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第伍話:三国海戦

 世歴一九四二年六月までに大東亜帝国は東南アジア及び豪州北部、シベリア・アムール川流域を制圧。

 世歴一九四二年六月二十日、北米連邦は火炎共和国に宣戦布告。

 

 そして世歴一九四二年六月二五日、太平洋上ミッドウェー諸島沖。北アメリカ連邦合衆国海軍太平洋第六艦隊旗艦、戦艦ノースカロライナ――

 ワシントン海軍軍縮条約の条約開けとともに建造された新型高速戦艦の真新しい艦橋内。そこで紺碧の海を見つめる者がいた。米海軍太平洋艦隊司令長官のハズバンド・キンメルである。

「自分の陣地を自爆させておいて口実を作る。大統領も考えたものだ」

 キンメルは皮肉の表情を浮かべて指示を出す。パールハーバーを攻撃したのは大東亜帝国の工作部隊によるものであったが、ダッチハーバーの爆発事件はタバコから引火した事故との噂だった。

「この作戦が成功すれば私は元帥の座に……」


 同刻、米太平洋艦隊第16任務部隊旗艦、空母ホーネット――

「明日、ここが戦場になるのか……。」

 第十六任務部隊指揮官、レイモンド・スプールアンスは甲板にいた。

「提督、ここにおられたのですか。」

 下士官が駆け寄ってくる。

「何だ?」

「提督、艦長がお呼びです。作戦について最終確認したいと」

「分かった。すぐ行くと伝えてくれ」

 そう言うと煙草の火をもみ消し、頭上に広がる満天の星空を眺めた。この様なところに血を流したくない……それが彼の本心であった。


 翌日、南鳥島沖。大東亜帝国海軍連合艦隊旗艦、戦艦武蔵――

 暁の太陽は反対側に大和型二番艦・武蔵の巨大な影を作り出す。帝国海軍連合艦隊司令長官代理の栗田健男は艦橋でそれを眺めた。

「よし、これからカ号作戦を開始する。準備期間は十分にあったのだ。必ず勝てる。全艦へ打電」

 これから、長い一日が始まったのである……


 一方、火炎共和国首都・火城、軍総司令部海軍司令室――

「岩野レーダーサイトより報告。『ワレ、敵艦隊見ユ』」

 管制官が報告する。

「司令!ミッドウェー諸島沖に米艦隊です!」

「北米連邦に出し抜かれた我々は完全に包囲されましたな、司令。四面楚歌のこの状況、どうなされますか?」

 少し早口で早見が問う。流石の早見も戦力の差を痛感していた。

「第一、第二、第三機動艦隊、廻林艦隊、響艦隊、葛西艦隊、山狭艦隊、防衛艦隊を出せ。最終防衛ラインを半径三百キロ以内へ設定する。敵は一機たりとも国内へ入れるな!」

 久村はいつになく真剣な趣である。そして、傍らのアイスコーヒーの氷はもう溶け始めていた。


 二時間後、大火炎共和国領、マーカス島沖――

 火炎共和国海軍廻林艦隊新旗艦、大和では三池も指示を出していた。

「しかし、君とまた一緒に戦えるとはな」

「光栄です、長官殿」

 戦艦雲河元艦長、穂坂はそのときの戦果で大佐へ昇進。戦艦大和艦長として、再び三池と一緒になった。

「潜水艦、基‐225に打電。中継ブイを設置、また、電算機も試したい」

 電算機とはいわば初期的なコンピューターの仲間である。大東亜帝国から強奪した大和はその日のうちに乾ドックに移され、大規模な改装工事が施された。改修の主な内容は索敵機能の強化と電算機の試験運用、機動力向上だ。特に電算機を載せた理由は他にもあった。

「中継ブイ、設置完了。電波状態良好。異常なし」

「IR-53型電算機、起動!」

「電算機、起動します」

 電機係が電算機に鍵を差込み、各スイッチを入れた。独特の機械音が艦橋に響く。

「広域レーダー、映りました。敵艦隊確認。総数、三十」

 レーダー担当が報告する。成功した。三池はいつもの笑顔だ。

「第二種戦闘配備。とりあえず索敵システムは成功だ。おめでとう。続き、響艦隊に打電。『ワレ、敵艦見ユ』」


 一方、同海域。共和国海軍響艦隊旗艦、大型空母サガミ――

 共和国海軍が建造した初の艦隊型正規空母である。大きさ、性能は帝国海軍空母、大鳳と同等だ。

 響艦隊は航空兵力を主とした艦隊で、他に大型空母三隻、護衛空母二隻、巡洋艦十隻、駆逐艦十三隻の大艦隊である。艦橋内はかなり騒然としていた。そのなか共和国海軍響艦隊司令長官の巌伊だけは冷静だ。

「航空部隊出せ。敵は近いぞ」

「廻林艦隊から入電。『新タニ北東ニ敵艦見ユ』」

 電信係が読み上げる。

「分かった。廻林艦隊に打電しろ。『ワレ、北西ノ敵ヲ叩ク』」

 しばらくしてそれが分かったように前方の廻林艦隊は回頭、北東へ向かった。


 二時間後、遂に戦闘が始まった。

まず、先攻は大東亜帝国だった。次々と新型攻撃機、天山が飛び立っていく。

 また、帝国が独逸(ドイツ)の技術を学び開発した新型機、烈風も参戦した。

 共和国軍も新型艦上戦闘機、裁火を配備。外観は米国のF4Uコルセアそのもので、新型エンジンを搭載し、搭載兵器も新型の25mm機関砲を搭載。機動性と火力がアップしている。そして、また鉄の蚊柱が今度はあちこちで出来ていた。その姿は両軍に恐怖を覚えさせた……


 一方、ミッドウェー諸島沖でも艦隊戦が行われようとしていた。火炎共和国海軍廻林艦隊旗艦、大和前方には空いっぱいに覆いつくす米軍機。

「射程、まだか!」

「入りました!」

 射撃長の矢柳が答える。

「精密射撃、弐式空中焼夷弾装填、一番、二番ヨーイ!」

 大和の巨大な砲塔が旋回した。電算機の処理が間に合わない……

「何をやっている!」

 穂坂が怒鳴る。

「もうすぐ……」

 雷撃機が魚雷投下高度に入った。皆に緊張が走る――

「撃てます!」

 電機係が叫ぶ。

「よし! 撃てーッ!!」

 凄まじい衝撃とともに巨砲弾が打ち出される。雲河とは桁違いだ。しかしそれは米雷撃機が魚雷を投下した直後に炸裂、雷撃機は全滅した。が、

「魚雷接近!数、三四」

 レーダー担当が叫ぶ。多すぎる。

「回避、面舵一杯、全速前進!」

 間一髪のところで魚雷をかわした。直後、激しい衝撃に襲われる。

「本艦及び戦艦雲河に被弾! 被害状況確認中」

 そのとき、戦艦雲河が爆発と共に炎に包まれた。

「弾薬庫に直撃か。被害は」

「右舷後方中破」

 三池は急いで傍らの駆逐艦朝風に戦艦雲河の救助作業をするように言った。雲河には千人以上の乗組員が乗っている。一刻の猶予もない。

「敵爆撃隊接近!」

 一方穂坂は振り向きもせずに対空弾の発射命令を下した。


 数後、そこにはもう米軍機の姿はなかった。なおも炎上する戦艦雲河。

「長官、救助は完了しましたが、もう雲河はだめです。処分を」

「許可する。ただし魚雷処分ではなく、砲撃で処分してくれ」

 三池はそう言って艦橋を出た。穂坂は艦橋に残り、指示を出す。

「目標、雲河。一番用意」

 瀕死の状態にある雲河を沈めるには一発で十分であった。

「撃てーッ!」

 三発中二発が直撃、元廻林艦隊旗艦、戦艦雲河は大爆発して深い海の底へ沈んで行った……

 そして、それを見ながら廻林艦隊の全乗組員が敬礼したのであった……


 同ミッドウェー諸島沖。米海軍太平洋第六艦隊旗艦、戦艦ノースカロライナ――

「何?!攻撃隊が全滅だと?!ええい、残りの航空隊をすべて導入しろ」

 キンメルは思い切った指示を出した。

「しかし、それでは共和国本土へ攻める分が……」

「本国からまた取り寄せればいいではないか。とにかくあの艦隊を倒すのだ。」

火炎共和国(フレーマー)”め。たとえ“ジャップ(大東亜帝国)”のモンスター戦艦を導入したところで我が合衆国が負けるはずが無かろう。いまに見ていろ。叩きのめしてやる!


 同海域、米太平洋艦隊第16任務部隊旗艦、空母ホーネット――

「長官は何を考えているんだ。それでは“フレーマー”が攻めてきたとき対処できないというのに……」

 スプールアンスは溜め息をついていた。

「迎撃機15機を残し他はすべてあげろ。三方向から挟み撃ちだ」


 同刻、南鳥島沖、大火炎共和国海軍響艦隊旗艦、大型空母サガミ――

 敵の猛攻は留まることを知らなかった。

「魚雷接近!」

「取り舵一杯!」

「重巡草津、被弾!」

 艦橋内は各係員の指示や報告が飛び交っていた。

「敵急降下爆撃機接近!」

「回避行動をとれ!」

 さすがに巌伊も焦っていた。その時である。遥か前方に見える敵艦の中で閃光が走り、その直後に後ろにいた護衛空母が大爆発を起こした。

「何が起こった!」

「レーダーによると敵戦艦から砲撃された模様」

「敵も大和級を出してきたか……。全攻撃隊を出せ!」

 命令した直後、今度は敵艦隊から花火が上がった。いや、それは大日本帝国が開発した対空砲弾、零式弾の爆発であった。零式弾も弐式空中焼夷散弾と同じ対空弾だったのである。

「第一攻撃隊全滅!」

「全航空部隊回避!全方向から攻撃しろ!」


 その頃、南鳥島沖。大日本帝国海軍連合艦隊旗艦、武蔵――

「一番、三番に零式弾。二番に通常弾装填。急げ」

 栗田が指示を出す。

「敵攻撃隊接近!」

「回避。副砲一番、二番、撃てーッ!主砲一番、三番まだか!」

「敵機魚雷投下!」

 係員が叫ぶ。

「回避、面舵一杯、最大戦速!」

 魚雷四本が命中し、かなりの衝撃に襲われる。

「左舷後部に被弾!浸水発生!」

「左舷後部隔壁閉鎖。右舷艦尾注水室、注水。第二戦速、面舵一杯。主砲二番ヨーイ。」

 前から二番目の砲塔だけが旋回する。

「撃てーッ!」

 栗田が叫んだ。


 同海域。大火炎共和国海軍響艦隊旗艦、大型空母サガミ――

「敵戦艦砲弾発射!」

「回避、衝撃に備えよ!」

 サガミは間一髪のところで巨砲をかわしたが、その衝撃で駆逐艦と衝突。

「左舷艦首大破!駆逐艦嵐、炎上中!」

「微速前進。戦場から離脱する。護衛に重巡洋艦、鎖駒をつけろ」

 直後、衝撃と爆風で艦橋の硝子が砕ける。

「左舷後部、甲板中破。続いて魚雷接近!」

 巌伊は歯を噛み締める。直後、右からの衝撃。

「右舷中破。浸水発生、第一機関室ほか損傷大!」

「これまでなのか……」

 巌伊は悟った。


 同海域上空――

「小野寺、大丈夫か?」

そう聞いたのは第24航空隊隊長の邨田だ。

「何とか大丈夫だけど、あいつらに落とされるなよ。」

射撃手の小野寺が答える。そのとき、複数の戦闘機突風に混じって一機、旧式の戦闘機烈風が彼らの乗る攻撃機、青天へ向かってきた。


「ええい、前海戦の屈辱、ここで晴らす!」

 大東亜帝国エースパイロット、城島信吾はまるで生き物のように烈風を操り攻撃機を次々と落としていく……

「次はお前だ!」

 城島の烈風は邨田たちの乗る青天に向かって機銃弾を放つ。だが共和国軍の護衛機に阻まれ被弾。離脱を余儀なくされた。

「おのれ……今度こそ貴様らを叩き落してやるぞ! 覚えていろ!!」

 城島はそう叫びながら、戦線を離脱した。


「小野寺、投下準備だ……。小野寺?!」

 そのとき、烈風の放った機銃弾によりすでに小野寺は絶命していた……

「くそ!帝国め!」

 そう言って邨田は青天を操り、敵艦隊へ向かった。


 同海域。大日本帝国海軍連合艦隊旗艦、武蔵……

「戦艦陸奥、艦尾大破!」

「敵機接近!」

「全砲塔、零式弾装填。撃ち方ヨーイ。」

 栗田はいつものように指示を出していた。しかし攻撃機が一機、正面から凄まじいスピードで対空弾幕を突っ切ってきた。

「正面から敵機接近!」

「構わん。撃て」


「小野寺の仇だ!!!」

 邨田が乗る攻撃機、青天は艦橋へ一直線。しかしその直後発射された徹甲弾は青天を破砕。その後、空母サガミの艦首甲板を貫く。だが、直前に切り離された魚雷は武蔵の第二艦橋に直撃。構造物を吹き飛ばした。

 こうして、栗田中将以下艦橋の過半数が死亡。指揮系統が潰れたことで形勢は一気に逆転。ようやく共和国の援軍が到着し、帝国艦隊の壊滅は時間の問題となった。


 時は戻り、ミッドウェー諸島沖。

 共和国海軍廻林艦隊と米海軍太平洋第六艦隊との戦闘はますます激化していた。

 共和国海軍廻林艦隊旗艦、大和――

「敵魚雷接近!」

「回避!」

 穂坂は必死に指揮していた。三池も腕を組んで必死に打開策を考えていた。

 これ以上艦隊に損害を出すわけにはいかない。かと言って後退すれば本土が危険にさらされる……

 そして、思いついた。

「レーダー、敵の位置は?」

「北北東、約三五〇km先です」

「よし。艦長、全速で敵艦隊へ突っ込んでくれ。旗艦を叩く」

 皆が一斉に三池に振り向いた。当然である。こちらは大和を含む戦艦三隻、空母二隻、巡洋艦五隻、駆逐艦五隻。相手は戦艦六隻、空母四隻、巡洋艦五隻、駆逐艦十隻の大艦隊である。いくら大和と共和国が誇る最新鋭の艦が所属する廻林艦隊といえど、到底勝ち目はない。

「しかし長官、それでは犬死にするだけだと思いますが……」

 穂坂も半ば唖然としていた。

「本当に敵艦隊に突撃するのではない。私もそこまで狂気ではないよ。このときのために大和、そして電算機があるのだ」

 穂坂ほか艦橋内の全員が三池の考えを信じる。

「了解、長官。これより敵艦隊へ向かう。最大戦速」


 同海域。米海軍太平洋第六艦隊旗艦、戦艦ノースカロライナ――

「ええい、まだあの艦隊を沈められないのか!」

キンメル苛立っていた。

「スプールアンスは何をやっている!早くあの“フレーマー”を倒せと伝えろ!」


 同海域。共和国海軍廻林艦隊旗艦、大和――

「参式長距離弾を試す。精密射撃、一番、二番ヨーイ」

 砲塔が旋回する、と同時に電算機も独特の音を出しながら計算している。今度は間に合った。

「撃てーッ!」

 穂坂が叫んだ。轟音とともに飛び出した砲弾は直後に火を噴く。参式長距離弾はいわば砲弾というより弾道ミサイルのようなもので、電算機が軌道を計算。最適な角度で撃ち出した直後にロケットエンジンが作動して成層圏に達したところで落下し、目標を破壊する。いくら装甲が厚くても一撃で貫け、しかも高性能火薬で外れても被害を受けるまさに究極の砲弾である。

 三池は九つのそれが天空に消えるまで見守り、次に広域レーダーの動く小さな点を見た。


 同海域、米太平洋艦隊第十六任務部隊旗艦、空母ホーネット――

「そのようなことを言っても倒せないものは倒せないというのに……」

 スプールアンスは嘆いた。

「こちらの動ける航空機はもうたった20機程度しかないんだ」

 当然である。ほかはすべて弐式空中焼夷弾によって落とされているのだから。しかし、その直後、恐怖心そそる不気味な音が近づいてきた。スプールアンスは慌てて外へ飛び出た。そして、上を見上げて絶句した。

「か、回避行動!面舵一杯、全速前進!!」

 スプールアンスが叫んだ。いきなりだったので艦橋内も戸惑ったが、すぐに作業を始めた。

 スプールアンスが見たもの。それは共和国海軍廻林艦隊旗艦、大和が放った参式長距離弾が降って来る瞬間だったのである。直後、凄まじい衝撃が襲ってくる。砲弾の雨が降ってきたのだ。その衝撃はこの船を巨人が揺さぶっているようであった。

やっと揺れが収まり、スプールアンスは辺りを見回す。何人かはすでに起き上がっていた。

「提督、お怪我は」

下士官が聞いてきた。よく見るとあちこちに擦り傷がある。

「大丈夫だ。怪我はない。それより状況を報告しろ。いや、今の命令は撤回だ。まず生存者の救助作業だ。同時にダメージコントロール班を各部署に配置し、被害状況を調べろ。」

飛行甲板は無残に引き裂かれ、窓はすべて割れ、火災による煙が目にしみる。そしてキンメル長官が乗っているはずの戦艦ノースカロライナはかろうじて原型は保ってはいたものの上部は完全に破壊されており、とても長官が生きているとは思えなかった。それに向かってとりあえず敬礼をし、

「我が軍の船は今何隻残っている?」

「今駆動可能なのは本艦と空母サラトガ、戦艦アリゾナ、メリーランド、巡洋艦一隻、駆逐艦二隻ぐらいです」

スプールアンスは考えた。このまま海面に漂っている生存者を一刻も早く救助したいが、被害が大きく、とても乗せられる状態ではない……

「救難信号、打て。白旗も揚げろ」

「提督、前方の敵艦隊より入電です。『ワレ、救助活動ニ協力ス。但シ、空母を一隻譲渡スル事』」

すすにまみれて真っ黒になった通信係が読み上げる。

「それでよろしい。こんなポンコツなど喜んでくれてやる」

しばらくして、火炎共和国海軍廻林艦隊が姿を現し旗艦の大型戦艦が空母ホーネットへ接岸し、怪我人を次々と戦艦内へ運び入れていく……

 そして、スプールアンスは共和国海軍廻林艦隊司令長官の三池と顔を合わせた。始めに握手を交わす。

「ようこそ、我が合衆国太平洋艦隊第16任務部隊へ。私が司令官のレイモンド・スプールアンスです。この度は敵である我が艦隊の救援活動ありがとうございます」

 最初に口を開いたのはスプールアンスだった。

「こちらこそ」

 実は三池とスプールアンスは前に会っていた。

 それは二五年前、ゼネラル・エレクトニック社でスプールアンスが電気工学を習得中だったとき、三池もそこで電気工学を学ぶため留学していた。そしてたまたま同じ班にされ、二人は友となったのである。二人とも再開を機に今までの経緯を話し合いたかったが、この場でそんなことはできるはずもない。

「救助支援活動、ありがとうございます」

 スプールアンスはそう言い残して一番被害の小さい戦艦アリゾナへ向かった。共和国軍は米空母、ホーネットを拿捕し米兵の救助にあたった。この救助支援活動で大勢の米兵士の命が救われたのは言うまでもない。

 これは、その後彼が本国帰り損害責任で軍を解任されるときに言った名言である。

「このことで私の名誉は地に落ちるだろう……。ただ、数百の命が救われるなら私はどんなものでも喜んで渡す。以前、ミスター三池が『命よりも大切なものは何か』と聞いてきた。私はそれに答えられなかった。なぜなら、命よりも価値のあるものは無いからである……」


 世歴 一九四三年六月三十日、アメリカ合衆国首都ワシントンD.C 、大統領官邸ホワイトハウス――

「何?!我が合衆国太平洋第六艦隊が壊滅だと?!」

 大統領のルーズベルトは報告を聞いて絶句した。そのはずである。北太平洋の二大列強国の大艦隊を火炎共和国の艦隊は見事に撃退し本国には銃弾一発入れさせなかったからであったのだ。合衆国海軍長官のウィリアム・ノックスもこれには驚いていた。

 共和国は建国されてからまだ日が浅い。だから日米は共和国を見くびり攻撃。結果として惨敗を喫したのである。共和国の電子工学技術は予想を遥かに超えていたのだ。

「おのれ、大火炎共和国め。我が合衆国を本気で怒らせたみたいだな」

 ルーズベルトはつぶやいた……とその直後、副大統領のヘンリー・ウォレスがドアを蹴破るほどの勢いで突入してきた。

「だっ、大統領、独軍の新兵器“D”が南米に向かっています!」

「何だと?!それは本当なのか?!」

「はい。昨夜、哨戒機がはっきりと見ています。ただし、それ以来消息を絶ちましたが……」

 ルーズベルトは机を叩く。グラスが音を立てた。

「今すぐ陸海空の全指揮官を集めろ!急げ。“破滅の光”を絶対に降らせるな!」

 いかん。これではあの兵器が完成するまでに間に合わんぞ。

「大統領、オッペンハイマー様よりお電話です」

 執事が電話を取り大統領へ渡す。

「君か。あの兵器の開発は順調か?」

 物理学者のロバート・オッペンハイマーは大統領の口調から異常事態だと悟った。

「はい。予定では約半年後に……」

「遅い!それでは間に合わんのだ」

「しかし、そう言われても実験などがいろいろあり……」

「では全米中の物理学者を集めよう。期限は最高でも二ヶ月いや、来月中にだ!」

「……分かりました。必ず成功させます」

 ルーズベルトは電話を切って外を眺めた。日光を反射して光る噴水が美しい。しかし、今の大統領の顔には開戦前の余裕など微塵も無かった……。

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