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 ずっと昔、凄く好きな少女漫画があった。


 主人公の笹原(ささはら)果音(かのん)は内気で人見知りな女の子。小学生の時に引っ越してしまった幼馴染の篠宮(しのみや)悠斗(ゆうと)にずっと片想いをしつつ、中学を卒業しても彼のことを忘れることができなかった。

 ところが高校の入学式。果音と悠斗は偶然にも再会を果たした。

 悠斗は、果音が知っているよりもずっと格好良くなっていて、頭も良く、運動神経も良く、性格も良く、あっと言う間に学校の人気者となった。果音は何年ぶりにも会ったそんな悠斗にどう接したら良いのか戸惑いつつも、悠斗の優しさに触れ、より悠斗に惹かれていくー‥。

 クラスで孤立してしまったり、強力なライバルがいたり、果音に迫る男がいたり、様々な障害があった。だけど2人でそれらを乗り越え、最終的には2人は結ばれ、ハッピーエンドへとなる。王道な感じの、少女漫画。


 そんな漫画があったなあ、と私はたった今、思い出した。

 いやあ、大好きだったなあ、あの漫画。絵も凄く綺麗で、内容も面白くて、果音ちゃんが可愛くて、悠斗くんが格好良くて、もうキュンキュンの連続だったなあ。悠斗くんのお友達の遠藤くんとか凄く知的そうで私のどストライクだったなあ。どうして今まで忘れてたんだろう。あんなに好きだったのになあ。


「葵、どうかした? 顔色悪いけど」

「そう? 気のせいじゃない? ……あ、悠斗のケーキ美味しそう。ね、一口交換しない?」


 そんな私は現在彼氏とデート中である。そう、悠斗ー‥あの、将来的に果音ちゃんと結ばれる篠宮悠斗と。

 悠斗は「いいよ。葵のモンブランも美味しそう」と言って、フォークで私の前に置かれているモンブランを一切れとる。

 なんでこんなことになっているのだろう。私は突然頭の中に流れてきた記憶に混乱した頭を落ち着かせるべく、モンブランとセットになっていた紅茶で喉を潤す。

 どうして私が果音ちゃんと結ばれるはずの少女漫画のお相手、悠斗の彼女で、そして現在、デートをしているのか。それは、まあ、私がー‥野村(のむら)(あおい)だからである。


 小学生の頃から、果音はずっと悠斗のことが好きだった。けど、高校生になった悠斗には既に溺愛する彼女がいた。それが私、野村葵である。

 野村葵は、正統派美少女で、頭も良く、人気者の悠斗の隣に立つにお似合いな女の子。(なんか自分で言ってて痛い子みたいになってるけど、これ漫画にかいてあっただけだから!)

 人見知りな果音は最初葵に苦手意識を抱いていたが、葵と関わるにつれ良い人だと知り、複雑な感情を抱きつつも、仲良くなっていく。

 葵ちゃんに敵いっこない。葵ちゃんと悠斗くんには幸せになって欲しい。

 そう思い、悠斗のことを諦める決心をした果音。そんな最中、ある“事件”がおきるのである。


「ん、葵のモンブラン美味しい。ほら、葵も俺の食べなよ」


 そう言って私にケーキを差し出す悠斗。私は「ありがとう」とお礼を言って悠斗のケーキをとった。


 私には以前から、前世の記憶があった。学生だったのにも関わらず、若くして死んでしまった、前世の記憶が。

 二度目の人生、充実させるんだって決めていた。だから、勉強も運動も頑張って、人には優しくなれるよう心がけて、髪の毛やお肌のお手入れも念入りにやって。悠斗のことも、本当に好きで、後悔なんてしたくなかったから、一生懸命話しかけて、仲良くなって。悠斗から告白された時、凄く嬉しかった。

 だけど私はたった今、思い出した。ここが、漫画の世界だって。私は気づいた。私は、前世で読んだ漫画のキャラクター、野村葵なんだって。

 どうして今まで忘れていたんだろう。私が今日まで必死で生きてきた15年間は、なんだったのだろう。全部、作られたものだった? 私は、決められた道筋をただ歩いていただけだった? どうして、私は、野村葵なの?


「…………あ」


 ふと、目の前に座る悠斗が窓の外を見て声を漏らす。


「どうしたの、悠斗?」


 知っている、このシチュエーション。野村葵が初めて漫画で描かれた場面。

 友達と買い物をしていた果音は、あるカフェの中で野村葵と楽しそうに会話する悠斗を見てしまう。そこで、果音は悠斗の彼女、野村葵の存在を知るのだ。


「いや、なんか幼馴染がいたような気がして」

「幼馴染?」

「そう! ずっと会ってなかったんだけど、偶然同じ高校に通っててさ…………」


 楽しそうに果音ちゃんのことを話す悠斗。

 胸が、痛い。


 私は漫画の中盤。ある事件について思いを馳せる。

 そのまま順調に行けば、果音と悠斗が結ばれることはなかった。悠斗は、野村葵のことが本当に好きだったから。そして、私が悠斗のことが好きなのと同じように、少女漫画の中でも野村葵は悠斗のことが好きだった。2人は愛し合っていたのだ。けど、


 物語の中盤。野村葵は、嫉妬に狂ったストーカーによって、殺されてしまうのだ。

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