第2の管理者
ジリジリと蝉の声が周囲の杉林から耳を塞ぎたくなるほどに響いている。
鵺との一戦の後、夜の襲撃の準備を備えるためそそくさと神社へと帰っていた。
朝にこの石段を下ったときは今の上りよりは楽であったし、そこまで暑くもなかったため体力は余裕にあったはずだ。
「ふぅ……、やっと神社ね。 この階段、本当どうにかして欲しいわ」
千鳥は額の汗をタオルで拭き取るが、その汗は登り終えてからもなお流れる。
神社の横にある平屋の家へと暑さから逃げるようにドアへ向かう。
「おかえりなさいです。 おじゃましておりますです」
そこには桜時でなければ参拝客でもない同じ制服を着たにこやかに笑う見慣れた姿があった。
「それで何で紫雨がいるのかしら」
「ただの暇つぶしなのです」
紫雨はにこにこしながらそう答えた。
見た目中学生かそれ以外程度の低身長で童顔の少女、郡上 紫雨はこう見えて千鳥より一つ上の学年で同じ学校に通っている。
放課後までは千鳥が魔導師であること唯一学校内で知っている人物であり、同士だった。
そして、彼女もまたB5-2区の管理者である。
「まぁいいじゃないか! 紫雨様はこんなにも可愛らしくて、小さくて、そして幼女なんですから! 眺めてると私の目の保養にもなりますしね!!」
「桜時、何度言ったらわかるのです! 私は幼女でも小さくもないのです」
可愛らしいという部分は嬉しかったのか訂正しない紫雨である。
桜時は紫雨にずっとくっついているまま、ここに来た理由である本題を切り出した。
「今日の午後に管理都市B5 魔導管理者会議がありましたのはご存知ですか?」
「そういえば最近手紙が多いと思ったらその知らせだったのね。 まあ、そんなもの見ないで捨ててたわ。 どうせ見てもそんなもの行く気は毛頭ないですけどね」
この部屋でただ一人真剣な空気に包まれている紫雨に適当に答える。
「会議に千鳥さんが来ないのはいつものことですが、それよりもこの1区に魔導師がどこからともなく発生したというのはご存知ですか?」
「今日学校で会ってきた転校生ってやつなら見たけど発生したってどういうことかしら?」
紫雨ハッとして鞄から写真を出した。
「その子はこの写真の子ですか? 身長150前後くらいの子なのですが」
その写真には先程戦った並木 鵺が写っていた。
「えぇそうよ、たしか名前は並木 鵺。固有魔導は不明、精霊魔導は風。 魔導とによる脅威はないわ」
「魔導による、ということは魔術が千鳥さんより上ということですか?」
「違うわ。 今日の午前中に魔術の授業があったのは知っているわよね?」
紫雨はコクリと頷く。
「そのときにその子が戦っているのを見たんだけれど魔術は最後まで使うことはなかったわ」
「それはどういうことなのですか?」
紫雨は驚きを隠せないようだ。
「相手の子は並木 鵺に攻撃を何発も当てた。 でも並木 鵺は避けることもなく全身から血が流れても倒れることはなかった」
紫雨は千鳥と同じように痛覚麻痺の力があるかと聞いてきた。
「触覚麻痺ではなく、痛覚麻痺は魔導だろうと私は思う。 その理由はしっかりこの目で見てきましたからね」
紫雨はうーんと唸りながら首を傾けていた。
その後は放課後のことを全て話した。