2-1
ーーメリウス本部ーー
「まさか、被害がこれ程までとはな……」
「このままでは、壁の中で暴動が起きかねません、司令!!」
何かの騒動があったのか通信機器の音が行き交い、人の発する声は鬼気迫るものであった。
「ワイバーンの出撃できる部隊が三部隊あります。司令、許可を!!」
「ワイバーンの出撃を許可する」
「はいっ! では、被害が発生している第二区画に三部隊とも向かってください」
アナウンスを行う女性は各部隊に指示を行うために耳元に付いているマイクに向かって、この状況に合わせて最適な指示を出していたのだがーーーー。
「待て。第一、第二種を保護するために、行かせるのは一部隊だけだ」
状況が理解していないのか、はたまた頭のイカれた愚者なのか、司令は的確で最適解の指示を一喝した。
「待ってください!! それだと、第二区画の適合者達はどうなるんですか?!
それに、第一区画には被害は発生してないじゃないですか。
私には、司令の意図が分かりません!!」
正義感に満ちた若い女性の怒声のような叫びも隊長には届かないようでーーーー
「命令通りの指示を出せ。第二区画に行くのは一部隊のみだ」
「そんなの、私は認めません!! 被害が発生してるのは第二区画なんですよ!?」
司令官の命令を無視し、女性は部隊の出撃命令を出したがーーそれは一発の銃声音により遮られる。
「行かせるのは一部隊のみだ。いいな」
奇怪な光景なのは、その場にいた他の者達は顔色を一つも変えず、案山子のように自らに与えられた指示を実行していた。
端から見たら、状況を悪化させるだけさせた当の本人はーー大きな大義を成したかのように椅子の自らの体重を任せ、美酒を窘めていた。
「全ては、神のためにーーーー」
この場に、もっとも不釣り合いなーーそんな言葉を残しながら。
*
注射を打った後の妹は金切り声のような呻き声を上げて、苦痛に悶えていた。
僕はその声を聴く勇気もなく、ただ目と耳を塞いて心を殺し、現実を許容しようとしなかった。
けれど、それもすぐに治まり、魂の抜けた抜け殻のように硬直して立ち尽くしていた。
僕が竦んだ足で妹に駆け寄ろうとすると、それを遮るかのように全身を紅く汚した神徒がピピッと甲高い機械音を上げて、目の前に立ち塞がる。
怯え、目の前にいる、この世で一番大切な妹を助けることを忘れ、神徒に殺されることだけが僕の思考を支配していた。
ーー僕は死ぬのか。
不思議と後悔もなく、神徒から振り下ろされる斧で刻まれるのも、妹を見捨てた自らの罰だと諦めたがーーーー。
振りかざされる一撃は僕ではなく神徒であり、人を無差別に殺していた兵器は両断されて、瓦礫と成り果てていた。
「お兄ちゃん!! 大丈夫?!」
「あぁ、僕は平気だよ。それより……」
妹はいつも見慣れている安堵した表情で、僕に駆け寄ってくる。
だけど、その光景に唖然とした。状況が全く理解できなかった。
僕が助けようとした本人に、僕が助けられるなんて。