矛盾
骨をも切り裂くその一振りは不思議なことに体の深部には届かず、紫雨は素手で刀身を掴んでいた。
「………なッ!?」
痛みを感じない紫雨にとってこの薙刀の感覚はただの鉄の棒と同じようなものだとはわかってはいた。
だがそれは感覚なだけであって、金剛石さえ切り落とすほどと言われた薙刀の刃では腕は吹っ飛ぶはずだ。
その光景を見てからも何度も首、足、手、胴などの身体の節々まで切り刻むかのよう薙刀を振るが、どこも腕と同様に骨を折ることさえなかった。
何度を傷を入れるが、鵺はやはり戦うことはせずに刃を受け続けているだけだった。
「この世界に生まれてから自分なんかがどうして生きているのかわからないんです。 此方は今日、家に帰ってからよく考えたのです。 生きていて得なことはあるのかと。 それで結論は、生きていて良いことなんてありませんでした。 なので、管理者様が殺さなければならないのならそれに応えようと思いました。 なのでどうか殺してください。 その方が嬉しいです」
鵺の言葉に力が少し緩む。この鵺という少女はただ人から必要とされたいだけなのだった。
でももうその意思は変えることはできず、再び力を込めて刀身を首に当てる。
「じゃあ悲しいあなたにはすぐに殺してあげないといけないわね。 その矛盾の状態だってすぐに断ち切ってあげるわ」
鵺は痛みを感じず、そして内部は硬い。そこまでくると鵺は人間でなければ魔導師でもないのらな魔物のように感じてしう。
やはり刀身は肉は切り裂きはするものの骨はヒビすらもつく感覚はなかった。
「…………ならッ!」
千鳥は彼女の周囲にガラス片を撒き、光の反射で身体を切り裂き、よろめきながらその場に崩れる。
やはり、彼女は魔術による攻撃力だと身体の深部にでも通すことができるようだ。
「最初から魔導を使っておけば良かったわ」
薙刀の刀身に魔力を込める。
刀身は光を放ちそのまま彼女に振り下ろすが、柄の後部に重さを感じ体制が崩れた。
その重さの方を見るとそこには桜都がバランス良く立っていた。
「何、邪魔しているのよ。もうとどめなんだから眺めて待ってなさい」
千鳥は思わず頭に血か上って怒り気味で聞く。
「いやぁ、殺すのに不満とかはないんだけどちょっと変な気というか魔力?みたいなものを感じてね」
呑気な喋り方で話すますます怒りがわいてきた。
千鳥の雰囲気から怒りが桜都にも伝わったようで微妙に上がっていた口角が下がっていき、屋上から下りてきた理由を話し出した。
「その子多分なんだけど私と同じような固有魔導持ちだと思ってね。 もしもそれが当たって殺したら危ないと思わない?」
真面目な顔をして結局はふざけた問だった。
「さすがにそれはないと思うわよ。 だってその子の能力は痛覚麻痺なのよ。 ちなみにそう思った根拠は何なのよ?」
疑いの目で桜都を睨む。
「だからそれは気とか魔力とかから。 あとは勘とか…………ってうわぁ!?」
薙刀を立てて桜都を落とす。
「そんな理由じゃ信じられるわけないでしょ!」
千鳥は改めてそこでへたれこんだ、鵺に向かいに刃を向ける。
「あと声とかっ」
後ろからの桜都の声に今まさに動こうとしていた足かとまる。
そして続けて言った。
「あの子の声には多分魔力が含まれてる。 それはこの都市を壊すくらいのもの」
「じゃあますます殺さなきゃいけないじゃない」
「でもあの子は使い方を知らないってことは死後に使われる魔導の可能性もあると思わない? そう考えたら本人が固有魔導を知らないのは理由がつくでしょ」
千鳥はどこにぶつけることもできない思いとともに薙刀を血振りし、小道の奥に向かう。
「鵺をつれて先に神社に帰りなさい。 でも痛覚麻痺の可能性もあるから処分対象なのには変わりないわ。 私は紫雨を送りに行くわ」
「了解! ちなみにこの血だらけの場所はどうすればいいかな?」
千鳥の思いも気にもせずに桜都のふざけた喋り方はますます殺せなかった怒りが湧いてきた。
「適当に人除けの札でも貼っときなさい。 明日までに雨でも降らせとくわ」
適当に答えると桜都は親指を立ててこちらに合図する。
千鳥はその様子を見た後、真上に飛躍し紫雨の元へと向かった。