いっときの休息
退屈な午前の授業が終わり、そしてまた退屈な午後の授業が始まる。
その間にある昼休みは生徒も友人との談話や教室や食堂での食事などで授業での緊張感はすっかり抜けて開放感をも感じる。
そんな中、千鳥は授業以上の緊張感を持って目の前の紫雨を見つめる。
「食事中を呼び出して何なのです、千鳥さん。 私はお腹がすきました」
紫雨はきょとんとした顔で千鳥を見る。
「私だって昼食べてないわよ。 それより重要なことだからそれくらい我慢しなさい」
その言葉がよっぽど悲しかったのかうぅぅと鳴いた。
意外にも管理者としての紫雨は冷静であり冷徹である。管理者自体がそういう性格の人が多いものだが紫雨のそれは中でも見本に挙げられるくらいのものである。
だが普段の紫雨は管理者のときの冷静と冷徹さは一切なくまったりとした性格をしている。間逆のようなドジっ子ぷりである。
「それでその重要の話とは何なのです?」
「手紙に書いてあった御三家のことで聞きたいのだけど会議のときはどういう決定になったのよ?」
紫雨は思い出すように顎に人差し指を立てて空を仰ぐ。
そこで「あっ」と大声を出し、思い出したようだ。
「御三家方が本当に潜んでいるかは不明だから一旦出てくるまで待つことになったのです」
管理者会議でも千鳥の考えと同じ結果が出たようだ。
「じゃあなんでそんな話題が出たかはわかる?」
「えーっと……、確か七区の管理者の魔導の力がとか言っていたと思うのです」
「七区の管理者って御影よね。 あの爺さんなら一目でそのヒトの年齢とか性格とかどんな魔導使うかとかデータとして見える魔導を持つって聞いたことあるわ。 その力なら御三家がいるってのも真実味を増してきたわね」
「あの方は戦闘向きではなさそうですが凄い魔導師さまだったのですね!」
「おぉー」と言いながら紫雨は関心していたが、管理者会議に出ているものなら管理者全員の能力は知っているはずたまが初めて聞いたかのようだった。
しかも木枯は最年長である魔導師でもあるのだから魔力もかなりあるだろう。
「でも昨日来てたのはそのお爺さんではなく、お弟子さんだったのです。 お爺さんは忙しかったようなのです」
「弟子って確か爺さんの子供よね、特に用事が無かったから伝言を弟子に頼んだだけじゃないかしら」
聞いていたのか聞いていないのかいきなり紫雨はハッと顔を上げて手を叩いた。
「思いついたのですが千鳥さんも弟子を会議に連れて行けばいいのではないのです! そしたら欠席にはならないのです」
「まず弟子を作るのが面倒だわ。 教えるのもめんどくさそうだし。 作る気にはならないわよ」
その千鳥の言葉に何故か紫雨はきょとんとしていた。
「桜時は弟子じゃないのです?」
そのとき桜時のことを紫雨に言っていなかったことを思い出した。そしてしょうがなく説明を始める。
「桜時は弟子は弟子でも一区こ前管理者である私の母の第二の弟子よ。 母が死ぬまでに一人前になれなかったから桜時は一生弟子止まりなの」
「でもそういった場合は子供が師となるはずではないのです?」
そういえばそんなものもあったと思い出しながら続けて答える。
「母はあんな面倒な弟子を私に渡すの嫌だから母が死んだら一人前の格上げなしの契約をつけたとか言ってたわ」
「そんなことできるのです? なんだか桜時が可哀想な感じがしてきたのです」
桜時に同情してか紫雨も悲しそうにしていた。
「話しを戻すようだけど、紫雨は弟子とか作る予定はないの?」
「何を言っているのです、私にはもういるのですよ?」
「…………は?」
驚きの答えについ千鳥は固まってしまった。
「紫雨、弟子の意味わかってるわよね?」
「そんなのわかってるのです! 魔導を教えて師を守ってくれる存在なのです」
本当に弟子を持っていたようだった。
「それで、どんな子なのよ?」
「身長高くて、美人で同い年の子なのです!」
その言葉を聞いて何処と無く安心してしまった。
「なんか想像するに紫雨の保護者みたいにしか私には思えないわ」
「保護者でも何でもいいです、ちゃんと弟子なのです! いつか合わせてあげるのです」
紫雨にとっては自慢の弟子のようで私に話せて気分が良かったようだった。
ちょうどそのとき昼休みの終わりのチャイムがなった。
「ぐぅ~……、結局昼ごはん抜きだったのです」
「私も食べてないんだからね。 午後の授業の休み時間にでも食べなさい」
「……はーい、なのです」
しょんぼりしながらも紫雨は楽しかったようで満足そうに教室へと帰っていった。