従者の巫女
目を閉じると自分を中心にして波紋が血管のような管を通り都市全体に広がっていく感覚があった。それと同時に自分の中から魔力が少しずつ吸い取られていく。
魔力を使い過ぎたせいか感覚は足の先から徐々に薄れてきていた。
この時代には、ありとあらゆる場所にはその地を管理する魔導師が1人必要だった。
だが、管理者であろうと魔導師としては同じものであったため見つかれば消されてしまう。
代々管理者とはその地で偉大な功績を残した魔導師がなるものであったが、この都市には特にそのような魔導師がいなかったため魔力の多い樋掛の家が管理者として指名された。
しかし、樋掛家の2代目の管理者は早くに亡くなってしまったため管理者という仕事を16歳にして行っているのが第3代目当主である樋掛千鳥。
管理者とは自らの魔力を使い、呪いから人間を守ることが義務とされ、その代わりとして管理する都市内であれば神聖術が使えるという特権がある。
まだ終わらないのかと思いながら感覚が無くなる寸前の両足に力を入れ、ふらつく足で重心を整えた。
こんなことで倒れてしまったら管理者としては失格だろう。しかも、この社の巫女なんかにこんなところを見られたら馬鹿にされるに違いない。
閉じている目から光が視認できた。陽が昇り始めたようだ。
廊下からは誰かが走ってくる足音がかすかに聞こえた。
「あれれ? 千鳥ちゃんなにしてんの?」
千鳥はその気の抜けたような声を聞いた瞬間魔力を止め、それと同時に怒りが湧き上がってきた。
「ねえ? ちょっと聞いていいかな? 今の言葉から察するに私のこと忘れてたってことかな? どういうことか教えてもらえますかぁ? 双芽桜時さーん??」
少し考えた後何かを思い出したようで硬直している巫女姿の桜時がそこにはあった。
「わ、わ、わ、私は忘れてなかったですよぉ!! 二度寝なんてしてないですっ!!」
「本当に? 嘘だったら今日の夜に一戦交えてもらおうかな? しかも、もし二度寝なんてしてたらサンドバッグくらいにはしてみようかな??」
思いっきり睨みつけてみると千鳥の顔は青ざめていくのがわかった。
「正直忘れてました!! 二度寝もしてました!! 正直に言ったのでさんサンドバッグにするのだけはやめて下さぃぃ」
おどおどしている桜時に安心出来ないような思いっきりの笑顔を見せて千鳥は答えた。
「じゃあ、正直に答えてくれたお礼に今日一戦させてあげる。 あと、あんたはサンドバッグというより早すぎで当たらにくいサンドバッグって感じじゃない? まあ、当たらないものに当てんのが楽しいんだけどさ」
桜時は一戦のことはもう気にしていないようでそれどころか、当たらないサンドバッグという言葉を褒め言葉だと感じたようでずっとその言葉を連呼していた。
近くの柱時計を見ると午前5時を回っていた。時間には余裕があったが制服に着替え、学校の準備をするために陽気な桜時は無視して自室に向かうことにした。