放課後の約束
いつもでさえ早い千鳥の登校時間だったが今日はそれよりも一段と早い登校だった。
その甲斐あってか昨日とは違い、朝の仮眠ができた。
部活すらもまだ始まっていないようで校庭にはちらほらと今部員が集まり始めるところだった。五希もまだ来ていないようだった。
「おっはよぉー、ちぃーどぉーりぃぃ! ……ってなんで寝てるんだぁ」
頭に来る声と頭に乗る重さ、頭にくる怒りの全てが同時に起こり、重さをのけ払うとともに全てを振り落とす。
壁にかかった時計を見ると7時半を回っていた。五希が学校へ来ている時間だった。仮眠時間は30分程度だが十分に眠れたような感覚があった。
千鳥の頭にしがみついた五希は後ろに転げ落ちたがそんなことも気にせず話し出す。
「なんで千鳥は毎日寝てるんだ? 私に構って欲しいからなのかな!」
「そんなわけないでしょ」
千鳥は思いっきり椅子を後ろに引き、机と椅子の間に五希をはさむ。
お腹にきたようで「ぐはっ」という声を出すがそれでも気にせず喋りだす。
「それよりなんで今日はこんなに早いんだい? 私ももっと早く来ないといけなくなるじゃないか」
「五希は早く来なくていいわよ!」
何故か逆ギレされたのでキレ気味で返す千鳥に五希はいつもの千鳥だぁとにこにこしていた。
「で、何で早いの?」
千鳥は少し考えてから本当の理由を隠して答える。
「ただの気まぐれよ。 うちの巫女が五月蝿いからしょうがなくって感じよ」
五希は聞いたわりにふーんと興味がないかのように返し、無視しとけばよかったと後悔した。
早く来た本当の理由というのは、昨日の魔女狩りでできた血痕の残りはないか見たり破損を調べたりと昨日の大通り近くの廃墟の駅へ行ってから学校へ来たからである。
破損は基礎魔導でどうにかなる程度で血痕は昨日の夜中に降らせた雨で綺麗さっぱりなくなっていた。
「ついでに私も聞きたいことがあるのだけど、五希は一区に住んでるんじゃなかったの?」
突然の質問に五希の頭では疑問がうかんでいるようだった。
「私は一区に住んでるよ。 ここ数年はずっと一区に住所あるしね。 なんでそんなこと急に?」
「ちょっと昨日の夜に二区に向かう橋で制服姿の五希を見てね。 買い物か何かに行ってたってことね」
「まぁ、そんなとこかなぁ」
そして五希はまた質問を返してくる。
「じゃあさ、なんでそんなこと千鳥が知ってるのかな? 昨日あそこら辺にいたのは12時は過ぎてたと思うけど私を見たってことは千鳥もいたんだよね? 優等生失格になるよ!」
「優等生なんかじゃないわ、ただ機械魔術が得意なだけよ。 橋にいたのは五希と同じような理由よ」
五希はじーっと千鳥の顔を見つめたあとに「なーんだ」と言いながらつまらなそうにした。
本当の理由の魔女狩りのことは一般市民である五希には知る由もないだろう。
「折角千鳥の本当の顔を知ることができると思ったのにぃー」
「そんなものはあるわけないわよ!」
恐らく今の嘘が気づくことができないのなら五希の言う裏の顔という魔導師兼管理者であることに気づくことはできないだろう。
「それはともかく、さっきの話しで思い出したんだけど千鳥って私の家来たことなかったよね?」
「そりゃ、場所も知らなかったんだから行ったことないわよ」
五希は場所は知っていると思っていたようで家の大きさや形、色などを言いながら手で表現するがやはり行ったことはないようだった。
「じゃあ、今日遊びに来て! どうせ帰宅部なんだから暇でしょ」
断ろうと思ったが神社に戻っても五月蝿い桜時がいるだけだと思い出し、仕方なく頷いた。
外を見ると部活の生徒は校舎に向かって来るのが見えた。
もう8時近くになっていた。
「あれ? そういえば今日は朝練が終わるのが早いわね」
「昨日雨だったからじゃないの? もうクラスに帰ろうと思ってたけどこれじゃ千鳥はまた寝ることはできないね!」
千鳥の不幸に喜ぶ五希は嫌な笑顔で自分のクラスへ帰っていった。
他人の不幸は蜜の味というのはまさにそのことだとしみじみ思った。