに使われる火器だ。

「腐っても、てか古くても対物ライフルだからねえ。人間に直撃したら文字通り弾け飛ぶわね」

 リリスが言った途端に、目の前の敵の頭部が破裂した。シヴィの対物ライフルが命中したのだ。

「シヴィ、近距離なんだから7.7ミリに持ち替えてくれ。あんなん見せられ続けたら気分悪いわ」

「え、了解です」

 リリスは戦闘には慣れていても、グロテスクな光景は苦手で、特に内蔵が飛び出るスプラッターなホラー映画には何度も吐いたくらいだ。

「ええい、デタラメな奴らめ!!」

「落ち着け、数で圧倒すればどうにでもなる!!」

「そうだ、敵は少ない。いずれは弾もスタミナも切れるぜ」

 敵は広範囲に分散し、リリス達を包囲しまとめて撃破されないようにした。

「ちっ、面倒なことしてくれるねえ……」

 リリスはブラスターに切り替え、発射した。

「こんだけバカ騒ぎしたんじゃ、当てて下さいと言ってるようなもんよ」

 ブラスター銃口から出てきた瞬間に分散し、個別に標的を撃ち抜いていく。

「ぐわあ!!」

「や、奴のブラスターはどうなってやがんだ!?」

(ふふっ、一匹づつ撃ち抜くのがXAR-13(ヒドラ)じゃない。こいつは複数の射撃モードがあるんだ。さあ、もっとぶち抜いてやるぞ!!)

 リリスはブラスターの銃口を回転させ、発射形態を変える。そして放たれた光弾はカーブを描く。

「ぐあっ!!」

「や、奴のブラスターはカーブしてくる!?」

 男の一人が隠れ場所を変えようと動く。しかし、今度は地面から光弾が突き抜けていった。

「うわっ!?」

「ブラスターが生えてきた!?」

(ブラスターを構成する素粒子は土や砂をすり抜けていくからね。で、頭を出した瞬間に牙を剥く!! ……でも)

 リリスは木陰に座り込んで肩で息をしていた。

(調子に乗って撃ちすぎたな……)

 ブラスターは通常、魔法を扱う時にも使うマナを弾丸として発射する。しかしリリスのブラスターは、生命エネルギーのオドを扱う。父であるルシフェルが、リリスが気功法の鍛錬を行っているという話を聞いた時から、オドも有効活用出来るように設計したのだ。これにより、大気中のマナが少ない土地でも難なく動作できる。

 しかし同時にこれは、撃ちすぎれば射手の体力を著しく消耗する弱点も抱えていた。だが気功法でオドを回復させる技術を会得していたリリスには欠点にならなかった。

「お嬢、敵戦力は七割近く片付きました」

「よーし、この調子で叩くわよ」

「なんてこった、もう十人ちょっとしか残ってねえじゃねえか……」

「えーい、こうなりゃ散らばって突撃だ!! 隠れずにぶち込め!!」

 自分の戦力が激減したことに自棄になった敵は、遮蔽物もない所を無防備に横切ろうとした。

「はいはい、お馬鹿さんはこれで終わりよ」

 リリスは敵集団の真上にブラスターを発射した。光弾は上空で炸裂し、地面に降り注いだ。

「うわあああっ!!」

「不発弾ゼロのクラスター爆弾さ。なかなか人道的だろう?」

 この攻撃で全ての敵が倒された。

「さて、この後どうしようか。ひとまず先鋒は片付いたけど」

「先鋒はむしろ私達なんですがねえ。ジェイブは破損してしまいましたし、直せますか?」

 リリスは破損箇所を調べた。

「さっきはハッチだけだと思ったけど、最悪なことにエンジンもイカれてる。恐らく破片を吸い込んだんでしょう。それに……」

 機体を一週して調べてみると、敵の流れ弾の痕が無数に出来ており、一部は配線を切断していた。

「直せなくはないけど、応急処置でどうにかなるレベルじゃない。修理してる間に逃げられるかもしれないぞ」

 リリス達が渋い顔をしていると、シヴィは敵が乗ってきたトラックの運転席に乗り込み、差したまま鍵を捻ってエンジンを起動した。

「足はこれで出来た」

 カミーラは呆れたように笑い、シヴィと入れ替わり運転席に座る。

「はあ、エラい古い車ですこと」

「ボンネットトラックだから余計ね」

 リリスはシヴィと共に荷台を漁っていた。積み荷には、ロケットランチャーと迫撃砲、26ミリの機関砲が積まれていた。

「これだけあれば、要塞に強襲仕掛けられそうね」

「いえ、車体が大きいので敵の反撃でやられる可能性が――いえ大丈夫ですか」

「何が大丈夫なの?」

「カミーラ殿がドライバーなら心配無用でしょう」

「どうしてそうなる?」

「彼女は凄腕のドライバーですから」

 カミーラはエンジンを動かすと、アクセル全開で森を抜け出た。

「飛ばすぞ!!」

 平原に出ると、敵のバイクと小型トラックが接近してきた。

「おうおう、私と張り合おうなんて百億年早いんだよぉ~っ!! お嬢、あいつらぶっ飛ばしてくれ!! この私に煽り運転仕掛けやがったこと後悔させてやれ!!」

「……カミーラ、キャラ変わった?」

「所謂スイッチが入っちゃった状態ですね」

「今までこんなとこ見たことなかったんだけど……」

「ただ走ってるだけじゃならないんですよね。こういうのに絡まれるとなるっていうか……」

 カミーラの豹変ぶりに困惑していると、敵のバイクが横に張り付き、サブマシンガンを撃ってきたが、リリス達の乗るトラックは頑丈で簡単に貫通することはなかった。

「おいコラァッ!! 何,

人の車に傷モンつけとんじゃボケェッ!! 轢き殺したろかワレェッ!!」

 それどころかカミーラは、バイクに対して思い切り体当たりして転倒させ、後続車も巻き添えにした。

「カミーラ、めっちゃ揺れるんだけど!! 狙いづらいんだけどぉっ!?」

「もうこうなると止められませんよ……」

 リリスは機関砲で応戦するも、カミーラは体当たりをするため車体を左右に激しく揺らすため狙いが付けられずにいた。

「ええい、滅茶苦茶な奴だ!! おい、シュレックを出せ!!」

 トラックに乗っていた敵の一人が、ロケットランチャーを担いで撃ってきたが、それはリリス達のトラックの横をすり抜けていった。

「おうおう派手な爆竹持ってんじゃねえか!! 私にも寄越せよぉ~っ!!」

「ちょまっ、カミーラ何を……」

 カミーラ突然バックし、敵のトラックとすれ違う瞬間に急旋回した。

「ぐあっ!!」

「ぎょええええっ!!」

 トラックの荷台が、振り子のように敵のトラックに叩き付けられた。

「あぶねえぇぇぇっ!! バカ、アンタ私らを殺す気か!!」

「おーっと、検問所だ! お嬢、シヴィ、通行料金支払ってやれ!!」

「……はいよっ!! 釣り銭含めて押し付けてやらぁ!!」

 もう文句を言う気も失せて、リリスは機関砲で敵の封鎖線を破壊する。

「っておいおいおい!! 正気かぁ~っ!?」

 要塞の正門が閉じているにもかかわらず、カミーラはアクセルを緩めず更に踏み込む。

「ああもう、やりゃあ良いんでしょやりゃあ!!」

 リリスもヤケクソ気味に、迫撃砲を門に向かって撃ち込む。門は木端微塵に、近くの敵兵も勢いよく吹き飛ぶ。

「イヤッホゥ!!」

 破られた門にカミーラは景気よく飛び込んだが、すぐさま敵の機関銃と対戦車兵器の攻撃を受けた。

「敵の攻撃もカミーラの運転も、何もかも危ねええっ!!」

「死ななきゃ安いと割り切りましょう」

「んな無茶な、虫の躍り食いは出来ても暴れ馬の上でダンスは出来ないぞ私でも!!」

「私はどっちも無理ですがね」

「ああもう、満足にヘッドショットも出来やしない!」

「それでもきっちり(タマ)は取るのですね」

 しばらく要塞内を暴走していると、無人兵器のキャンサーが現れた。しかし、真正面に躍り出てきてもカミーラはアクセルを緩めず、むしろ踏み込んだ。

「おいおいおい、もうこれ以上は勘弁してくれえーっ!!」

「はっはーっ!! 食らいやがれ!!」

 リリスとシヴィは荷台から、カミーラは運転席のドアを蹴破って外に脱出、残されたトラックはキャンサーに突っ込んで派手に爆発した。

「たく、アンタもうちょっと丁寧にやってよ……」

「お嬢だって機関銃担いだらトリガーハッピーになっちゃうじゃないですか……」

「うっさい」

「口喧嘩してないで、ほら応戦です!!」

 大破したトラックの黒煙を目印に、こぼれた砂糖に群がる蟻のごとく敵が集まってくる。

「敵はたった三人の女子供だ!!」

「殺っちまうのは勿体ねえがな、死んでもらうぜ!!」

 敵は自動小銃と機関銃で襲いかかってきたが、リリスとシヴィは的確にヘッドショットを決める。

「迂闊に顔を出すな!! 頭に風穴開くぞ!!」

「奴らをあそこに釘付けにしろ!! 一気に叩けぇ!!」

 瓦礫に身を隠した敵を、外壁の上からの射撃でカミーラが葬る。

「いっ!?」

「あいついつの間に!?」

「始末しろ!! 陣取られるな!!」

 外壁の上で見張っていた敵が、カミーラの元へ押し寄せてきた。

「むさい男は苦手でね」

 カミーラは敵集団に手榴弾を投げ込んだ。

「うわっ!!」

「お嬢、上から援護する! 前進して下さい」

「了解!」

「カミーラ、それ本来私がやるべきでは?」

「文句は城一つ飛び越えられる跳躍力身につけてからよ」

「いやそんな無茶な」

「それより新手だ」

 下では高射機関砲を載せたトラックが二両が進路を塞ぎ、上ではロケットランチャーを持った敵が複数人いてリリス達を狙ってきた。

「お嬢、上のRPGに注意!」

「見えてる!」

「そこをどけ!」

 カミーラはロケットランチャーに向かって発砲する。しかし弾かれた。

「何っ!」

 相手は全身に装甲を纏っており、カミーラのサブマシンガンでは威力不足だった。それどころか、アサルトライフルで反撃してきた。

「カミーラ、さっさとそんな奴オーブンに放り込みなさい!」

「お嬢、オーブン()、放り込む物です」

 カミーラは服の下に隠していた特殊火炎瓶を放り込んだ。

「ぎゃああ!!」

 炎は敵部隊を包み込んだ、と言うより瓶が割れた瞬間敵自ら燃え上がった。カミーラが放り込んだ火炎瓶は、燃料では無く高熱を封じ込めている代物で、半径一メートル以内の物体に一千五百度近い高熱を浴びせる。発火点まで一気に上げられた物体は炎上し、鋼鉄の装甲の中で蒸し焼きにされることになる。

「あちち、炉の近くにいるみたいだ」

「カミーラ、火加減には注意しなさい」

「ええ、そちらも飛び出し注意です」

 リリス達が曲がり角に差し掛かった時、装軌式の装甲車が道を塞ぐように現れた。しかし装甲車に搭載されていたブラスターは上を向き、カミーラのいる城壁に射撃を開始する。そして車体後部から歩兵が降車され、リリス達と戦闘を開始する。

「まだこんな装甲車持ってたのか」

「ハイエナ共め……、相当な数鹵獲してきたな」

「お嬢!! 伏せて下さい!!」

 カミーラは敵から奪ったロケットランチャーを装甲車へ撃ち込んだ。

「お嬢、敵はどうなりましたか?」

 リリスは瓦礫から顔を覗かせた。しかし、装甲車は健在で機銃掃射を続けている。被害は歩兵が数人死傷した程度だ。

「カミーラ、敵の車両はERA(爆発反応装甲)を装備している」

 装甲車の装甲表面には、無数の金属製の箱が張り付けられていた。カミーラが撃ち込んだ箇所はそれが剥がれ焦げ付いていたものの、下の装甲は貫通していなかった。

「HEATはERAに弱いんだよなあ……」

「もう一発頼む」

「いや、さっきの火炎瓶で他が全部ダメになってる……」

「まあ、奪った相手が相手だったしね、仕方ないわ。それに……」

 リリスは物陰から銃だけを覗かせ、なぎ払うようにブラスターを発射した。装甲車と射線上にいた敵歩兵は真っ二つになり無力化された。

「まるで映画のレーザートラップみたいに……」

「サイコロステーキ一丁上がりってね。さあ急ぐわよ」

 装甲車が破壊されたせいか、その奥に布陣していた敵歩兵は下がり始めた。

「お嬢、敵が後退している。あれは罠ですか?」

「敵が入っていった建物だけど、あれは格納庫のようね。奥に動きあり――キャンサー接近!!」

 格納庫から二機のキャンサーが、機銃を撃ちながら現れた。

「カミーラ、一機そっちに行った!」

 一機のキャンサーが、壁に張り付きカミーラの元へ這い上がり、飛びかかってきた。

「ふん!」

 しかしカミーラは懐に潜り込み、脚部根元の隙間にナイフを突き刺した。すると、キャンサーの動きは鈍り、脚を滑らせ落ちていった。落下した衝撃で脚や武装は潰れ、再起不能となった。

 カミーラはキャンサーの関節を切断し、城壁の足場の悪さを利用して自滅を狙ったのだった。

 一方リリス側の方は、キャンサーが槍状の武器を振り下ろそうとしてきた所をカウンターパンチで弾き返した。そして態勢が崩れた隙に、その武器を掴んで引き千切ると、胴体に突き刺した。

 その一連の光景を見て、シヴィは一瞬怯んでしまったが。

「よーし、クリア。中に入るぞ」

 突入した格納庫には、装甲車やトラックが駐車していた。敵兵も何人か顔を覗かせている。リリス達はそれを見逃さなかった。

「残敵を捜せ、不意打ちに注意しなさい」

「了解」

 車体の下や弾薬庫の陰を注意深く見ながら進んでいく。

「お嬢!!」

「ああ、分かっている!」

 リリスは手榴弾を装甲車の上部ハッチに投げ込んだ。その装甲車の機銃が、リリスを狙っていたからだ。

 装甲車はハッチから爆炎を上げ、沈黙した。

「これでクリアかな?」

 無力化を確認したところで、カミーラから無線が入った。

「お嬢、私は外部から援護します。お気を付けて」

「了解。シヴィ、行くよ。」

「後方支援はカミーラが? 私がやりたかったですが」

「彼女も射撃の腕は良い、信じろ」

「はあ」

「さてと……」


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