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弟のジジョウ  作者: NES
6/6

弟のジジョウ (6)

 ヒナ姉さんが歩きながら携帯をかける。どうやら無事に繋がった。

「ああ、ハル?うん、シュウ見つかった。カイも一緒」

 そうか、ハル兄さんもカイのことを探してくれてたのか。確かにさっきヒナ姉さんの携帯を見た時、時刻はもう昼を過ぎていた。昼食に戻らなかったから、心配をかけてしまったのだろう。

 雑木林の雰囲気は、ハトが飛び去るのと同時に一変した。急に色々な音が耳に入ってきた。風の音、川の流れる音、遠くを走る車の音、野球の歓声。本当に、今まで聞こえていなかったのが不思議なくらい、辺りは雑多な音に包まれていた。

 いつまでもハトの消えて行った空を見上げているカイとシュウに、ヒナ姉さんは明るく声をかけてきた。

「さ、終わったから帰りましょ」

 何が終わったのか、何があったのか。訊いてみたい気もしたが、カイはそれを訊く気にはなれなかった。多分、カイでは理解出来ないことなのだと思うし。それに、ヒナ姉さんの笑顔は、質問をするなと言っていた。

 ヒナ姉さんは不思議な人だ。以前にも似たようなことがあった。理屈で説明出来ないことが起きた時、ヒナ姉さんは何処からともなく現れて、何をしたのかも判らないうちに解決してしまった。カイの知らない何かを、ヒナ姉さんは知っている。

 ヒナ姉さんは、とても素敵だ。

 前を歩くヒナ姉さんの背中を見て、カイは改めてそう思った。ヒナ姉さんは、ハル兄さんの彼女、恋人。二人は両想いで、お似合い。そんなことは解ってる。

 それを踏まえてなお、憧れずにはいられない。実際に目の前でこんなことをされて、心に響かないなんて、そんなことはあり得ない。横を歩くシュウも、ヒナ姉さんのことを眩しく見つめている。

 ヒナ姉さんは、とても素敵だ。本当に、心からそう思う。

 だから悔しい。ハル兄さんが、妬ましい。この気持ちは残念ながら、消せそうにない。ハル兄さんは、カイにとってはずっと目標だ。そして。

 多分ずっと、追い付けることは無い。それでいい。

 雑木林を抜けた。あんなに苦労したはずなのに、出る時はあっさりだった。ようやく広い空を拝むことが出来た。太陽が高い。まだ昼過ぎだ。大冒険をしてきたつもりでも、一日の半分しか過ぎてない。

 シュウの頭を撫でる。シュウがカイを見上げて、にやっと笑う。探検隊、無事帰還。お疲れ様でした。トラブルには見舞われたが、二人には勝利の女神が味方してくれた。パーカーにジャージ姿の女神様。

「おーい」

 土手の上から、ハル兄さんが手を振っていた。早い。ハル兄さんはフットワークが軽い。ヒナ姉さんの所にはすぐに駆けつける。これも、カイには勝てないことだ。

 ハル兄さんはヒナ姉さんの傍に駆け寄った。感動の抱擁、とかはしない。雑木林に入るなら一声かけろとか、そんな話をしている。肝心の捜索対象の方は後回し。まあ、カノジョの心配が第一か。仕方が無い。

 とりあえず、怒られる覚悟はしていた。シュウを危険な目に合わせてしまったことは確かだ。ヒナ姉さんは許してくれた。ハル兄さんはどうだろう。責任は認めてる。罰があるなら甘んじて受けよう。

「カイ、ずっとシュウから離れなかったか?」

 ハル兄さんは、そう訊いてきた。どう応えようか。カイはシュウを見下ろした。シュウは力強く頷いた。ヒナ姉さんを見る。ヒナ姉さんも、笑顔で頷く。

 囮になろうとした時、ヒナ姉さんを助けようとした時、シュウだけを逃がそうとしたことはあった。そこにはシュウを置きざりにする意思は無かったと、そう思う。カイは、小さく「はい」と返事をした。

「そうか、ならいい」

 ハル兄さんの声と顔は、兄のそれだ。カイはまた一つ苦しくなる。ハル兄さんはそういう人。カイには判っていた。

「俺はそれでいいと思う。怒るのは母さんの仕事だ」

 許されるのはつらい。怒られる方がまだマシだ。特にハル兄さんに許されると、それだけで負けた気になる。カイはまだ、ハル兄さんには遠く及ばない。ハル兄さんは、カイの兄さんで。カイは、弟だ。

「カイ、シュウを守ってくれてありがとう」

 ヒナ姉さんの言葉も、カイの胸に突き刺さる。やめてください、ヒナ姉さん。うまく出来なかった。カイだけでは守れなかった。それなのに、そんなことを言わないでください。苦しくなる。自分の未熟さが、嫌になる。

 カイとシュウを助けてくれたのはヒナ姉さんだ。カイは、どうしようもないくらい弟だ。ハル兄さんとヒナ姉さんに守られて、助けられている、弟だ。

 シュウが手を握ってくる。シュウ、ありがとう。でもごめん、今はそっとしておいてほしい。カイはシュウのお兄ちゃんでありたい。だから、もっと強くならないといけない。カイは、兄になりたい。

 土手の上の道を、四人でぞろぞろと歩いて帰路に着く。そう言えばここをみんなで歩くのは久しぶりだ。ハル兄さんとヒナ姉さんが並んで、楽しそうに話をしている。この二人のこんな光景も、もうずっと見てきた。いつものこと。そして、これからもこのまま。

 まだカイが小さかった頃、二人に挟まれて、手をつないでこの道を歩いた。ハル兄さんとヒナ姉さんの顔を交互に見上げて、ずっとこのままでいたいと願った。今のカイは、二人と手をつなぐこともしない。ヒナ姉さんに助け起こされた時の感触を思い出す。暖かい、ヒナ姉さんの掌。久しぶりの、ヒナ姉さんのぬくもり。

 ふと、ハル兄さんが足を止めて河川敷を見下ろした。ヒナ姉さんの顔を見て、にやりと笑う。

「ほら、ヒナ、崖だぞ」

 崖?確かにここの土手は他と比べて少しだけ傾斜がきついが、崖というのは言い過ぎだ。芝が綺麗に生えているし、その気になれば普通に歩いて上り下り出来るだろう。

 ヒナ姉さんはむっ、と頬を膨らませた。ちょっと珍しい表情で、カイはどきっとした。

「いいの、崖なの。あの時の私には、これはもう崖だったの」

 そうか、ここなのか。

 ハル兄さんが、自転車で転んだヒナ姉さんを助けた場所。崖なんて何処にあるんだろうと思っていたが、その謎がようやく解けた。何のことは無い、家のすぐ近くにある河川敷の土手だったんだ。

 崖から転落して擦り傷だけとか、ハル兄さんが背負って登ったとか、怪しい話だとは思っていたが、種を明かしてしまえばそんな話だった。カイはぽかん、としてしまった。

 まあそれでも、ヒナ姉さんを背負って自分の家まで運んだハル兄さんは大したものだ。土手とはいえ、他の場所よりも傾斜がきつい。小学三年生のハル兄さんが、どれだけの覚悟を持ってヒナ姉さんを探し、背負ったのか。カイには解らない。そして、絶対に追い付けない。あまりにも大きな、ハル兄さんの背中。

 ヒナ姉さんにとって、ここは崖なんだ。ハル兄さんが助けてくれた、大切な場所。今の二人が始まった、大切な思い出。ヒナ姉さんが笑う。笑顔が眩しい。ハル兄さんのことが好きだって、その想いが通じてくる。

 二人の想いに割り込むなんて、そんなことは出来ない。いや、してはいけない。カイはヒナ姉さんのことを、とても素敵だと思う。それは、ハル兄さんのことを好きなヒナ姉さんだ。ヒナ姉さんが輝いて見えるのは、ハル兄さんと一緒にいるから。ヒナ姉さんのことを探してくれる、背負ってくれるハル兄さんに、好きでいてもらえるから。

 胸の奥が痛い。少しでもハル兄さんに近付きたい。ハル兄さんを追い越したい。そう思っているのに。ハル兄さんを追い抜くことは出来ない。追い抜いた先には、きっと何も無い。それがもう、判っている。そこには、ハル兄さんも、ヒナ姉さんも、いない。あるのはカイの自己満足。自分を満たすだけで、ヒナ姉さんの気持ちなんて、欠片も無い。

「ヒナ」

 シュウがヒナ姉さんを呼んだ。ヒナ姉さんが振り向く。

「ヒナは、ハル兄ちゃんと結婚するの?」

 ハル兄さんが驚いて絶句する。カイも思わず固まった。シュウ、すごいね。今度一緒に空気の読み方を勉強しよう。シュウにはまだ難しいかもしれないけど、今後のためにもやっておいた方が良い。

 ヒナ姉さんも流石にこれにはびっくりしたみたいだった。でも、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべて。

「そうだなあ、ハル次第じゃないかなぁ」

 こんなことくらいで、ヒナ姉さんは崩れない。やっぱり、ヒナ姉さんは素敵だ。

「僕、カイ兄ちゃんの本当の弟になりたい」

 ああ、そういうことか。シュウはカイのことをとても慕ってくれてる。

 シュウの訴えを聞いて、ヒナ姉さんとハル兄さんは顔を見合わせた。そして同時に笑う。息がぴったりだ。

 馬鹿にされたみたいに感じたのか、シュウが不機嫌な顔になった。シュウ、あの二人は天然だ。残念なことに、いちいち気にしてたらこっちが持たない。

 シュウの言葉は嬉しい。カイも、シュウのことを本当の弟だと思っている。それでも更に、名実共に本当の兄弟になりたいだなんて、兄貴冥利に尽きるってものだ。

「大丈夫だよ、シュウ。ハル兄さんがヒナ姉さん以外の女の人と仲良くなるなんて、あり得ないから」

 割と本心だ。ハル兄さんの周辺を見る限り、ヒナ姉さん以外の女性の影なんて微塵も無いから。断言出来る。

 それに、ここまでやっておいてヒナ姉さんを裏切るとか、親族として許せるものではない。そんなことをしたらハル兄さんは勘当、絶縁間違いなしだ。

「んだよ、それ」

 ヒナ姉さんが爆笑している。ハル兄さんも迂闊には反論出来ないだろう。ないとは言いたくないだろうし、かといってあるとも言えまい。やれやれ、このぐらいは言わせて貰わないと。こっちだって色々と苦い思いをさせられてるんだ。

 ハル兄さんは、もっとヒナ姉さんの存在に感謝するべきだ。きっかけは確かにハル兄さんがヒナ姉さんを助けたことかもしれない。でも、その後ハル兄さんのことをずっと慕い続けてくれたのは、ヒナ姉さんの方だ。二人の関係は、どちらかの一方通行では完成出来ない。お互いの想いがあってこその、今の二人なんだ。

 兄さん。ヒナ姉さんを大事にしてあげてください。大切にしてあげてください。カイの分まで。お願いします。

「んー、そうかもしれないけど、ハルが私に飽きちゃった、っていうのも考えられるよね」

 ヒナ姉さん、何ですかそれは。

 そんなことは許さない。弟として、絶対に。

 自分からヒナ姉さんを助けて、全てを背負って、勝手に飽きるとか、いい加減にも程がある。ヒナ姉さんは冗談で言っているのかもしれないが、そんなの決して許されることじゃない。それこそ家から追い出して、二度と敷居をまたげなくしてやる。

 しかし、もし仮にそうなったとして、どうなるんだろう。ヒナ姉さんはきっと悲しむ。そして、ハル兄さんの弟であるカイを、ヒナ姉さんはどう思うのか。顔も見たくない?ハル兄さんの代わりにする?どちらにしてもヒナ姉さんに対して失礼で、想像すらしたくない出来事だ。

 ・・・嘘だ。考えたことはある。ハル兄さんがいなくなれば、と。カイだって考えなかった訳じゃない。ただし、結論はいつも同じ。ヒナ姉さんが好きなのは、どこまでもハル兄さんだ。身勝手な妄想であっても、カイはハル兄さんの存在を認めないわけにはいかない。あの雨の日に、ヒナ姉さんの全てを背負ったハル兄さんに、カイが及ぶことなんて、この先絶対に無い。

 ヒナ姉さんが、カイの方を見た。そして。

 ふわっと、カイの肩を抱いた。

「そしたら私、カイと結婚して、ハルに一生嫌味を言い続けてやるんだから」

 ヒナ姉さんの匂いがする。甘くて、心をくすぐる匂い。顔が近い。髪の毛が触れる。胸が高鳴る。聞かれてしまう。気付かれてしまう。

 やめてください、ヒナ姉さん。

 胸が、苦しくなる。ヒナ姉さんを感じて、喜んでいる自分が嫌になる。こうやって触れてくれることが、嬉しい。たまらなく嬉しい。嬉しいのに。

 カイの気持ちなんて、きっとヒナ姉さんには少しも届いていない。

「・・・それ、俺の意思を完全に無視してますよね」

 カイは、かろうじてその言葉だけを吐き出した。

 ヒナ姉さんの気持ちは、清々しいほどに真っ直ぐハル兄さんの方だけを向いている。カイのことなんて、何も。

 ヒナ姉さんは、「ごめんごめん」と言ってカイから離れた。そして、ハル兄さんの傍に戻る。ハル兄さんは不機嫌そうに見えるが、別にカイのことなんて気にもしていない。見てもいない。ハル兄さんもまた、その気持ちはヒナ姉さんの方だけを向いている。カイの存在は、二人にとってはただの弟。そう、カイは、ハル兄さんとヒナ姉さんの、弟だから。

 弟。カイはヒナ姉さんにとっては、弟だ。シュウがカイにとって弟であるのと同様に。カイは、ヒナ姉さんにとっては弟。どうしようもなくらい未熟な、子供。

 ハル兄さんにとってもそう。弟。ヒナ姉さんにからかわれるだけの子供。嫉妬の対象にすらならない。なれない。

 ハル兄さんに追い付きたい。いや、追い付けなくてもいい。

 せめて、ヒナ姉さんに、一人の男として見られたい。男として扱ってもらいたい。意識してほしい。

 カイがハル兄さんの弟である以上、それは叶わない願いかも知れない。いや、きっとそうだ。小さな望みだけど、それは叶えることは出来ない。叶えてはいけない。

 カイは、ヒナ姉さんのことが好きだ。その想いは、ずっと封印してきた。今でも、隠し続けている。

 優しくて綺麗なヒナ姉さん。ハル兄さんの隣で明るく微笑んでいる。幼いあの日、ハル兄さんの手を強く握るヒナ姉さんの姿が、カイの記憶から消えてくれない。カイは、あのヒナ姉さんをとても素敵だと思ったから。ハル兄さんを離さないという、硬い意思を感じさせるヒナ姉さんが、カイの憧れだったから。

 ヒナ姉さんはカイとも遊んでくれた。カイを可愛がってくれた。自分の弟、シュウと同じように。同じ弟として、カイのことをとても大事にしてくれている。カイは、ヒナ姉さんのことが大好きだ。姉さんとしてだけでなく、一人の女性として。間違いなく、カイの初恋の相手はヒナ姉さん、ハル兄さんの恋人だ。

 この想いを、表に出してしまったらどうなるだろう。ヒナ姉さんを困らせて、ハル兄さんを困らせて。

 シュウはどうなる。もしヒナ姉さんと疎遠になってしまったら、カイのことをこんなに慕ってくれているシュウとの関係は。

 いや、ひょっとしたら歯牙にもかけられないかもしれない。笑い飛ばされて、それで終わりにされてしまうかもしれない。何言ってるんだ、カイは。ハル兄さんならそう言う。ありがとう、カイ、ごめんね。ヒナ姉さんは困ったように微笑むだろう。

 そうやって誰にも理解されないまま、カイの想いは溶けて消えてしまう。こんなに苦しいのに、まるで冗談か気の迷いみたいに、あっさりと捨てられる。カイの気持ちなんて、そこにあっても無いものと何ら変わらない。

 空を見ると、ハトが飛んでいた。あの時放たれたハトだろうか。

 カイの中にも、檻に閉じ込めたハトがいる。あるがままに、このハトを放ってしまえば、楽になるだろうか。

 このハトは一度檻を出てしまえば、遠くの空に飛び立って、二度と戻ってくることは無い。大切に思うなら、檻の中に閉じ込めておくしかない。いや、永遠に外に出すことは出来ない。

 あるがままに生きることは難しい。ヒナ姉さんの方をちらりと見る。ハル兄さんと楽しそうに話している。ヒナ姉さんの幸せはそこにある。このハトを放しても、誰も喜ばない。幸せにならない。カイ自身でさえも。

 ハル兄さんとヒナ姉さんが仲良くするほど、カイは苦しくなる。ヒナ姉さんへの想いと、幸せそうなヒナ姉さんの姿が、相反した感情を掻きたてる。そして、二人の弟を演じる自分が嫌になる。良い弟であるのと同時に、一人の男として認めてほしくなる。

 ヒナ姉さんは、冗談としか思ってないかもしれない。ハル兄さんの気を引くためのダシにしかならないのかもしれない。

 だとしても、カイにとって、それはとても大切な、小さな望み。万に一つの可能性。希望という名の、檻の中のハト。

 いつか陽の当たる世界に羽ばたけることを夢視て、そっと鍵をかけておこう。

 今のカイに出来ることは、それだけ。ヒナ姉さんと、シュウと、ハル兄さんと。みんなの幸せを願って。一人、心に鍵をかける。


 カイ兄ちゃんは、ヒナのことが好き。

 シュウには判っていた。それを言葉にすることは出来なかった。だって、ヒナはハル兄ちゃんのことが好きで、ハル兄ちゃんと付き合ってて。

 カイ兄ちゃんは、ヒナの弟だから。

 カイ兄ちゃんは弟になりたくない。ハル兄ちゃんの弟であることはやめられないけど、ヒナの弟にはなりたくない。カイ兄ちゃんは、ヒナと同じ場所に立ちたい。

 いつも、カイ兄ちゃんは苦しそうな顔をしている。シュウもつらくなってくる。ヒナは、カイ兄ちゃんの気持ちを知っているのか、知らないのか。いつも、カイ兄ちゃんをハル兄ちゃんの弟として扱う。それは間違ってないのかもしれない。ただ、それはカイ兄ちゃんには、とてもつらいことだ。

 ハル兄ちゃんと楽しそうに話すヒナ。その後ろを、苦しそうな顔でカイ兄ちゃんが歩く。シュウはカイ兄ちゃんと手をつなぐ。

 ねえ、カイ兄ちゃん。

 シュウは、カイ兄ちゃんの味方だよ。シュウはカイ兄ちゃんに、本当のお兄ちゃんになってほしい。そうなってくれるのが、一番嬉しい。

 ヒナはハル兄ちゃんと結婚するのかもしれない。でも、カイ兄ちゃんと結婚する可能性だって、無いわけじゃないよね。そっちのやり方でも、シュウはカイ兄ちゃんの弟になれる。それぐらい、シュウにも解ってる。

 ねえ、カイ兄ちゃん。

 可能性があるなら、それでいいじゃない。ひょっとしたら、もしかしたら、万が一。起きるかもしれないって、希望があるのって良いことだと思う。信じることが出来るって、素敵なことだと思う。

 シュウは、子供だからよく解らない。うまく言葉に出来ない。また、胸の奥がもやもやしてる。

 ねえ、カイ兄ちゃん。

 シュウは、ヒナの弟をやめることだけは、出来ないんだ。

 どう頑張っても、シュウはヒナの弟。ヒナは、シュウのお姉ちゃん。眩しくて、綺麗で、カッコいい、お姉ちゃん。

 ねえ、カイ兄ちゃん。

 可能性があるなら、信じてみようよ。シュウのハトは、絶対に外に出せないんだから。




読了、ありがとうございました。

物語は「ハルを夢視ル銀の鍵」シリーズ「流れ星ヨリ疾ク」に続きます。

よろしければそちらも引き続きお楽しみください。

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