フタリ
あの後、国家からの依頼を耳にした。シャルロットは参謀であると同時に、国家と二人を繋ぐ連絡役も担っている。
五年前。二人は国家から離脱する代わりとして、国家直属の何でも屋を営むことを義務づけられた。その為、二人にとって、この依頼は断れない最優先事項だが、二人は気が進まないらしく、依頼に対して曖昧な返事のみ。
そして、シャルロットが喫茶店を後にした途端、レナードはため息を漏らした。
「今日の夜、村レグドルで騎士団に協力しろねぇ…嫌な予感がするな」
「そうだね。あんな貧困の村に騎士様達が訪れる用事なんてあるとは思えないし、俺たちに依頼するってことは、相当の戦力が必要な何かを起こそうとしてるのかもしれない」
「相当の戦力…まさか、レグドルを戦場にしようなんてことはないよな?」
「さぁ、どうだろう。ありえない話ではないけど、俺には、あの騎士様達がそこまで表立った行動するとは思えないね」
「…だよな」
「でも、何かが起こることは確かだ。今日の夜、レグドルでね」
静かな店内の中、レナードは「あぁっ、くそ」と苛立ちを露わにする。
「まぁまぁ、落ち着いて。ほら、あんまりストレス溜めるとハゲちゃうよ」
「ハゲねぇよ!。言っておくが、俺はまだ十九だし、お前より若いんだからな」
「あぁ、ごめんごめん。見た目に比べ、あまりに老けてみえるからさ」
「責めて大人びてると言え。お前は遠慮って言葉を知らないのか?」
「だって、本当のことだもん。子供なら子供らしい話でもしてなよ。危険なことは俺に任せてさ」
レナードはアベルの言葉を聞くと、ガタンッと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
「…ふざけるな。お前は自分の主が誰か理解もできてないのか?」
そう言いながら、レナードはアベルを睨み、胸倉を掴みかかる。
「理解してるさ。俺の主はレナード・オースティン、あんただけだとね」
「なら、子供扱いするな」
自分よりも年下の少年に刃向かわれているのにも関わらず、アベルはヘラヘラと笑みを浮かべる。その反応に対し、レナードは諦めて胸倉を離した。
「…年寄り扱いも嫌、子供扱いも嫌。我儘過ぎるんじゃない、俺のご主人様?」
「うるさい。お前も少しは考えろ」
レナードはもう一度深いため息を漏らし、先ほど座っていた椅子に腰をかける。
「別に考えたって答えはでないよ。だから、あんたが助けたいなら助ければいいし、国家から反感を買いたくないなら協力すればいい。ああ、見捨てるっていう選択肢もあるね」
「お前、相変わらず最低だな」
「だって、あんたが助けようが、見捨てようが、誰もあんたを褒めないし、責めない。結局は赤の他人なのに、頑張る必要性が分からないんだけど」
アベルは口を尖らせ、テーブルの上に腰をかける。その行動は二十代の男性には思えないものだった。
「見返りだけが欲しいなら、俺は今でも騎士団にいるはずだ。ここには居ないし、お前だって助けてない」
「…だね。本当にあんたはお人好しだ。ま、俺は結構気に入ってるけどね 」
「そりゃどうも。というか、その言い方だと、国家に反感を買わずに助ける方法でも思いついたのか?」
「いや、全然」
「全然って…少しは考えろよ。俺達は国家直属の何でも屋、言うなれば国家の犬だ。国家に逆らったら、王宮に連れ戻されちまう」
「別に、俺の王は女王マリアじゃない。あんただ」
そう言って、アベルはレナードに顔を近づけ、フッと笑みを漏らして言葉を口にした。
「俺はあんたの命令しか聞かない。だから、あんたは命令するだけでいい。自意識過剰かもしれないけど、俺は自分に出来ないことはないつもりだよ」