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管理都市の魔女  作者: 白葉 四季香
【第2章】貧家の令嬢
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魔導師達の見解


「ふむむむ、その執事さんは一体何なのですか? 魔導師の確率大だと思ったんですけど」

 放課後の五希とのことを話し終えると桜時は1つの疑問に差し掛かっていた。それは私からもずっと疑問に思っていたことだった。

 それは五希の家にあった本の持ち主である使用人のヘンは一体何者なのかということだった。

「私もずっとそこで悩んでいたのよ、本の収集が趣味だからといってもあんなに御三家の本を集めるのは並の人間には不可能だと思うもの」

 桜時も同意見のようでこくこくと頷いていた。

 私と桜時の考えとしてはあれほどの本は人間が集めるのは不可能、なので魔導師ではないのかということだった。もしもヘンという男が由緒のある名門の魔導師の家柄ならばそれらの本は代々受け継いできたという話になる。一般の魔導師では持たないほどの情報量でもあったからだ。

「でも不思議なことにあの家には魔導師の気配はなかったわよ。 しかも機械魔術の独特な空気も五希にしか感じることはなかったわ」

「じゃあ千鳥が魔力に探知できなかったとかはないんですか?」

「何、私を馬鹿にしてるわけ? いくらこの時代の空気は魔力が濃いせいで魔導師の見分けがつきにくいからといっても私は魔導の腕は上なの。 桜時とは違って10メートルくらいの近さのヒトなら人間か魔導師かの区別くらいはつくわよ」

 少し強く反論したおかげで桜時は言い淀んでいる。


 確かにこの時代の空気は異常だ。黒の霧には高魔力を含まれており、機械魔術師だって魔力の粒子を放出する。しかも機械魔術を使える人間は現人口の半数はいると聞いたことがある。

 黒の影が現れる前は黒の霧がなければ、機械魔術すらも開発されていない時代だ。その時代にはどんなに魔力の少ない魔導師でも100メートルほどまで近づけば見つけることは可能であったと聞いている。

 だが、今の時代は魔導師同士を発見することは困難となっており、管理者の仕事として魔導師を探しに行くことが多いこともあり訓練はしている私でも10メートル程まで近づかなければ確実な結論は出せないのだ。


 しかし使用人のヘンからは魔力は少しも感じられず、しかもあのお屋敷からも結界が張られているわけでもなかった。

 名門の魔導師であったのなら、高魔力を持つ者だろう。

 魔力量が多いのなら自ら発する魔力も高く、人間に見つかり殺される危険があるため住居には必ずといっていいほど結界が張ってある。結界はこの神社は勿論、滅多に帰ることのない自宅にも張ってある。


 そういうこともあり、あの使用人は魔導師ではないと考えられた。

「それに、もしもヘンというヒトが魔導師なら一般市民である五希の使用人にはならないと思うわよ」

「どうしてですか? 魔導師だって人間に尊敬することだってあるじゃないですか」

「確かに尊敬はするかもしれないけど下につこうとは考えないと思うわよ。 魔導師ってのはいつでも人間以上の力があると思っているものなの、人間なんかの下にはつかないわ。 私だって人間の下につくなんてごめんだもの」

 千鳥の考えを聞いても桜時は納得することはできなかったようで、不満そうな顔をした。

「言われてみれば私も無理ですけど、人間の下につこうと思う変わり者も世の中にはいるはずです」

「そんな魔導師はいないのよ。 私は色々な魔導師を見たことあるけどそんな考えを持つ者なんて誰1人いなかったわ。 どんなに人間思いの魔導師だって下にはつこう思わないし、ましてや使用人になるのなら1人で生きていた方が楽でいいもの」

「そういうものなのでしょうか……」

「そういうものなのよ。 魔導師ってのは」

 桜時は相変わらず不満そうだが、一旦その話題は切り上げることにした。

 これ以上その話を続けても答えは出ることはない。何故なら、答えなんてものはその問いには存在しないからである。

 魔導師は普通の考え方や変わった考え方であっても人間には絶対服従はしない。だが、それはなんの利益もないという場合のみだ。

 もしも人間の下につくことで何かの利益になるのならつく可能性もあるのかもしれないが、その場合も本心では絶対服従はありえない。

 もちろんヒトの存在としての上か下かの問題で、学校や職場での先輩や上司というものということではない。

 そう考えれば上か下かなんてものははっきりさせることはできない。言えることはどのことを基準としてそれを決めているかだからである。

 基準というのはヒトそれぞれ考えるものは違う。

 桜時に話したのは魔導師目線での考えにすぎない。人間は魔導師よりも多種多様な考えを持っている。ヒトの存在の強さを基準に考えることしかできない魔導師から考えれば少し憧れてしまうところもあった。


「話が逸れてしまったので戻すけど、御三家の能力についてまず話すわよ」

 桜時は待っていましたと言うかのように拍手をしている。

「御三家ってのは……」


ーーーーピーンポーン


 千鳥が話し始めたちょうどその時に滅多に鳴ることのないインターホンの音が響いた。

「こんな時間に誰かしら。 桜時、出てきなさい」

「大事な話中なんですからもう無視でいいじゃないですかぁ。 居留守に一票です」

 出る気がないようで桜時は寝っ転がり始める。

「こんな時間の客人なら知り合いだと思うわよ。 運が良ければ紫雨かもしれないわよ?」

「今すぐ行きます!」

 桜時は秒で起き上がり廊下を駆けていった。

 ほんと、考えが変わりやすい……。


 1分程で戻ってきた桜時はいかにも残念そうに力無く歩いて来た。少なくとも紫雨では無かったようだ。

「で、誰だったのよ? さすがにこの時間に参拝客ではないでしょ」

「参拝しに来たのかは知りませんけど見たことない方でした。 千鳥を呼べとのことでしたよ」

「私なの? こんな時間に珍しいわね」

 千鳥は少し面倒に思いながらも玄関へと向かう。

 開けっ放しにされた引き戸の先には確かに見たことのある姿があった。だがそれは見覚えのあるだけで友達でなければ魔導師の知り合いでもなかった。

「こんばんは、 夜分にお邪魔してすみません。 管理者・・・の樋掛千鳥様」

 その顔は知り合ったばかりの五希の家の使用人、ヘンであった。

 だがその姿は屋敷にいたときとは違い、ふざけたような喋り方ではなく冷たいような声をしていた。


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