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最終話:暁の火炎

世歴一九四二年七月三十日、ミッドウェー諸島沖――

「一番、二番ヨーイ!」

すでに戦闘は始まっていた。先攻は空中戦艦、デストロイアである。

「撃てーッ!」

 艦首の砲塔が咆哮し、巨大な砲弾が撃ち出される。それを横目に鋭いエンジン音を立てながら護衛機が過ぎ去る。

「馬鹿め、あと二時間ほどすれば大型戦艦も到着する。だがその前に一隻残らず叩き潰してやる」

 艦長のガーラーは余裕綽々の様子だ。


 同海域。火炎共和国海軍廻林艦隊旗艦、大和――

「敵空中戦艦主砲発射準備完了した模様!」

「全艦散開!回避しろ!」

 三池が無線通信マイクに向かって叫ぶ。

「敵空中戦艦、主砲発射!」

「回避!面舵一杯、最大戦速!」

 艦長の穂坂も叫ぶ。直後に衝撃。隣を航行中の巡洋艦に砲弾が直撃し爆沈したのだ。

「戦艦までも一撃で葬るとは。なんという破壊力だ・・・・・・」

「敵高速戦闘機接近!」

「精密射撃、弐式空中焼夷弾装填、全主砲ヨーイ!」

 電算機の音とともに砲塔が旋回、

「撃てーッ!」

 しかし、弐式空中焼夷弾を数機の戦闘機がかわして向ってきた。

「護衛機が次々と墜ちて行きます!」

 独軍が開発した初のジェット戦闘機メーサーシュミットHe262は初期のジェット戦闘機にもかかわらず高性能だったのだ。

 次々におとされる共和国戦闘機……しかし、突然白い鉛筆の様なものがHe262に直撃、爆発した。後方を航行中の戦艦浅倉が誘導多目的ミサイル、四式誘導弾で迎撃したのだ。しかしこれで終わったわけでは無かった。

「ソナーに反応あり!数、十!」

 索敵係が叫ぶ。

「各駆逐艦に連絡!潜水艦を近づけさせるな!」

 三池もはじめて見るデストロイアの破壊力に恐怖を感じていた……


 火炎共和国海軍山狭艦隊旗艦、戦艦浅倉――

「敵戦闘機、多数接近!」

「全ランチャー四式誘導弾装填!発射ヨーイ、撃て!」

 巌伊の一言でミサイルランチャーから次々とミサイルが発射されていく……

「デストロイアより強力なエネルギー反応!」

「全艦に打電!回避しろ!」

 直後にデストロイアから光が放たれ、右後方の響艦隊が跡形もなく消え去った。

「全艦へ打電。航空機部隊を突破しデストロイアに総攻撃をしかけろ!」

 そう言って巌伊は悠々と空に浮かぶデストロイアを睨んだ。


 同海域。ナチス・ドイツ第三帝国所属超空中戦艦デストロイア――

「見たか、我がナチスの科学力の粋を集めて作った陽電子砲の威力を!」

艦長のゲオルグ・ガーラーはそう言って机の画面を見た。

「N1、発射準備まだか」

「今調整中です。あと十分で撃てます」

「分かった。その間はガリアスで敵を討つ。一番、二番発射準備!」


 火炎共和国海軍廻林艦隊旗艦、大和――

「全速前進!一番、二番撃て!」

 対空弾を撃ちながら共和国軍は蜂の群れのような航空機部隊を被害を受けながらも猛進する。

「左舷甲板に被弾。後部甲板中破。一番副砲使用不可」

 被害係が被害を報告する。穂坂は表情を変えずにうなずいた。

「戦艦目隈轟沈。空母矢野右舷後方大破、戦線を離脱します」

「敵空中戦艦、主砲発射」

「精密射撃、参式長距離弾装填、一番、二番ヨーイ!」

その時である。一機の損傷した敵ジェット戦闘機が弐式空中焼夷弾の装填された三番砲塔へ特攻した。凄まじい爆発音とともに恐ろしいほどの衝撃が後方から襲ってくる。

「さっ、三番砲塔使用不可!後方に大規模な火災発生!」

「消火しろ!急げ!弾薬庫に火が移れば終わりだぞ!」

 三池が叫んだと同時に穂坂が、

「撃てーッ!」

 轟音とともに撃ち出された参式長距離弾に火がつき、勢いよく天へ昇ってゆく。


 火炎共和国海軍山狭艦隊旗艦、戦艦浅倉――

「ランチャー一、二番誘導弾発射!ランチャー三、四、五番発射準備!」

 浅倉から放たれたミサイルのうちの一発がデストロイアに当たり、爆発する。

「当たった!やっとアイツにダメージを与えられたぞ!このまま全弾命中させろ!」

 巌伊が叫んだ。そのときだ。

「敵空中戦艦に動きあり。敵艦後部ハッチらしきもの開放!」

 巌伊は一瞬考えそしてある結論へたどり着いた。

「ミサイル、砲弾。すべて撃ち尽くせ! 腹がアイツの弱点だ! ランチャー全基、撃てーッ!」


 空中戦艦デストロイア――

 デストロイアではN1が調整を終え、発射態勢に入っていた。

 だが後部ハッチが開放された直後、格納庫へミサイルが突入、爆発。

「どうした! 何が起こったのだ!」

「後部ハッチに直撃弾! N1投下不可!」

 直後、大和の放った参式長距離弾がデストロイアの巨大な船体を貫いた。

「反応炉、炉心温度急上昇!」

 ガーラーの机の画面に映っている緑のデストロイアの一部が赤く光る。

「なんだと! 緊急冷却装置を使え!」

「無理です! ろ、炉心温度がもうすぐ臨界値を超えます!」

「止む終えん、炉心緊急閉鎖! エンジン停止」

 警報が鳴り響き、あちこちで爆発が起こった。

「このようなことで、我がデストロイアは、我が帝国は!!!」

 空中戦艦デストロイアはその巨大な船体を無様に晒しつつ、巨大な火柱、水柱と共に海中に没した。


 火炎共和国海軍廻林艦隊旗艦、大和――

「敵空中戦艦、完全に沈黙! 敵艦隊も撤退してゆきます」

 艦橋に歓声が上がった。三池も穂坂も胸を撫で下ろす。

 救助作業がひと段落して、穂坂は艦橋を後にし、屋上の観測デッキへ向かう。階段を上り、重厚な鉄の扉を開けた。

そこには司令長官の三池が先に海を眺めていた。その顔には深々としわが刻まれていた。紺碧の水面には大量の残骸が漂っている。

「長官……」

 しばらくの沈黙の後、三池が先に口を開いた。

「穂坂君。君はなぜ戦争が起きるかわかるかね」

 穂坂は静かに首を横に振った。

「分かるわけがないだろう。それは誰にも分からない。ただ、分かることは人の中にはなにかがあるということなのだ。喜怒哀楽……。それが複雑に絡み合って社会というものが出来る。そして、そのうちのたった一つがなくなるとき、人々は怒り、憎しみあうのだ」

 暁の海と空は真っ赤に燃えていた。それはまさに、天と地を貫く巨大な火炎のようであった……



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