森から都会へ
先程までは十数人はいた見物用の部屋も今や、いつも通りの僅かな人しかいない部屋へと戻っていた。
千鳥と五希がその部屋に戻り、目の前の練習場の風景は焼き払われた森から大きなビルが建つ都会の風景へと変わっていった。
今まさに、次の試合が始まろうとしていたのだ。
「それでどこの試合見に行く? 自分の試合が終わっちゃえば今日は暇だから、見学ならどこでもいいぜ?」
この高い位置からだと隣の練習場を見ることも出来た。
周りを見るに何度も見たことあるような試合ばかりで、そこまで面白い試合はしていないように感じた。
「面倒だからここでいいわ。 転入生って子も気になるしね」
千鳥は準備室から出るときに言われた小さい少女の話を思い出していた。
「確かに転入生は気になるな。 千鳥が目をつけているようだし?」
「別に目をつけてはいないわよ」
五希はその言葉を聞くなり「だろうな」と言ってガラスの戦闘場を見た。
次の試合はビルが立ち並ぶような現代風なエリアのようだ。
私達が戦っていたときとは違い、空は暗く夜のようだった。
「ちなみに聞くけどその転校生さんの属性って何なのわかっているの?」
五希はため息混じりに首を横に振る。
「雰囲気から見れば水とか風とか使ってそうだけどな。 あの無口なクール系って感じで」
話しているうちに2人の魔術師が練習場のガラス扉から入ってきた。
様子を見るに友達だから一緒に戦いたいだとか、同じくらいの力を持つから興味を持ってだという意味での戦闘ではないらしい。
恐らく、戦う相手がいないから適当に決めたってとこだろう。
「転校生じゃない方のやつはどれくらい強いの?」
「1回戦ったことあるけど私が勝ったぜ! 圧勝ってわけではないけど余裕と言えば余裕だったな!!」
「あらそう……」
千鳥の返しによほど怒っているようで隣でギャーギャー言い始めた五希は無視することにした。
確かに自分から聞いてその返しは私自身どうかと思うが……。
神速を持つ五希であっても学年ではトップに入るだけで校内順位となると目立たなくなってくる。そこから考えるとその生徒は学年真ん中ら辺の順位、平均くらいとなるだろう。
「それでその真ん中ら辺の子……。 ミドルさんは何の属性なの?」
「一応自分のクラスの子だから少し言わして貰うけど真ん中だからってミドルさん呼びは可哀想だと……。 まあ千鳥の言うミドルさんは私と同じ水の魔術師。 でも私と違ってあの子はさっき千鳥が言ってた氷の使い手だ」
このエリアは恐らくミドルさんが選んだ。
寂しげに感じる夜のエリアと氷の魔術というのはどことなく合っているように感じられた。
天井近くの数字は0になり、魔術戦が始まる。最初に仕掛けたのはミドルの方だった。
魔術は自立飛行型の魔術で氷で相手をどこからでも追うようになっているようだ。
驚くことに転校生の少女はそれを避けるわけでもなく、ただ眺めているだけのようだった。
即勝負が着いたかのように思えたが天井の数字は止まっていない。
「……なッ!?なんだよ。 あの子少しも動いてないじゃないか…………」
隣の五希も呆気にとられているようだった。
「まさか、あの子は…………」
千鳥は五希には聞こえない声で呟いた。
その時確かに、気配のようなオーラのような何かに電気のようなものが走ったのだ。
20メートル以上先のからでもわかるほどに赤黒い液体が地面を点々と濡らす。
全身の傷から血液が流れ出しているというのに、無表情で静止する少女は人間ではないというのは私には想像がついた。