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管理都市の魔女  作者: 白葉 四季香
【第2章】貧家の令嬢
26/30

無自覚


ーーーーコトン


 目の前にはバラの模様で飾られたいかにも高そうなカップが置かれ、前にいる五希の斜め後ろには先程の使用人が立っている。

 部屋全体には本棚に囲まれていてどれも見た事のないような本ばかりだ。

 当の五希はその雰囲気を壊すかのようにソファでごろごろとし始めた。

「ふぁー。 今日も疲れたね、やっぱり帰ったら横になるのが一番だねぇ」

「人前でそんなにだらけてはいけませんよ、五希様。 後でマッサージをいたしますので今は座っていてください」

 それを聞いて五希は何故か凄く怒りだす。

「それはやめて! ヘンなんかが私に触ったら怒るわよ、あとそろそろ出てって貰えないかな?」

 ヘンと呼ばれる使用人は五希と千鳥に向かってお辞儀をし、部屋を出た。

 千鳥は今の会話を聞かされて一気に疲れが襲ったように感じた。

「で、色々聞きたいんだけれど、五希がお嬢様だったなんて聞いてないわよ?」

「お嬢様なんて照れるなぁ」

 五希はソファから立つと本棚を端から順に見ていく。

「お嬢様なんてものじゃないし金持ちでもない、ただの一般人だよ」

「じゃあなんでこんなに家が大きくて、ヘンさん?でしたっけ。その使用人までいるのかしら」

 そう聞かれると昔の記憶を探るように頭を抱える。

「うーんと、ヘンは確かに使用人だけど、この家はごく普通だと思うなぁ」

 要するにこの家で生まれたからそれが日常で、金持ち感覚はないということだろうか。

 五希は金持ちであるにも関わらず外では凡人と同じだと思っているのだろう。

 まぁ、それはそれでいいかと考え、それ以上の詮索はややこしくなると思われたためやめておくことにしよう。


「それにしても意外よね。 見た目お嬢様オーラないんだもん、五希。 しかもこんなに本に囲まれている家にいるなんて」

「まぁ、私はお嬢様だなんて1ミリも思ってないしな。 しかもこの本とかは全部ヘンのやつのだからね」

 千鳥は金持ちの自覚ないというのは地味にイライラくるものがあった。


「あとさ、このカップに入ったミルクは何?」

 その質問がなんだかわからないかのように五希はきょとんとした。

「それははただのホットミルクだけど?」

 真夏とは言えないもののこの初夏の季節にホットミルクというのはどうなのだろうか。

 せめてミルクではなくコーヒーや紅茶ならわかるが。

 こういう抜けているところが五希らしさなのかもしれない。



 ふと何かの本を見つけたかのように五希はこちらに持ってきた。

 そこに置かれた本は表紙の英語を見るに外国の本のようだ。

「千鳥ってさ、悪魔とかっていると思う?」

 そう言った後、また本を探すべくソファから立つと本棚をきょろきょろとする。

 1分も経たないうちに戻ってくると、分厚い数冊の本をふらふらとよろめきながら五希はそれらを机に置く。

 千鳥は唐突の質問に言葉を迷いながら答えた。

「多分いるんじゃないかしら。 100年程前は魔法という概念すら幻の存在に扱われていたのだから、現在無いものとされている悪魔でもいつかは現れるかもしれないからね」

 五希はその答えに納得しないのかつまらないような悲しいような微妙な顔をした。

「じゃあ逆に聞くけど、五希は悪魔はいると思うの?」

「いない……。 もしいたとしてもそんなものいちゃいけないと思うよ」

 五希のあまりの即答ぶりに驚くが、言っていることは正論だった。


 古来から悪魔という存在は災いをもたらすものとされてきた。悪魔は人を死に導き、富を滅ぼし、最後には世界をも変えてしまう力を持つ。

 だが、世界を変えた悪魔など今の今までに存在していない。

 しかも祓魔師(ふつまし)だっているのだからそんな災厄が起こることはないだろう。

 悪魔という存在自体は曖昧なものだが悪魔の部類とされているものは幾つかある。鬼や悪霊なんかもその一種に入る。

 魔女狩りが始まった当時は魔導師は悪魔の部類に入っていたようだが、人間に紛れて生活していたということもあり良かったのか悪かったのか今では魔女という扱いだ。


「千鳥は何故そこまで悪魔が嫌いなのよ?」

尋ねると机に積んだ本を一冊引き抜きパラパラとページをめくる。

「ただひたすら嫌い。 そういうオカルトみたいなものは昔から嫌いだからかな」

「そうなると魔女も嫌いってこと?」

 五希はページをめくる手を止めて悩んでいるようだった。

「好きか嫌いかって言われたら微妙だけど、別に私自身は嫌う理由ないからなぁ。 あっ、悪魔とか霊とか倒してくれるなら株は上がるかな!」

「そうね」

 五希の本当に嫌いなのだろう。だが、悪魔は信じているかのような言い振りだった。

 恐らく悪魔がいないと思っているのは嘘で、いるのならさっさと退治して欲しいということなのだろう。

 

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