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 悠斗の彼女、野村葵が死んでしまったことで、悠斗は心に大きな傷を負う。もちろん、葵と友達だった果音も悲しむ。自暴自棄になる悠斗を救ったのは、やはり果音だった。葛藤を抱えながらも、支えてくれる果音に悠斗はだんだんと惹かれていってしまう。深い悲しみを2人は乗り越え、より強い絆で結ばれていくのである。


 いや、少女漫画なのに殺されるって……今から考えると割とダークな内容だったな。ひと昔前に流行ったケータイ小説とかでありそうな設定だし。無難にライバル役が実は超性格悪くてそこから救い出すみたいなストーリーの方が良かったような。いや、病気で若くして死ぬとかじゃないだけマシかも。病気は流石に防げないからね。

 でももう少し、早く思い出せていたらなあ、とは思う。そしたら、護身術を習うなり、もう少し対抗策をとれていたかもしれないのに。今の私にできることと言えば、防犯ブザーを持ち歩くことぐらいしかできない。

 殺されるつもりはさらさらない。前世ですら早死にだったのに、これ以上もっと早く死んでどうするのよ。私が死ななければ果音ちゃんと悠斗が結ばれなくなる、としてもだ。

 けど、最近親が家にいない時に限って無言電話があったりするし、確かに時々誰かの視線を感じるのは事実。刻一刻と野村葵が"死ぬ時”は近づいている。

 もちろん、警察には行った。けど、ストーカーの相手は誰だかわからないし、まだ被害もたいしたものではない。そんなことでは警察も動きようもないだろうし、警察もまさか私が殺されるとは思っていないのだろう。

 手っ取り早いのは悠斗と別れることだろう。ストーカーは嫉妬に狂って野村葵を殺す。他の誰かのものになるくらいなら、殺してしまおう。そう考えたから。だから、悠人と今すぐにでも別れれば、そうすれば多分、ひとまずの難は逃れられる。けど、それじゃあ何の解決にもならない。ストーカーが捕まるわけではないし、常に殺されるかもしれない恐怖と戦わなくてはいけなくなる。いつ殺されてしまうか、その正確な時期もわからなくなる。


「ねえ、葵ちゃん! 今度はあれ乗ろうよ!」


 時は流れる様に過ぎ、8月。夏休みの最終日。

 悠斗と果音ちゃんは私が知っている漫画の通りに行動し、漫画通りに私も果音ちゃんと仲良くなった。漫画と同じ展開。

 そして今日私は、漫画にあったように、悠斗と果音ちゃんと、そして悠斗の友達の遠藤(えんどう)(つばさ)と、遊園地に遊びに来ていた。


「メリーゴーランドって……ホントお子様だな、果音」


 呆れたように溜息をつく遠藤くん。そんな遠藤くんに「そんなことないもん」とそっぽを向く果音ちゃん。もう、可愛いなぁ。


 実はこの遊園地に遊びに来たのは、遠藤くんのためである。

 遠藤くんは果音ちゃんに一目惚れしており、それに目敏く気づいた悠斗がこのダブルデートを提案したのだ。果音ちゃんは悠斗のことが好きなのになあ。罪な男。

 そしてなんでも、最後にはこの遊園地の大型観覧車にどうにかして2人っきりで乗り、その中で果音ちゃんに告白をするのだ。「悠斗なんて諦なよ。俺の方が君を幸せにできる」と。

 そう、果音ちゃんに迫る男とは正にこいつのこと。顔は好みだけどなんかおしいんだよなあ、遠藤くんは。

 とか思っているうちに、あっという間に日は暮れ、気付けば最後に観覧車に乗ろうということになっていた。

 どう乗ろうかと言う話になった時、遠藤くんはこそりと果音ちゃんの耳に囁く。


「ほら、俺達は邪魔者みたいだから」

「う、うん……。わ、私は遠藤くんと乗るよ!」


 ちょっと泣きそうな顔をしながら先に遠藤くんと観覧車に乗る果音ちゃん。本当、良い子だなあ。


「じゃ、俺達も乗ろう」


 次に来た観覧車に悠斗は私の手を優しく引きながら乗せてくれた。

 悠斗は、私が座ったのとは真向かいの席に座る。そして悠斗は「疲れたなあ」と背もたれに寄りかかりながら声を漏らした。ギギ、と観覧車が少し揺れる。私は「うん」と頷きながら悠斗の顔を見た。

 女の子が騒ぐのがわかる、端正な顔立ち。長い睫毛。高校生になって少し髪を茶色く染めた。

 初めて会った時のことを思い出す。

 中学二年生の頃。私は少し、クラスで浮いていた。前の人生のことがあったから、何となくクラスの子たちが幼稚な気がして、馴染めなくて。休み時間はいつも一人で本を読んでいた。そんか私に、「何でいっつもそんな難しそうな本読んでんの?」と声をかけてきたのが、悠斗。

 クラスの子たちにほとんど話しかけられないような私に何の躊躇いもなく声をかけ、笑って、話して、友達になってくれて。悠斗といる時は、自分の前世のことなんて忘れられた。普通の中学生でいられた。気づいたら、好きだった。


 野村葵が死ぬのは高校1年生の10月。日にちまでは残念ながら覚えていないが、文化祭の準備で遅くなった帰り道、襲われるはずだ。となると、残されるタイムリミットまで、あと少し。悠斗と一緒にいられる時間も、あと少しかもしれない。


「…………葵」


 観覧車がゆっくりと頂上へと登って行く中で、悠斗が急に声を発した。私は窓の外へとやっていた視線を悠斗へ向ける。思っていたよりも、悠斗は真剣な表情をしていた。


「何か、悩んでるじゃないの?」

「…………え?」


 まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。

 漫画の記憶を思い出しても、悠斗の前ではいつも通りを心がけていたし、漫画では悠斗は野村葵がストーカーされている、ということに気づいていなかったから。


「最近、俺といても楽しくなさそうだし、何か考え込んでる時もあるし。何か心配事でもあるんじゃないか、って思って。それとも……」


 悠斗の綺麗な瞳が私を覗き込む。悠斗は膝の上にあった私の右手を、温かくて大きな、自身の手で触れ、握った。


「……俺のこと、嫌いになった?」


 不安そうに私を見つめる目。とくん、と私の心臓が音をたてる。

 いつも通りを心がけていたんだけど、なあ。

 私は“野村葵”じゃない。野村葵とは違う。だから、少しボロを出してしまっていたのかもしれない。


「そんなこと、ない。悠斗のこと、嫌いになるなんてありえない」


 私は私の手を握っていた悠斗の手を握り返してそう言いきった。

 私は、悠斗のことが好き。それは心から思っている。愛おしいと思うし、できることなら、ずっと一緒にいたいと思っている。それは、私が“野村葵”だからそう思っているんじゃない。私が私だから、そう思っているんだ。

 でも、悠斗は? 私が“野村葵”だから好きなんじゃないの? そういう運命だったから? 私は、


「そう、よかった」


 ホッとしたように悠斗は息を吐く。私と彼の手は繋がれたまま。


「……もうすぐ頂上だね」


 遠藤くんはちゃんと告白できてるのかなあ。

 私がそう言えば、悠斗は「あ、そうだ」とニヤリと笑った。


「ありきたりだけどさあ、葵」

「え、なあに?」

「観覧車の頂上でキスしたカップルは、永遠に結ばれるとかって、よく言うよね」


 気がついたら悠斗の顔が目の前にあって、暖かい悠斗のそれが私の唇に触れていた。


 伝わる彼の体温。ふわり鼻をくすぐる太陽みたいな彼の匂い。

 ーー悠斗は、ここにいる。

 ここは、漫画じゃない。現実だ。悠斗も、私が前世で見た漫画のただのキャラクターなんかじゃない。

 だから、私は殺されない。


 漫画の中の野村葵も、果音ちゃんが告白されている傍ら、こうして悠斗とキスをしたのだろうか。けど、悲しくも野村葵の未来は途絶えてしまった。

 私は、そうなりたくない。そうならない。ここは、現実だ。未来なんて、変えられるから。


 私は、繋がれたままの悠斗の手をぎゅっと握った。


 ーー本当は、少し、怖い。

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